過去拍手お礼文





私は猫。
毎日のんびり気ままに生活している。

今日は久しぶりに里のほうへ散歩しに行こう。
たまには人間に触れるのも悪くはない。
私はふわりと空中に浮かぶと、空間能力を駆使してとんだ。






「あれ?」

合同任務の最中に不思議そうなナルトの声が上がる。
その声にカカシが反応して「どうした〜?ナルト」と何故だかうそくさい笑みを向ける。
ナルトはそれには反応せずに一点を見つめていた。
そのことに気づいたサスケやサクラがつられるようにナルトの見ている先を追う。

「あら、猫ちゃんじゃない」

今気づいたというふうに声を漏らしたのはいの。
チョウジは任務中だというのにもかかわらず食べ続けているお菓子を口にほうりながら「ほんとだ、気づかなかったよ」と目を細めて笑った。
シカマルも同じように目を細める。

その猫は、真っ黒な体で流れるようなしぐさでナルトたちへと近づいてくる。
見た目は特にどうってことのない、小さな猫だ。
だけどもその猫を不審に思う存在が、ここに二つ。


(気配、感じたか?)
(いや、たまたま視界に入ってから気づいた)


裏で交わされる会話に気づいたように一瞬、耳をピクリとさせたが、猫はそのまま何事も無かったかのようにヒナタの足に擦り寄った。
ヒナタはしゃがんで猫の首筋を撫でる。
猫はごろごろとのどを鳴らした。


「かわいい・・・」
「こいつ、人懐っこいなー。誰かの飼い猫か?」
「首輪はしていない。捨て猫の可能性もある」


ヒナタの小さな声に続いてキバとシノがどこの猫かと言葉を交わす。


「それにしても、珍しいわね。この子、尻尾が二つになってるなんて」
「んー、おそらく子供の悪戯でやられたんじゃないかなー?」
「酷ぇことする奴がいるんだな。根元から割れてんじゃないか」


上忍の紅、カカシ、アズマの三人が言う。
猫は話に上った自分の尾を見せびらかすようにそれぞれを振る。
なんだか自慢しているようにも見える。


「すっげぇ!!その猫、目の色が左右違うってばよ!!」
「ふん、ウスラトンカチ。猫だったらそんなに珍しいもんじゃねぇよ」
「んだとぉ、サスケ!!」
「ちょっと!!やめなさいよ!!」


騒ぎ出したナルトに突っかかるサスケ、それをいさめようとするサクラ。
これはいつもどおりの日常だ。
キバが思いついたように懐からビーフジャーキーを取り出し、猫の前に差し出した。


「これ、食べられんぜ?」
「キバ、それは犬用じゃないのか?」
「いいんだよ。別に食べられねぇわけじゃないし」


けらけらと笑うキバの頭の上では赤丸が物欲しそうな顔でビーフジャーキーを見る。
それに気づいたのか、猫は尾を振って顔をそっぽむけた。


「んなの食べるわけねーだろ!!キバ!!」
「るせぇナルト!!これすっげぇうめぇんだぞ!!」


ケンカに発展しそうな言い合いをしている隙に赤丸はビーフジャーキーにありついた。
尻尾がぶんぶん振られててとても嬉しそうだ。


猫は赤丸の様子と、自分を囲んでいる人間をぐるりと首を回して一通り眺めると、にゃあ、と一鳴きしてその場を離れた。


「あ!!待てってば!!」


俺も触りたい!!と駆け出したナルトは、すばやく狭い路地裏に身を滑らせた猫の後を追った。
ナルトに手を引かれたなぜかシカマルが次に続く。


「うぉ!?」


猫が曲がった角をナルト(と手を引かれたシカマル)が続く。
ナルトとシカマルが見たのは振り返った猫。




すぅ、と楽しそうに目を細めて空間に溶けるように消えた。
まるで、最初から存在が無かったか、幻術をかけられたかのように。
微塵の気配すら、見つからない。
二人は予想外の出来事に目を瞬かせた。









今日は里のほうへ出かけてみた。
そうしたら、面白そうな人間を見つけた。
今度はどうやって会いに行こうか、楽しみだ。


私は猫。
ちょっとした超能力を持った、気まぐれな猫だ。








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私は猫。
今日は久しぶりに自分のテリトリーを巡回、というか散歩しようと思う。
私のテリトリーは、名前のつけられていない森一つだ。
ちなみに、私の寝所はもっと別の場所にある。
私はいつものごとく、空間能力を使ってとんだ。




「任務完了っと」

べっとりと血のついた刀を振り払ってから鞘に収めると相棒であるシカマルが何かを考えているような顔をしていた。

「どうした?」

俺の問いに我に返ったようにうつむき加減だった顔を元に戻すと少しいいにくそうにその長めの髪をいじくる。
なかなか珍しい気がする。
普段のシカマルは、一瞬にして考えを完結させるから何かを言いよどむようなことはそんなにないのだ。

「いや・・・、あの猫を思い出していただけだ」
「あぁ、あれか」

本当におかしな猫だった。
まったく気配を感じさせずにするりと俺たちのなかに入り込んできて、敵かと思い警戒してみれば何もせずに俺たちの前から消えた。
文字通り、俺たち二人の目の前からだ。
最初から存在しなかったかのように、もしくは幻術をかけられていたかのように。
あまりの自然すぎる気配の出現と消滅に、上忍たちでさえその不自然さに気づかなかった。

俺がたまたま、視界にいれて声をあげるまで、気配もなにも気づけなかったということに。

里でもトップだと自負している俺たちでさえ、特に俺は気配には敏感なほうだ、そう、俺ですら視界に偶然入るまであの存在に気づかなかったのだ。
いや、もしかしたら俺があの猫に気づいたのだってあの猫の思い通りではないのかとも疑ってしまう。


にゃあ


そんなことを考えていた、そのときを計ったかのような鳴き声。
音源に振り向くとそこには数日前に見た、今考えていた猫が木の上にたたずんでいた。
あのオッドアイと、根元から二つに分かれている尾を持っている猫は一匹しかいない。

――また、気づかなかった。気づかされた。

隣でシカマルも同じように考えたのか、いつもよりもぐっと眉間を寄せている。
猫は俺たちの様子を見て、面白いものをみつけたかのように目を細めた。
あのときと、消える直前に見せた表情とまったく同じだ。
猫に表情というのはすこし変かもしれない。
だが、この猫からは確かに感情というのか、妙な人間らしさというか知性というのか、そうゆうものが感じられた。



たった一匹の猫なのに・・・

どうしてこんなにもプレッシャーを感じているのか、俺は



猫はあの時のように音も無くするりと俺たちの前に降り立つと、空気中に漂っている香りを確かめるように鼻をヒクヒクさせて、俺たちを見上げた。

『私のテリトリーをあんまり派手に汚してくれるな』

脳に直接語りかけるような言葉。
いや、言葉ですらない、今、脳に響いた音は人間の言葉ではなかった。
なのに、理解できるそれ。
あんまり考えたり物事を理解しようとすることが得意ではない俺は、その仕組みを理解することは放棄して目の前にただ座っているだけの猫をみた。
猫は、なんでもない態度で顔を舐めている。

「テリトリー?」
「もしかして、この森の守り神か」

シカマルの信じられないような声に、俺も間抜けな声を出しかけた。
俺も、ある森を守っているという神の話は知っている。
だが、俺の知っているその話は御伽噺ではなかったか?

『さて、何のことだか。この森では一番の年寄りだとは自覚しているが』

ほぼ確実、確定だ。
飄々とした見た目ちょっと変わっているでも普通の子猫の台詞に俺たちは思いっきり脱力した。

『そんなことよりも、ちゃんとそれを片付けてから帰りなされよ。小童』

尾の一つで示された先には、まだ処理が済んでいない仕事のあとが残っていた。
なんとなく、あしらわれて遊ばれているように感じるのは俺の気のせいだろうか?




運のよいことに、面白い人間が私のテリトリーに来ていた。
なにやら仕事のようみたいだったが、少しくらい話をしてもかまわないだろう。

私は猫。
ちょっとした森をテリトリーにしている年寄りな猫だ。








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私は猫、今日は面白い人間に招待されているので遊びに行こうと思う。
その場所は人間たちに死の森と勝手に呼ばれている少し陰気くさい森だ。
私はいつものように空間能力を使ってとんだ。





今日、うちに神が来る。
以前、なんでもないように会った一見ただの猫は再び仕事の後にある森の中で再会した。
驚くことに猫はその森の守り神だったらしい。
本人(猫?)はそんな自覚はまったくないらしいが。
あの森の神についての文献は、かなり古い。


名も無き森、どこにあるのかもわからないその森が森と呼ばれる前からその土地を守り続けたその神。
守っている森は、古代から姿を変えずにそこに在り続ける。
つまり、今では絶滅している動物や植物が当たり前のように森のなかにいるということだ。
もちろん、それらを狙う人間がその森に狩に行ったことは多くある。
だが、無事に帰ってきたものは一人もいないか、森自体に入れなかったらしい。
森は、範囲を狭めず、広げずに静かに時を過ごしている。
誰にも、あの森に干渉することは許されないのだ、その言葉で文献は締めくくられていた。


任務でその森らしきところに入った俺はその森の様子をみて、これはすごいな、と観察していた。
まさに、古代ともいえる生態系がそのままの形でそこにあったのだ。
おそらく、絶滅したであろう生物や植物たちも数多くそのもりにいるのだろう。
そして、その森についての文献の内容を思い出していたそのときに、あの神と再会したのだ。




まったく、よくナルトは家に招待するなんて大それたことをしたもんだ。
最近手に入れた巻物を読みながらシカマルはそう思った。
神を招いた本人は家の中を走り回っている。
同じように、シカマルに対してよくあんなにも落ち着いてられるな、と思っていたことについては知る由も無い。


『ほぅ、なかなかおもしろいものを読んでいるな』


突然かけられた音無き声に思わず巻物を持っていた手を離した。
コロコロと転がっていく巻物を目の端に入れながらいつもの口癖を心の中だけで呟いた。
口に出さないのは一応神の機嫌を損なわないためだ。
神ほど敵に回したくないものはない。

そんな俺の心の内を読んだのか、その猫はまた目を細めた。
神だからできたとしてもおかしくは無い。


『別に普段どおりにしてもらってかまわない。あまりかしこまってもらうのは好きではないのでな』


気を使いすぎると逆に怒られそうだ。
ナルトもそう思ったのか、猫に近づきながら聞く。


「じゃあ聞くけどさ、あんたの名前は?俺はナルト」
「俺はシカマルだ」
『ふむ、名前か・・・』


俺たちの疑問が意外だったのか、猫はひとつまばたきをして、少し考えるように視線を落とす。
まさかとは思うが・・・。


「無い、とかじゃねぇんだろ?」
『否』


猫は首を横に振り、左右違う色の瞳をどこか遠くを見るように空中をさまよわせた。


『昔、私の名を呼んでいた者がいた。
だけどあんまり昔のことだったから、思いだせん』
「自分の名前すら忘れるほどの昔ってどんなだよ・・・」


じゃあ何年生きてるんだ?とナルトの呟きが耳に入ってくるが、俺は少しだけ悲しくなった。
自分の名前を忘れるくらいの長い時を、一人で生きていたのだろうということに気づいて。


『何、名前があってもなくても私は私だ』
「守るべき森があるから?」
『それは私の勝手さ。好きなものを守りたいと思うのは人間も同じだろう?』
「そうだなー、でもシカマルって守りがいがねぇんだぜ?守る必要を感じねぇもん」
「それは俺の台詞だ。最強の暗部のくせに」
「んだよ、歴代一といわれてる参謀さん」


猫がまた目を細める。
まるで微笑ましい子供のけんかを見守る親のようだ。
こいつからしてみれば俺たちは十分に子供なのは確かだが。


「そうだ、名前が無いなら作ればいいじゃん。猫って呼ぶの俺、やだし」
「そりゃ、そうだな」
『ほぅ・・・』





気まぐれに遊びに行った人間の家で思わぬプレゼントをもらえそうだ。
目の前ではあぁでもない、こうでもないと真剣に話し合っている子供がとても可愛らしい。

私は猫。
このように名乗るのはきっとこれが最後になるだろう。




「クロってのはどうだ?」
「馬鹿!!それはペットにつける名前だ!!」
「じゃあ二つしっぽあるからフタオ?」
「それだとなんか男っぽく・・・あいつ性別どっちだ?」
「・・・さぁ?」



どっちだと思う?