過去拍手お礼文





私は猫。名は生良(キラ)。
最近、体の内側が妙な、むず痒い感覚に悩まされている。
久しぶりのその感覚に、あぁ、と原因に思い当たって目を細めた。
何でこれを収めようか、といろいろなものを頭に思い浮かべて、とんだ。





第七班である俺の生徒はいつも活力がある。悪く言えば騒がしい。
自分の悪癖にいつも痛いくらいの声で責め立てられるので、今日は珍しく(というか初めて)時間通りに行こうかと思う。
とは言っても、結局十五分くらい遅れてるんだけどネー。
ま!これで急いだって仕方がないデショ。
むしろ、サクラあたりに「先生が十五分しか遅れてないなんて・・・」って言われそうだ。


『それは見本となるべき上司としてはいかんな』
「えー、大丈夫デショ。・・・ってダレ?」


唐突な視界の変化。
広がるのはさっきまで歩いていた木の葉の里の広場ではなくて、もっと別の・・・不可思議な別世界・・・のような。
・・・これは・・・結界術と時空移転術と幻術を組み合わせたシロモノか?
上下感覚のない世界。俺の身の丈はありそうな花。腰までしかないのにかなりの年月を感じさせる樹。一瞬でも同じ色であり続けられない藻のような地面。根元から二つにわかれている尾を持った黒い仔猫。

・・・二つの尾の仔猫?


『私に気付くまで少し時間がかかったな』
「あれ?キミってたしかこの前・・・や、そうじゃないデショ・・・ってあれ?」


驚いた。
驚きすぎて口から出た言葉に自分でつっこんでしまった。
仮にも自分は暗部をやっていた上忍だ、と自分を落ち着かせるためにとりあえず笑ってみる。
あきらかに引きつっているのを感じたけど。
いつもうそ臭い笑顔とか言われまくってるけど、今はそれ以上に軽い笑顔なんだろうなと頭のどこかで思った。
周りに俺とこの猫以外の生物の気配はない。
つまり、とんでもなくめちゃくちゃ難易度の高い術を使って俺を別世界に連れ込んだのはこの猫かもしれないってコト!?
・・・い、いやいやいや、もしかしたら俺が気配をつかめてないだけかもしれないし、俺に術をかけた本人はこの別世界にはいないかも・・・!!
ってか、あんなわけのわかんない術を使える奴に命の張り合いとかしちゃったら生きていく自信ないよ俺!!


『まぁ、それはできないこともないが、お前をこの世界に連れ込んだのは私だよ』
「・・・あ、そう。しっかりとどめを刺してくれちゃうわけですね・・・」


がっくし、と肩を落とすとその猫が目を細めたような気がした。
その、色違いの瞳の瞳孔が開ききってんの、身の危険というか、いやな予感しか感じないんですけど。


「で・・・なんで俺をココに連れ込んだのでしょーか」


連れ込むって響き、こんな時でもなけりゃあ嬉しいキーワードだよね、と思いながら聞くと猫はそれはもう素晴らしくきれいに目を細めましたとも・・・ッ!!
あ、こんな目、どっかで見たな。それも最近に。


『なに、少々私の遊び相手になってほしいのさ、どうかな?』


え、コレって聞いてるんだよね。疑問系だよね。相手、つまり俺の同意を伺ってるんだよね・・・?
拒否するという選択肢がどこにも見当たらないのは俺の気のせいじゃないよね・・・ッ!!?


『そのとおり。では、始めようか』


え、もしかして思考までも読めちゃうお方デスカ?
猫はまた目を細めて、俺に飛び掛ってきた。
俺、今まで散々生死の境を渡ってきたけども、今回は本気でヤバイかも・・・。
だって、ホラ、走馬灯が浮かんでる・・・。
先生のこと。チームメイトのこと。サスケ、サクラ・・・。
・・・あぁ、思い出した。
あの猫の笑みと似てるんだ。
質の悪い悪戯を思いついたときのナルトの笑みに・・・。

暗転。




本能である狩りの欲求を発散するため、適当に見つけた玩具を見繕った。
これが結構な当たりで、私がいくら遊んでも死なないだけの頑丈さはあるようだ。
ヒクヒクと痙攣している人間の上に乗って昼寝をする。
この教師は、またいつものように遅刻だ。
今度はどんな言い訳をするのだろうか。
私は猫。名は生良。
まだまだ若いころの気分を忘れられない元気いっぱいの猫だ。









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私は猫。名は生良(キラ)。
どうにも今日はねちっこい蛇の匂いが離れないのでこの森にそれが染み付く前にお引取り願おうと思う。
色がつきそうなその匂いで場所を確認して、とんだ。






深い深い森。
だけど薄暗さや不気味さはなく、ただ淡々とそれぞれの動物や植物たちが在るのを見て、思わず声を大きく上げて高笑いしたくなる衝動を覚える。
部下は連れてきていない。
この森に入るときにはぐれてしまったから。
これも、この森が古代からの姿を保ち続けていられる原因の一つに違いないわ。
人為的なものは全く何も感じなかったから、天然の結界か、もしくは人間以外の何かがこの森を守っているか。
舌なめずりする。
やだ、私ったら興奮してる。
だけど、仕方ないじゃない。もしかしたらこの森には――。
古代からの「神」がいるかもしれないのに。


『永遠の生命を欲すお前は何を望んでいる?』


声、いや、音、違う。
それは違う何か。
こちらを見ているのは猫、二つの尾を持った仔猫。
いや、妖?・・・否!!

神!!

好都合。あちらから私の元へ来てくれるなんて。
これであの神を捕らえたら私の永遠の命へ一歩近づく。
もしかしたらそれが実現するかもしれない・・・!!
猫はその瞳を伏せ、小さく息を吐いた。
好機かしら?否、仮にも神。そう簡単に捕らえられはしないはずね。
気付かれない程度に、その距離を縮めていく。
私はそのことに気付かれないように口を開いた。



「私は大蛇丸よ。あなたは?」
『私は生良という。ただの年寄りな猫さ。聞こう、お前は何をしにこの森に入った?』
「この森に欲しいものがあったのよ」


そう、私はお前が欲しいの――。
心の中だけで呟いて、また距離を縮める。
猫は私の顔に視線をやって、スゥ、と目を細めた。

ぐにゃり

視界が揺れる。ずれる。
前振りのないその変化に膝をつきそうになって、なんとかこらえた。


「なッ!?」
『生憎、私はその匂いが苦手でね。この森に染み付く前に退散願うよ』
「ちょッ、私はまだッ!!」
『はいはい』


猫は、その神は、私をまるで言い訳の聞かない子供にするように頭を尾で撫でて、また目を細めた。
まるで親のように、少し困ったような。


『お前の欲しがるものはどうやったって手に入らないものだよ。もう少し我慢というものを覚えなさい』
「な、何言って・・・!!」
『それじゃ、もうここには来るなよ?いい子だから』
「――ッッ!!」


次に見えたのは森に入る前に通ったはずの小道。
足元には森に入る前まで連れていた部下が眠っている。
数秒固まって何が起きていたかを頭のなかでリプレイして、あわててあの森へ走る。
だけどそこにあったのはどこにでもある普通の森。
古代のそれは、これっぽっちもなかった。


「どうゆうこと――?」


唖然と、するしかなかった。






今日は客人がいたのだがいかんせん、匂いが嫌だったので少々強引に帰ってもらった。
ちょっとした記憶いじりもしといたから、もうここに来ることはないだろう。
妙に白い肌を思い出して、もしかして日焼け止め用の植物が欲しかったのか?と今更ながらに思った。
まぁどちらにしても、もう関わることはないのだが。
私は猫。名は生良。
好き嫌いも激しい、我がままな猫だ。










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私は猫。名は生良(キラ)。
今日は砂と戯れたい気分なので砂漠のほうへ行ってみようと思う。
脱水症状を起こさないために湖で水分を十分にとったあと、とんだ。








砂の里は、大目に見ても環境が厳しい。
ましてや、普通の植物や動物が生きていけるだけのものなんてない。
少なくとも、俺は初めて見た。
砂の里で、悠々と散歩をしている普通(とは少し言いがたいが)の猫を!!
木の葉で見たそれとほとんど変わらないその姿を見て、なんとなく後ろをついていってみる。
あっちへ行ったりこっちへ行ってみたり。
曲がり角を曲がって姿が見えなくても、俺はあわてずにその先を覗いた。
――頭に、軽い重み。


『その表現は矛盾しているな』
「・・・やっぱりそう思うか。俺もだ」


おや、驚かないのか?と楽しそうなその響きに俺はこれでも驚いている、と返す。
その証拠に、やわらかくて、あったかいその重みに、俺は一切の体を動かせていない。


『まぁそうみたいだな』


思わず砂で攻撃しそうになっていたみたいだしな、とも言われ、複雑な気分になった。


「最初から知っていたな。からかったのか」
『悪いな。つい面白かったものだから』
「俺は面白くなんかない」


重みが消える。
俺の上にいたのはやはりさっきまで追っていた猫だった。
猫は目を細めていや、と続ける。


『表情は変わらないクセして感情や思考が揺れ動くのを見ているのはとても面白かったぞ?』
「・・・俺はお前のオモチャじゃない」


面白くない、けど楽しいこの気持ちは何なのだろうか。
その答えはすぐに与えられた。


『そうふてくされるな。そうだ、お菓子をやろうか』


そうか、これはふてくされるという気分なのか。
猫は俺がそう思っているのを見て、また目を細め二つの尾を揺らめかせた。
色違いの視線が、俺の手に移る。


『菓子を出すから、その手で受け取ってくれないか』
「・・・こうか?」


両手をお椀の形にして少し前に出すと、猫の尾がもう一度揺れた。
フッと出てきたのは見たことのない花。
声もなく驚いていると、猫がまた俺の頭に乗ってきた。


『その花の蜜は絶品ぞ?しかも全て舐めとってなくなっても水に浮かせていれば数時間でまた蜜があふれてくる』
「――毒じゃないのか?」


砂漠での植物は水分を多く含んでいるものが多いが、それと同じくらいに毒を含んでいるものが多い。
毒や植物についてほとんど知識のない俺にとって、この鮮やかな花が毒々しく見えてならなかった。


『毒などないさ。まぁあったとしても病弱な者が体内に取り入れれば腹痛を起こすかもしれないくらいか。なんなら私に一口頂こう』


赤い舌でペロリと手の中にある花にたれている蜜を舐めて、猫は満足そうに目を細め、尾を揺らした。
その様子を見ていると、不思議とその蜜がおいしそうに見えてくる。
思い切って舐めてみると、とても甘くておいしかった。


「おいしい・・・」
『だろう?私の大好物だ』
「――俺の名は我愛羅。お前は?」
『私は生良。また遊びに来よう。その時にはまた相手してくれるか?我愛羅』
「あぁ」






砂場で見つけた純粋な子供と仲良くなった。
私の菓子を上げたらものすごくおいしそうに蜜を舐めてくれて、渡した自分にとっても嬉しくなる。
・・・一瞬、間接キスというやつだなとからかおうと思ったのは秘密だ。
私は猫。名は生良。
甘い花の蜜が猫のクセに大好きな猫だ。