過去拍手お礼文








私は猫。名は生良(キラ)。
久しぶりに感じるのは空腹感。
何を食そうか考え、たまには人間のものでも食してみようかと、近くの里を思い浮かべた。
最近、子供と遊んでいないのを思い出して、私はとんだ。







「ありがとうございましたー」


間延びしたおざなりのセリフ。
それにボクは特には何も感じないで、ただ腕の中の大切なものに思いを馳せた。
カサカサとボクが動く度に音を立てるそれ。
どんな感動をボクに与えてくれるのか、想像するだけで幸せな気分になる。
よくみんなはそんなボクのことをあまり良くは言わないけれど、ボクはこんな自分を変えようとは思わない。


『随分と幸せそうな顔だな』
「うん、だってボクは幸せだもの」


黒い猫。
いつのまにかボクの肩に乗っていた仔猫は、不思議なことに言葉、というかボクに意志を伝えてきた。
名前は生良っていうらしい。
なんでもこの里の子供につけてもらったとか。
ボクはその仔猫に上げるために買い込んだ煮干のパックを開ける。
猫といえば魚だけど・・・食べられるかな?
この前に会ったときにキバは犬用のビーフジャーキーを差し出してたけど、結局生良は食べずに赤丸にあげてたんだよね。


「食べられるかな?食べられなければボクが食べるよ?」
『食べられないことはないさ。礼を言おう、チョウジ』
「ううん。お腹がすくと、いいことないもんね」


手のひらに少量のせて肩の近くにその手を近づけると、煮干が宙に浮いた。
ボクは少し驚いて、そんなこともできるんだ、と言う。
生良の顔は、近すぎてよく見えなかったけど、なんとなく目を細めたような気がした。
この猫は猫とは思えないくらい感情が豊かだ。


『私は年寄りだからな』
「でも年をとってるからってたくさんのことができるとは限らないでしょ、すごいね、生良って」
『チョウジも、そんな風に他人を評価できることができるのはすごいと思うぞ、私は』
「そう?ありがとう」


宙に浮いた煮干を食べる音を耳元で聞きながら、ボクはボクで今買ったばかりのポテチの袋を開けて、その中身を食べる。
・・・ん、うまい。







今日はポッチャリ系な男の子と菓子をつまんだ。
なかなか器量のある子供だ。その年齢にしてはだが。
今度は私のほうも菓子を持ってってやろう。
きっととても嬉しそうに幸せそうに喜ぶに違いない。
私は猫。名は生良。
猫らしく魚も好きな猫だ。





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私は猫。名は生良(キラ)。
今日は久しぶりに雨が降るらしい。
あんまり好きではないのである場所に避難することにしよう。
いつもより少しだけ強く力を使って、私はとんだ。






まわりに見えるようで見えていないような、それでも知覚させられているのはまるで天国。
いや、ここは本当に天国というところらしい。
それを教えてくれたのは、名前も顔も立場も知らない先輩と呼ぶべきなのか、魂だった。
俺が死んだら絶対に地獄へ行くものだと思っていたんだがな。
意外に感じるけどもそれさえもどうでもよかった。
探し続けるのは、一人。


『おや、探し人か』


音も、言語も、何もない意志。
こっちにきて、違和感だらけだったそれにようやく慣れてきたかと思っていたら、そうでもなかったらしい。
それにしても、俺がここまで気づかなかったことに、少しこちらにい続けたことで平和ボケしたかと思う。
死ぬ前には、霧隠れの鬼人と恐れられてたっつーのによ。


『こっちでは前の世界での経験なんてまったく関係なくなる。今からその勘を取り戻そうとしても無駄なことよ』
「・・・えらくあっさりいってくれるじゃねぇかよ。お前」
『まぁな。私も何度となくいき返りしてきたからな』
「・・・んなことできんのかよ」
『まぁ少なくともお前さんにはできまい』


今の俺には視覚というものがない。
それでもはっきりと感じられる。
こいつ、笑うように目を細めた。
姿は感じられない、というか、ここでは姿形なんぞ意味をなさない。


『なぜなら実態がないからな』
「人の思考を読むんじゃねぇよ」
『さて?なんのことだか?』


前の俺だったらまず間違いなくこいつを殺していた。
ここでの特殊さを除いても少なくとも斬っていた。
だけど俺にはそんな気が起きない。


『ま、完全に丸くなってまた輪廻するがいいさ。さて、本題だが』
「・・・今までの全部前フリかよ」
『細かいことは気にするな。生まれ変わる期間が長くなるだけだぞ?』
「はっ、それは何よりだな。あいにく俺には探しものがあるんでな。それまではここを離れるわけにはいかない」
『若いな、小僧』
「小僧なんかじゃねぇっ!!」
『まぁいいさ。あっちに行くがいい。気が遠くなるほどな。そうすれば探しものが見つかるぞ?』


私の言葉に従うかどうかはお前しだいだが。
と付け足された意味に、俺はそいつの示したほうを感じる。
それは、俺が今まで移動してきていた方向だった。


「・・・しかたねぇから従っといてやる。今はあてがねぇからな」
『そうか。さて、そろそろ雨が上がったかな。私は戻ることにしよう』
「!?おいっ」


唐突に消えるそいつは、もう二度と俺の前に現れることはなかった。
しばらくそのままいたが、その行為が意味の無いことだと悟ると、示されたほうへ向かう。
そして、見つけた。







探しものをし続ける小僧を気まぐれに導いてやった。
今頃はきっと、探しものに対して憎まれ口を利いているだろう。あれは素直な性格ではないようだから。
輪廻の門番に口利きをしてやろうか。生まれ変わってもそばにいられるような関係にしてやってくれ、と。
きっと一言聞いてやれば、門番はそれを許可してくれるだろう。
まぁ、小僧たちには意味の無いことかもしれないが。奴らなら自力でその環境を手に入れるかもしれない。
私は猫。名は生良。
少しばかりのコネをいろんなところに持っている、ただの猫だ。








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私は猫。名は生良(キラ)。
今日は迷子がうちの森にやってきた。
随分とおびえているようなので、持ち主のところへ返してやろう。
それにしても大した好奇心というか、幸運の持ち主というか。
迷子から感じられる持ち主の気配を読み、その者への場所へとんだ。








「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


体の中の虫たちがざわめいているのに気付いたのは、昼頃のことだった。
その原因を感じて、俺は即里を出る。
家族には一応断りを入れたので、遅くなってもしかられるようなことはない。
まずは昨日のルートをたどる。
なぜならそれがなくしているものを探すときの通常だからだ。
無言で、体内の虫たちの反応を見ながら里内を回る。
一通り回って見つからなかった。
次は知り合いのいそうなところだ。
なぜならその知り合いたちに付着したままという可能性があるから。
そう判断し、まずは誰のところへ行こうかと知り合いの顔を思い出す。


『その必要はないぞ』


反射的に身構える。
自分が異質だということは理解している。
しかしさらなる異質さをそれから感じたから。
そして、同時に体内の虫たちのざわめきが増す。


『ほれ、迷子を届けたぞ』


それとともにこちらに飛んでくるのは、間違いなく探していた一匹の羽虫。
探していた羽虫と同じだとわかると、自分自身の体から力が抜け、体内の虫たちのざわめきも少し収まった。
それは安堵したから。
まず感謝の意を示すのが礼儀だろう。


「礼を言う。助かった」
『ふむ、お前も随分子供らしくない子供だな』


自分の言葉に答えてはいないそれに、微妙に複雑な気分になる。
しかし、助けてもらった相手にその態度を示すのはよくないことだ。
たとえそれが、どこからどう見たって以前見た変わった猫だったとしても。


『これで二回目か。会うのは』
「その時には、会話ができるとは思わなかったが」
『いいではないか。私はあまり大人数で話すのは好きではないから』


大人数で話しているのを観察するのは好きだがな、と目を細めながら俺に伝える猫は、とても上機嫌に見える。
何かあったのだろうか。
しかし、俺には関係のないことだと思われる。おそらく。
・・・おれの希望としてはなんだかとっても巻き込まれそうだなと感じるのは気のせいにさせて欲しい。
だが、そう思うと同時にさらにその猫は色違いの目を細めた。


『また、今度はなにか面白い出来事でも持ってこようか、シノよ』
「遠慮させていただきたい。なぜなら俺にはその面白い出来事が厄介ごとや面倒事だとしか思えないからだ」


それに何故俺の名を知っている。
そう聞いても、猫はさらに目を細めるだけだった。
なにがそんなに面白いのか、俺にはまったく理解ができない。
なぜなら俺自身、自分が面白いと思われる性格や言動をしていないからだ。








迷子が随分と怯えていたのは私に食べられたかららしい。
すぐに気付いて出したからなにも負傷はしなかったが、精神的外傷を負わせてしまったみたいだ。
今度お詫びとしてなにか持ち主にしてやろうと思う。
それにしても、あんな子供があんな言動をしているところを見るとなぜか笑ってしまう。
どうやら私の笑いのツボにはまってしまったらしい。
私は猫。名は生良。
面白いことが大好きで、そのツボが変わっていると自覚しているただの猫だ。