過去拍手お礼文








私は猫。名は生良。
ちょっと今日はサボっているあやつに説教をしてやろうと考えている。
あれだけ陰ながらにせかしてやっても、こんなに遅くなるなんて信じられないことだ。
いつもとは少し違う力の使い方をして、私はとんだ。







「うぎゃ〜、なんなんだ〜この暑さ〜」


今年も私の生き難い季節がやってきてしまった・・・そんな感じだ。
だらだらと汗が額ににじむ。
食欲が落ちる。
つーかだるい。


「まだ6月になったばっかだよねぇ・・・。 なのになんでこんなに蒸し暑いのさ・・・」


あ゛〜つ゛〜い゛〜、と呻きながらだれる。
駄目だ、こんな暑さじゃ頭が回らなくて小説を考えるどころじゃない。
アイス食べたい、ジュースがぶ飲みしたい、クーラーの風に直接当たりたい・・・。
いや、クーラーは頭痛くなるから扇風機でいいや。


『そうか、なら私がお前を氷付けにして冷やしてやろうか』
「いやー、そんな、自分で自分を材料にカキ氷する趣味はないですよー・・・・・・って!?」


言葉を使わない意思疎通。
空気振動の必要のない伝達。
つーかぶっちゃけて言えばテレパシーを使うこの方さまは・・・ッ!!??


「生良さまっ!? なんでこんなところにッ!?」
『残念ながらお主が私を動かさないと私自身行動できないのでな・・・。
・・・あれだけやさしく注意してやったのに、お主はそれを無視したな・・・?』


ぞくり、となぜか背筋が震える。
まずい、これはかなり本気でまずい。
生良さまはかなりお怒りだ・・・。
し、死んだかも・・・。
な、なんとかして言い訳せねば確実に死ぬことは間違いない・・・ッ!!
いや、それだけならまだしも、死んだほうがマシだっていう体験をしてしまうかもしれないッ!!


「え、えーとですね、生良さまッ!!」
『なんだ? 言い訳ならもう十分に読ませてもらったぞ?』
「(すでに心の中読まれてるッ!!/泣)」


どうしようどうしよう、何とか気まぐれを起こしてお咎めなしにしてもらえないかな・・・。
駄目か、この思考も読まれてるんだっけ・・・。
だとすると下手なこと考えるほうが酷い目にあうかもしれないし・・・。
ううう、だって最近忙しかったんだよーう。
これからがんばりますから見逃してくださいよーう。
・・・駄目だ、自分でやっててキモイしうざくなってきた。


『特別に許してやらんこともないぞ?』
「へッ!? ほんとですか!?」
『この私が嘘をつくとでも?』
「いいえッとんでもございませんッ!!」


つーかここで気が変わってとんでもないことされたらやだし!!
あぁ、これでなんとか明日も無事に生きていけるかもっ!!


『それにしても・・・最近なかなか執筆速度が鈍っているようじゃないか?』
「(ぎくっ)」
『あんまり遅いと・・・また私が来てしまうかもなぁ・・・?』
「ヒーッ!?!? がんばりますからッ、お仕置きだけはッ!! かみなりどかーんだけはヤーーー!!!!」
『・・・・・・私はお主の母ではないのだがなぁ・・・』


はっ!! 違うジャンルにトリップしてしまった!!
生良さまは私の母ではないしッ!!
というかどっちかって言うと私のほうが親みたいなもんだしッ!!
・・・ということは・・・もしかしなくても自分の子供に叱咤されてる状態なのか? 今のは。
な、情けない;;;


「こ、これからもっとスピードアップできるようガンバリマス・・・」
『うむ、最後が片言なのは見逃してやろう』
「ありがとうございます。 というかですね、生良さまなんで私にはそんななんですか。
ナルトとかシカマルとか里の子供たちにはあーんなにやさしいのに・・・」
『当たり前だろう。 お主は可愛くない』
「ヒドッ!!」







さて、これで少しは気合が入るかな。
まったく、こんなことしなくとも普段からさっさとやればいいのに、と思う。
こんな奴だが見捨てないでやってくれ、と手間のかかる生みの親にため息をついた。
私は猫、名は生良。
少々強引な展開も、このように実現できるくらいの、ただの猫だ。












私は猫、名は生良。
ぶるりと体を襲う悪寒に、少し運動でもしようかと大きく体を伸ばす。
さて今日はどこへ行こうかと、首を一回りさせて、適当にとんだ。








昔から常連となっている木の葉の病院で、特別に調合された薬をもらう順番を待つために、待合室の中でソファーに座って待つ。
今日も今日とてこの病院は大忙しですね。
あわただしく患者の名前を呼ぶ看護婦、パタパタと駆け回る医者、それをどこか不安そうに眺める患者。
自分が手伝ってもいいのですけれど、この病弱な外見で余計に負担になりそうなのでやめておきます。
いくらせきが癖だとまわりに言っていても、それを知らない他人はたくさんいる。
わざわざこの場にいる全員に根気よく、これが癖だと言いふらすこともないでしょう。
そう考え、ようやく呼ばれた自分の名前にソファーから立ち上がり、受け付けから薬を受け取ってから、その病院を後にした。


季節の変わり目には体調を崩す方が多いですからね、私も十分に注意しませんと・・・。
けほけほと癖になっているせきを片手で抑えながら、自宅への道をたどる。
それにしても・・・。


「いつまでついてくるのでしょうかね、この猫は」


少し離れたところを悠然と歩く黒い仔猫。
ちろちろと私の様子を伺っているみたいですが、別に餌なんて持ってませんよ?


『そんなもの期待していないからいい』
「・・・・・・・・・」


これは驚きましたね・・・。
今、この猫しゃべりましたよ。
誰かの忍猫だったりするんでしょうか・・・。
猫は基本的に忍びには向かないはずなんですが、例外はあるものですし・・・。


『私はこの里のものではないぞ? 名も無き森から少々散歩に来ただけだ』
「・・・そうですか。 ごほっ、それで、どうして私と一緒に歩いているんでしょうか?」
『いや、なんとなく、だな。 あとは好奇心』


はて、私になにか興味を惹かれるものでもあったんでしょうか?
自分で言うのもなんですが、結構回りから気味悪がられるばかりで、そんなものがあるかどうかもわからないですね。


『私が他のと同じものに興味を示すと思うな。 ただお前のそのせきが何か病気なのかと思っただけだ』
「――」


そんなこと言うわりには、誰もが疑問に思うことに興味を持ってらっしゃるんですね。
会った人に必ず聞かれることなんですけど、まぁわざわざ言うことのものではないでしょうね。


「これは癖のようなものです。 だから心配してもらうほどのものではないんですね」
『これまた妙な癖をもっているな。 なにか心に病を持っているんじゃないのか?』
「そんなことはないんですね。 っこほ、昔っからそうですから」
『昔・・・子供のころ親にかまってもらえなかったから気をひくために病を偽ってそれが癖になったとか・・・』
「あなたはそんなに私を精神患者にしたいんですか?」


思わずそうなんではないのか、と自分で疑問を持ってしまいましたよ。
この猫、なかなかどうして、やりますね。
しかしそう簡単に精神操作されるわけにはいきません。
これでも特別上忍ですから。


『まぁまぁそう疑り深くなるななるな。 ちょっとからかっただけだろう』
「あれってからかってたんですか・・・。 私、おもちゃにされてたんですね・・・」
『・・・なんだかもてあそばれたメスのような台詞だな』


いえ、まぁちょっとは私もそう思いましたが、実際に言われると少しショックです。


『そうだ、とりあえずせきに効く薬膳をやろう。 遠慮するな、よく効くぞ』
「げほっ!? いえ、だからこれは癖なので治りませんと言っているでしょう」






今日は、顔色の悪い男と遊んでみた。
あの男のにくらべると、自分の感じていた悪寒なんぞ、どうでもいいと思えるから不思議だ。
そして、あの男に会ってから体調がよくなっていることに気づいた。
おちょくって、あの男に病原菌を移したからよくなったのだろうか。
私は猫。名は生良。
軽い足取りで散歩を楽しむ、ただの猫だ。







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私は猫。名は生良。
今日はあいにくの雨模様。 そろそろ梅雨の季節だと空が告げる。
住処で、ゆっくりと惰眠を貪ろうと、今決めた。
くるんと体を丸めて、夢の世界へと、とんだ。






暗闇の中。
光る対の赤い瞳。
それは、憎むべき兄の、そして、自分も持っている、車輪眼。
血のにおいが、むせ返るほどにあふれ、一族の無念が俺の体にまとわりつく。
それは、しだいに俺を動けなくし、そして、堕ちさせる――。


『そうさせるわけには、いかんな。 私の自己満足だが』


無音だった世界に、響き渡った意思。
それは、澄んだ余韻を残し、静かに掻き消える。
そして、何かの力によって、俺は引き上げられ、なにかのぬくもりに包まれる。
俺は、何かの反応を返すだけの気力も残っていなかった。
その声の主を確認しようとしても、体も動かず、眼球を動かすのも億劫。


(――だれ、 だ?)
『私は生良という。 お主の夢に迷い込んだだけのものさ』


・・・・・・夢、か。
うすうす気づいてはいた。 ここが、現実世界ではないということを。
ただ、そんなことを考える暇すらなく、俺はこの夢の世界に引きずり込まれていて・・・。
もし、あのまま堕ちていたら、俺はどうなっていたんだろうか。
何もかもを捨てて、ただただ復讐するだけの人形に生まれ変われていたのだろうか。
そういう風に思うと、この声の主がどうしても余計なことをしてくれた、と思ってしまう。
声の主が、笑った気がした。


『だから言っただろう? 私の自己満足だと』
(・・・結局は自分のためか、余計なことを――)
『私が認知できないところでだったら、いくらでも堕ちるがいいさ。 だが、私の気分のためにもここは救われてやっていてくれ』
(おかしなことを言う。 お前なんて夢の世界でしか存在しないくせに)


これは夢。
この存在は、俺が無意識につくりだしたもの。


『私の存在が、お主の無意識の産物だったとしたならば、お主は無意識に救いを求めていることになるが、それでいいのか?』


面白そうな声に、言葉がつまった。
俺が、救いを・・・助けを求めてるだって?
ありえない。 俺は復讐者なのだから、救いはとうに捨てた!!


『・・・そこまで意思を持っていると、逆に哀れに思えてくるよ。 その心を変えられることはできないが、せめて幸せを感じられるよう、祈っていよう』
「祈りなんて不確定なものなど、必要ない!! 俺が欲するのは、ちから、あの男を殺すための力だ!!!」


それさえ手に入れられれば、他に何もいらない――!!!


『・・・かなしいな。 復讐者というものは、いつだってそんなものだ。 私はその結末を何度も見てきたが、彼らの結末はすべて同じ一途をたどる』
「俺自身の結末など、どうでもいい!! ただあの男を、兄を殺せればいい!! それが俺のすべてだ!!」
『彼らもそういっていたよ。 そしてその生は辛く安らぎのないものだ。 ――もう、私が何を言っても、心が変わることはないだろうな』
「知っているなら、余計な戯言を言うな!!」
『ここで起きたことは、忘れよう。 だが、私はできるかぎりお主の幸福を願っているよ』


暗闇の中、遠くに見えた、対の瞳。
それは、最初に見たのとは違う、ゆれた色違いの瞳。
どこかで見たことがある、と思い出そうとしたところで、意識が途切れた――。











眠りから覚め、かなしい道を強い意志で進もうとする子供に思いをはせた。
彼はきっと、その固い意思を最期まで押し通そうとするだろう。
よほどのことがない限り、彼が幸せを感じることはないだろう。
私は猫。名は生良。
多少の力を持っていながら、結局は見届けることしかできないただの猫だ。