「003.ちがういきもの」











「バルレル、それ取ってくれ」


自分にあてがわれた部屋の中で、俺は片手をバルレルの方へ向けた。
まわりには内緒でアルコールを飲んでいるバルレルは酒をつぐ手をそのままに動かしながら、先がとがっている尾を伸ばし俺が頼んだペンを空中に放り投げはたく。
はたかれたペンは正確に俺の上げていた手に収まった。


「ありがとな」


バルレルは反応せずに酒を飲み続けたが、若干ペースが上がったように見えたのは、まぁ気のせいということにしておこう。







「一人、二人、三人――」


ふらりと俺を連れて街の外に出てみたかと思えばなんてことのない野党狩り。
子狐も連れずに何かあるのかと少しばかり楽しみにしていたらただ単に気晴らしだと、あっさりと俺の期待を裏切ってくれた。
そのままでは本当につまらないので、試すようにに言った。


「へッ、テメェの気晴らしも随分陰気くせェもんだなぁ?」


むっとするか、皮肉を返すか、これにどんな反応が返ってくるか。
は逆に不思議そうに「派手にやって欲しかったのか」と首をかしげた。
・・・・・・別にそこは俺好みにする必要は無いだろうが。
予想外の返答に、まず呆れた。







戦闘場面で、バルレルがつまらなそうに相手のトドメを刺しているのを思い出す。
そういえば悪魔っていうのは負の感情とともの戦や争い、血とかが好物ではなかったか。
そのことを本人にポツリと聞いてみると嫌そう顔をしかめられる。
そのしかめた表情は俺の勝手な印象に対してではなく、一々面倒な説明をしなければならないということに対してだったらしい。
証拠に酒を渡すと嬉々として教えてくれた。


「俺は負の感情が好きなだけだっつーの。感情であればまじィけどま逆の感情も喰えるし魔力に変換することだってできなくもねェし。そーいう場所にいれば負の感情が自然と生まれてくるからそういう風によく思われるけどな、欲しいのは感情だけだ。他は知らねェがな」


血や痛みそのものや、権力、地位、財産等は、バルレルにとって腹の足しにはならないから欲しいとは思わない。
まぁ、あれば便利くらいには思っているだろうが、所詮その程度だ。
腹が満たされて、あとは自分の好きなようにできればいいだなんて、無欲だなというか、本能的なんだなと酒で上機嫌なバルレルを見た。







というニンゲンは、異常なほどに特定のおニンゲンに対して保守的だ。
いや、過保護だといったほうが正しいか。
それはともかく、今の所はその対象を二人しか知らねェが、あれほどまでに他人のために己の身を捨てられるニンゲンを、俺は初めて見た。
からしてみれば、その体の持ち主のほうがよっぽど・・・ってことだが、まぁ、それはいい。
どうして、そこまでする。


「――そうだな。守ってやりたいと思ったから、か」


それだけか。
たったのそれだけで、本当にそこまでニンゲンは自分を犠牲にできるものなのか。
俺には理解できない。
理解したくも無い。







「まぁ結局は、ちがういきものだってことだな」
「なにを今更言ってんだァ?同じでたまるかよ」
「いや、それにしてもちがうのにこんなに気が合うっていうのも不思議だなと思わないか?」
「ハッ、どこがだ。んでとなんざ仲良しこよしやってなくちゃならねぇんだよ」
「・・・・・・そうか」
「こら、テメェ。何笑ってやがる」
「いや、別に? さて、トリスが待ってる。行こうか、バルレル」
「・・・・・・ケッ」













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五万ヒットリクエスト企画題「003.ちがういきもの」
行人さまからいただいたリク内容はバルレルでなんだかんだいいながら仲良し。
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ただお互いの視点で違うところを羅列しているだけの品になってしまいましたがどうでしょうか(汗

ありがとうございました!! (逃走