唐突なウサギからのテレパシーは、緊急患者の来訪を意味する。
俺は、アカデミーへ向けていた足を、そのまま暗部の待機所へ向かわせた。
こうして、授業にサボりまくる問題児、は今日も無断でアカデミーを欠席するのである。









どうやら複数の忍びが同時期に負傷者を抱えて戻ってきたらしい。
ウサギの尋常ならざる聴力によると、負傷者はすくなくとも十数人。その他にも普通に移動しているにしては不自然な呼吸音が数人。
その隊の中には、紫苑も混ざっていた。


「ったく、なんだっつーの」


独り言を呟きながら仮面を懐から取り出し、移動しながら装着する。
近道である人の家の屋根を音も無く渡っていくと、ウサギから「そんなに急がなくてもあんたのほうが早くこっちにつくわよ」と呆れたような感心したような、判別つかないメッセージをもらった。


「・・・なんでわかった?」


一応足音は立ててないはずなんだけど。
いくら聴力の優れているウサギだって、待機所からかなり離れている位置で、殺している俺の足音を聞くことはできないはずだ。


『だってあんた、空気の裂ける音が上のほうからするもの』
「・・・・・・そうか」


こんな芸当はウサギにしかできまい。
複雑な心境をそう切り捨てて、俺は待機所に到着した。
まだ患者のほうは着いていないようだ。
治療する場所は待機所ではないので、出入り口で患者の到着を待つ。
ウサギの異常な聴力を用いてそれらしき者の帰還を何百キロメートル離れたところで察知、俺に報告し、俺はゆっくりと“”として格好を整えながら暗部の待機所の出入り口で待つ。
そして、患者が到着したと同時に俺のじっけ・・・ではなく治療室に連れ込み(言い方が悪いか?)、暗部の医者としての仕事を遂行する。
一部を除く周りはどうして俺が重症患者が来るときに決まって待機所の出入り口で待っているかを知らないから、不気味に思っている、という話を紫苑から聞いたことがある。
別に七不思議にでも、人外にでも、千里眼でも、勝手に推測してろ、と俺は思うから気にしていない。
治療する前の準備運動として、両の手を動かしていると、やっと患者たちの姿が見えてきた。


「着いて来い」


一言、それだけを言い、走り出す。
後ろも振り返らずにある一室の中に入り込むと、俺はあわただしい時間を奔走することになる。
着いてきた暗部の中には腐れ縁といってもいいかもしれない、紫苑が紛れ込んでいる。
今回は負傷はしていないらしく、班員であろう男の肩を担いでいた。
それぞれの負傷や毒性の様子を妖力で把握し、治療しやすいように並べさせて横たわらせる。
それらの準備が終わると同時に溜め込んでいた妖力を開放し、治療の必要の無い者を気絶させた。


「・・・おい。俺だけなんともないのは狙ってるだろ」
「当たり前だ。こいつらを適当に放り出しとけ」


俺はこれから忙しいんだ。それくらいの補助は当然だろう。
奥の部屋へ繋がるドアが一人でに開く。
いや、そう見えただけで、実際にはウサギが出てきた。


、手伝うことは?』
「湯水、タオル、予備マント、消毒液、・・・・・・ついでにレバーでも用意しとけ」
『わかったわ』


一つ一つ即決で治療の順序を進めていく。
二人同時に指を埋め込み、血液のワクチンを注入し、一時的に妖力を生命力の代行をさせる。
あわただしく駆け回る。
治療を終えるごとにその患者を紫苑に押し付け部屋から放り出す。
鮮血が目に焼きついてくる。少し休めなければ患部を診察することもできなくなる。
ぐ、と目を強く閉じて、傍らに控えているウサギを呼んだ。


「ウサギ!!」
『はいはいっと。・・・・・・これでどう?』


ウサギの持つ妖力が俺の目にまとわり付くのを感じ、もう一度目を開くと視界に生まれていた残像は消えていた。
ウサギの妖力によって俺の目の疲れを回復させたのだ。
二、三度目を瞬かせ、問題が無いことを確認する。
よし。

「最後の一人か」
『あっちゃー、この子指吹っ飛んじゃってる・・・』
「ウサギ、刃物もってこい」
『はい』


宙を飛んでくるクナイを危なげなく掴み、躊躇い無く自身の髪を切る。
音も無くあっさりと俺からつながりを絶たれた髪は患者の損傷部分にはらはらと落ちる。まとわりつくように。
まずは指。
指は忍びにとってほぼ生命線と断言してもいいほど重要なパーツだ。
一本でも失ってしまえば忍術が扱えなくなる。
体術だってわずかなバランスが崩れ、もう一度修行をやりなおさなければならなくなる。
長年慣れた勘を根本から修正しなくてはならなくなる。
ようやく慣らしたかと思えば、今度は実践の勘を取り戻さなくてはならない。
もちろん、実践となると命を落とす可能性のほうが高い。
――つまりどうがんばっても、忍びとしては致命的なことになるのだ。指を失うということは。こんなに小さなパーツだというのに。
だが。


「運がよかったな、お前」


聞こえていないであろう忍びの指部分に、妖力を与える。
正確に言うと、指の周りにある俺の髪細胞に、だ。

 髪の細胞を最小限まで分解

 男の細胞と同調

 血液 筋肉 脂肪 血管 神経 爪 皮膚 骨

 遺伝子組み換え

 結合・・・――













最後の一人を放り出し、一息ついたところでやわらかいソファーに体を沈ませる。
今日一日で一ヶ月分の働きをした気分だ。
念写で報告書に今日の仕事ぶりを記録しているウサギをつぶさないように寝そべり睡眠体勢に入る。
とりあえず急患がこない限り、今日は休もう。
疲労感に抗わず、意識を手放した。








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リク小説「走れ」で、NARUTO連載夢主にて活躍する話、でした。
・・・えーっと、すみません。虚無にはこれが限界です;;
なんだかリクエストに沿っていないような気がします;;
reiさま、どうもありがとうございました!!