「005.まだ戦える」








体に力が入らない。
起き上がろうと、腕を立てようとして、崩れ落ちる。また腕を立てようと力を込めて、震える腕を視界の隅に入れる。上がらない。
 繰り返し 繰り返し 繰り返し
自分の荒い息音が遠い。自分の思考も。そして世界も。
暗い暗い真っ暗な闇がこの身を捕まえて離さない。
意味の聞き取れない声と言葉。追いかけられる足音。気色悪い捕まえられた細い腕。いっそこの腕を切り落として逃げてしまいたい。
ここはドコ、あの子はドコ、お前らは何だ、僕に何をする、近づくな触れるな嫌だ放せ取るな僕から奪わないでくれ何故どうして嫌だ嫌だ嫌だイヤダい や だ ――!!
とにかく部屋に戻らないと・・・俺が実験室にいつまでもいると状況が悪化するばかりだ。
気力と残されたわずかな体力をなんとかかき集め、暗い部屋を出る。
ふらついてまともに歩けもしない。
ヤメロあの子に手を出すな殺してやるいつか殺してやる手を出すな今すぐお前らの言う魔力を開放してでもあの子に手を出すことは許さない契約をしてやるあの子には手を出すな。
手の中に残ったぬくもりを覚えている小さな僕の片割れ欠けることは許さないいつまでも生まれ変わっても縛り付けてでも一緒にいるそう約束したんだあのよどんだ街の路地裏で寒い暗い物陰で閉ざされた僕たちだけの世界で。
――受け入れろ全て俺の能力をが許す限りあの子を受け入れろ彼に安らぎを与えられるように許せそして受け入れろ全部を全てを彼を。
ぐらぐらと揺れる頭ぼやける視界壁を伝うようにしか動けない体ズリズリズリと壁に臭い付けするように・・・・・・。
あぁ今トリスが俺を見つけてしまったらどう思うだろうきっと全てが無駄になってしまうだろうか悟られてしまうのだろうか。
あぁ、彼女はトリスは今何をしているんだろうか。
あぁ、マグナは今安らげているのだろうかあの真っ暗な心の中で安らげているのだろうか癒されているのだろうか。
あぁ、マグナが一番に望む未来へはたして俺は導くことができるだろうか俺はこんなにもすでに消耗しているのに。
泣きたくなるときどうしようもなく辛いとき逃げ出したいとき全てを放棄したいとき思い出すのは片割れのことあの子の笑顔声しぐさ優しさ思いぬくもり全て全て愛しい僕の全て。
僕という存在を支えている全て彼女を守ることが守り抜くことが僕の全てで存在価値で支えで生きる意味でアイデンティティで僕の存在する全ての意味で。
だからこそ僕は僕でいられたんだどんなに辛くても苦しくても痛くても空腹でも泣きたくても怒りたくても寒くても逃げたくても屈辱的でも怖くてもどうしようもなくてもそれだけが僕だから僕のものであり続けるから。
これはマグナの記憶だそして強すぎる想いだ引きずられるな自分に言い聞かせるんだこれは俺のものなんかじゃない感情に振り回されるな守りたいのだろうこの大切な存在を強くてもろい大切な者を。
そうだから大丈夫だまだ大丈夫僕はまだ平気だなぜならここにこの腕の中に手の届くところに僕の全てがやすらかに眠っているからだから大丈夫だから――。
そうだから俺は自分を保っていられるからだからまだ大丈夫だ守るべき存在あここにあるからその存在を内に感じ取ることができるからだから――。











------------------------------------------------------------------

五万ヒット企画烏さまから題「005.まだ戦える」でした。
ダークな感じ、出ているでしょうか?
行間を詰めて思考どろどろぐちゃぐちゃ;;みたいな感じを目指してみたのですが読みにくい上に訳がわかりづらいかもしれません;;;。
こんなですがお気に召していただけたら幸いです。

ありがとうございました!!