いくつかのサモナイト石がポケットにあるのを確認してから、ハサハとバルレルをつれて外に出る。
仲間たちには適当に声をかけてきたからいきなり行方不明だと騒ぎになることもないだろう。
少々トリスを置き去りにしてひっそりと逃げるようにきてしまったことに悪くは思ったけど、このくらいなら許容範囲内だと思う。たぶん。
外出した目的は、もちろん戦闘能力の向上。
まさかいくらなんでもこのままで奴を倒せるとは思っていない。
少なくともバルレルとハサハ、そして自分自身の実力を把握しておきたい。
今までは全力でぶつかり合える相手なんていなく、自分の限界を知る機会がなかった。
行き着いた場所は平原。
あたりを軽く見渡して、とりあえず近くに邪魔者の気配がないことを確認してから大きく肩を回す。
ハサハには少し離れてみているように言い聞かせ、互いに獲物を構えて間合いを取った。
バルレルはとっくに自身の魔力であり獲物となる槍を構えている。


「じゃ、始めるか」
「ヒヒヒッ、遠慮なんざ、いらねェよなぁ?」
「当たり前だ」


笑む悪魔。無表情の人間。緊張した子狐。
これから始まるは、悪魔バルレルと人間の、単なる殺し合い。







顔を目掛けてまっすぐに突いてきた槍を前進しながら横に避けてかわし、そのまま横になぎ払われるように追尾するそれを剣を縦に構えて刃を防ぐ。
ギャンッ!!と鈍く高い音が耳に入ると同時に槍の柄部分を蹴り上げてさらにバルレルと間合いをつめ、剣を横に、空間ごと裂くつもりで振る。
バルレルはそれを蹴り上げられた槍への勢いに乗るように跳び、俺の剣の餌食になることを免れた。
滞空中に追い討ちの一撃を見舞うが、それも弾き返された。
ち。
内心だけで舌打ち。
バルレル本人が聞いたら怒るだろうが今の小さな体躯だったらしゃがんで俺の攻撃を避けたほうがわざわざ跳んで避けるよりも労力を使わなくて済む、それに滞空時間中は無防備になる。
なのにそうならなかったのは俺の思惑が読まれていたからか。
――もししゃがんで避けていたら確実に腕一本は本体から離れていただろうに。


「てめ、、今本気で腕切り落とすつもりだったろ」
「バルレルこそ、最初のは本気で俺の顔潰すつもりだったんだろ」
「ハッ、あれくらい避けられなきゃそれまでだってこった」
「その言葉そのまま返す」


間合いを取りながらの言葉での駆け引き。
言葉の応酬の間に微妙に切れた呼吸を戻し、相手の余裕を見る。
そのにやけた口元は、単なる殺し合いを喜びとしているものなのか、俺の独特らしい感情を喰っているのか、自分の優勢を確信しているのか。
一歩反応を間違えれば、判断を誤れば、気を抜けば、待ち受けているのは、死。


「ま、こんなナマクラだったら死ぬこたァねーだろ」
「打ち所が悪くなかったらな」


そっけなく返し、次は俺から仕掛ける。
右手の剣、左上から右下へ振り落とす。
簡単に弾かれることなんて予測済みだ。そして既に次の手は打っている。
左手に持ったナイフを手首だけの動きで放つ。
バルレルは体を一回転させ、さらにその勢いを殺さず槍を振り回す。
一瞬で頭に浮かぶ図式。

 バルレルの腕力 + 槍の重み × 遠心力 = 避けがたいスピード&受け止めがたいパワー 

狙われているのは、俺の首だ。
早い。
避ける手立ては、しゃがむ、下がる。
無理だ、舌打ち。
地面にみっともなく崩れ落ち、それに容赦なく突きつけられた槍。
殺されたのは、俺か。






中腰のまま満足に動けない状況でそう結果を認識すると、剣を手放して大の字に倒れた。
舞い上がる土ぼこりがまとわりつく。
それでも気分はそれほど悪くない。よくもないのは確かだが。
気付けば無音だった世界に音が戻ってくる。
自分の胸がドクドクと今更のように暴れているのを感じた。


「やーっぱバルレルのほうが上手か」
「たりめーだ。こんな姿でも人間なんざに負けられるかよ」
「希望があるならもっと制限をかけてやってもいいが」
「ざけんなッ!!これ以上やってられっか!!」
「お兄ちゃん・・・」


割り込んできたハサハの声に、体力を一瞬で使い切ってしまった体をのろのろと起こす。
バルレルの顔をみるとまたいつものしかめっ面。
ま、相手がそこらへんの野党だからな。
気付いてはいたけれども放置していた野党は俺ら三人をぐるりと囲んでいた。


「そのままだとつまらないから小細工を用意しました〜」
「小細工?ってかお前おかしくないか?」
「しばらくぶりの敗北は予想外にキたってことだよ」


サモナイト石をポケットから取り出す。その色は紫と赤。
差し出して笑ってやる。
自分自身の表情が、サモナイト石に映し出されたのをぼんやりと確認した。マグナだったら絶対にしないであろう邪悪な笑みを浮かべている。
召還術の範囲内から本能的に逃れようとするバルレルよりも早く、その名を呼ぶことに成功する。そしてバルレルがその名を聞いてヒクリと頬を引きつらせた。


てめェ、この俺にノロイを憑依させるなんていー度胸してやがんじゃねェか・・・」
「ついでにこの戦闘が終わるまでひっつくように言っといてやった」


まるで貧乏神のように背後に張り付くそれ。
もう一つの赤いサモナイト石を取り出して自分にも能力低下の憑依召還をする。
妙な感覚。慣れているような、そうでないような。脱力感か、それとも虚無感か。


「次は制限つきの野党潰し、だ」
「ハサハ、は?」
「その場で一回も攻撃を食らわなかったらご褒美をやる」
「じゃー俺には酒な」
「・・・バルレルは獲物使用禁止な」


はぁ!!??というバルレルの文句を無視して戦闘は始まった。
俺は体力が尽きて憑依された状態でなおかつノーダメージが目標だ。



この後三人がそれぞれご褒美がもらえたかどうかは、ま、予想通りってことで。









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リクエスト「憑依召還」夢主にて特訓でした。
・・・かなりバルレル贔屓ですが、しかも内容薄くてすみません・・・。
こんなんでよろしければっもらってやってくださいです。

沙來さまどうもありがとうございました!!