意外なことに、マグナという青年は、あの細腕で大剣をぶん回し扱うことができる腕力だ。
俺と最初に会った戦闘のときには、まだ細身の剣を使っていたのだが、レルムの村の戦闘で、どうやら使い物にならなくなったらしく、たまたまそのときに対面していた相手の大剣を奪い取ってから、マグナはそれを使い続けている。

行動を共にするようになってから少し経つが、いまだにわからない。 マグナという青年が。

普通に見ている分には、感情も表情も豊かで、表現も大げさでわかりやすく、素直だと思えるのだが、マグナを掴もうと観察してみると、とたんにするりと抜け落ちてしまう、なのにどこかひっかかる錯覚に陥る。
人よりは少しばかり見る目があると自負している俺にとっちゃあ、それはやっぱり面白くないわけだ。
――で、同じ大剣を使っている者同士、どっかで稽古でもしないかと誘って、マグナと二人で外に連れ出すことに成功した。







派手な金属音が耳を素通りするのを感じながら、だけど思考は違う働きをしていた。
大剣というものは基本的に何遍も打ち合うようには作られていない。
その理由は見てのとおりわかりやすく、重量があるため、一回振りぬく毎にバランスを崩しやすく、隙ができる。
それに、何遍も重いものをぶん回すものだから体力の消費も著しい。
それだけのデメリットがあるのに、俺がなおかつ大剣を獲物にしているのはただ小細工があまり好きじゃないからだ。
何回も斬り合って、フェイントを入れ、相手の思考や息を読み、不意を探し、命を削りあう。 そんな小難しいことを考えるよりも、大剣で一息もしくは二息に決着をつけたほうが俺の性格にあってる。

なのに、俺とマグナの大剣通しの攻防はなかなか決着がつかない。
それは、俺とマグナの実力がまったくの対等なのか、それとも、俺に合わせられているのか。
また、ひっかかり、それを忘れるがためにまた攻撃態勢に入る。

振りぬく、避ける、振り上げる、受け流される、振り下ろす、受け止められる。

膠着状態に入り、示し合わせるでもなくそろって二人して荒い息をそのままの体制で整えた。
ふ、と力が抜ける。
マグナがまず背中から倒れ、俺も脚を崩した。


「なぁマグナ」
「・・・何?」


何かおかしいところでもあった?と首をかしげる青年は、少し探せばどこにでもいそうな優しい子供そのものだ。
袖で顔にかいた汗を拭う手が、よくよく見れば相当に傷つき使い込まれている戦士の手だということに、一体どれほどの人が気づいているのだろう。


「蒼の派閥ってとこは、授業とかで大剣なんて教えたりするのか?」
「へ? ううん、基本的にあそこでは召喚術しか教えてないよ。 習うとしてもナイフくらいじゃないかな・・・?」
「なぁんでそこで語尾が上がるんだよ」
「あはは・・・、いやぁ・・・、俺、ナイフの授業って出たことなかったから」
「なんだ、サボってたのか? その気持ち、よぉっくわかるぜ!!」
「だよね!! ナイフなんかよりも自分で剣振り回してたほうが絶対役に立つしさぁ」


確かに、特に今のような状況だって、マグナの存在に何気なく助けられてることだし。
独学ながらもあれだけ剣を扱えるマグナにとっては、召喚師が護衛のために使うナイフなんていまさら、というところだろう。
一、二度、ネスティが敵に近づかれ、ナイフを構えてたことを見たことがあるが、その構えを見ても正直お粗末レベルだということはすぐにわかった。
召喚師には召喚術があれば他は何もいらないという考え方が影響されているのか、それとも護衛中やユニット召喚が身を挺して守ってくれると考えているからか。
確かに召喚術の力は偉大だとは思う、が、俺にはどうにもその考えは好きになれない、というか、理解もできそうになかった。


「しっかし、マグナはすごいな、独学でそこまで剣を扱えるようになるのって、なかなかできないぜ?」
「ほんと? ありがとう!!」


多少荒削りだが、言ったことに嘘はない。
下手に剣術を習って剣をぶん回してるだけの奴よりも、マグナは数段強かった。
その実力は、黒の旅団や野党との戦闘で充分に証明されている。


「だけど、なんだってそこまで剣に入れ込んでるんだ?」


何気なく浮かんだ疑問。 俺にしては珍しく頭に浮かんだ疑問がそのまま口をついて出た言葉だった。
寝転んだままのマグナはそのまま、苦笑いをして指先で頬をかく。


「もともと蒼を派閥に入るまでは剣を振り回してたんだよ。 で、派閥に入ってからも、召喚術に才能がなかったからとりあえず剣を取ったんだ」


確かにマグナは戦闘のなかで召喚術を多く使わない。 だけど、本人が自覚してるかどうかわからないが、威力はトリスほどなくても、召喚術の使いどころはすごくうまい。
たぶん、召喚術に対して苦手意識があるんだろうな。
あまり召喚術でいい思い出もないみたいだし。


「じゃあ、より剣の才能があったんだろうな。 俺から見たら、いーもん持ってるぜ」


にやりと悪戯な笑みを見せれば、マグナは嬉しそうに笑った。














そんな話をして、またしばらく打ち合って、世話になっている屋敷に帰る途中。
マグナには先に帰ってもらった。
帰る途中に寄った裏の店に、青年を連れてくのはまだ早い。
手の中にある少量の酒瓶のふたを開ける。 芳しいアルコールに気分をよくした。

だけど、いまだに胸のうちはすっきりしない。

何かをまだ、見落としている気がする。
頭から離れない。
今日一日を振り返る。
マグナのつかめない何か、それをようやく今日、少しはつかめたような気がしたのに、このもやもやは一体なんだっていうんだろう。


「わっかんねぇもんだなぁ・・・」


買い込んだ酒を少しだけ口に入れながらつぶやく。 と、声が大きすぎたのか、まわりから視線が集まってきたが、気にすることはない。
視線を気にするほど、それに慣れてないわけじゃない。


「フォルテ・・・あんた何してるの・・・」


その呆れた声に反応して顔を向ければ、ケイナがいた。
片手には、重量のある荷物。 買出しの帰りらしい。
とりあえずごまかしの笑いをしてみたが、効果はさほどなかった。


「よー、ケイナじゃねーか」
「まったく、あんた何やってるのよ」


荷物を持ってやりながら、二度目の問い。
まぁ、秘密にする内容でもないし、ケイナに言っても妙な表情をさせるだけだろう。
それに、もしかしたら全ては俺の考えすぎで、勘違いかもしれない。
今日のところはもう忘れよう。


「うんうん、きっとそれがいい」


一人脳内で出した結論に頷くと、またもケイナから呆れた目で見られた。






















「お兄ちゃんお兄ちゃん!! ほんっとうにもう、わかってるの!?」
「わかったって!! ほんっとにもうこれから気をつけるから勘弁してくれよ〜」
「いーやっ!! お兄ちゃん、絶っ対わかってない!!」

「・・・・・・どうしたんだ? あの兄妹」


屋敷に着くと、珍しく大声で騒いでいる双子がいた。
トリスがマグナの腕をがっちりとつかんで、マグナの耳元で叫んでいる。
マグナは情けない顔で、もう泣く寸前だ。


「トリス〜、もう勘弁してくれよぉ」
「だーめっ!! お兄ちゃんがもう怪我しないって誓ってくれるまで許さない!!」
「んな無茶なぁ・・・気をつけるからさ、な?」
「〜〜お兄ちゃんわかってない!! 全然わかってない!!」


――どうやら原因はマグナの怪我みたいだが・・・すごい騒動になってるな。
原因が原因なだけに、まわりも呆れて放置してるし、まぁ、俺もわざわざ関わるようなことしないが、見てるぶんには面白れぇし。
・・・・・・茶々でも入れてみるか?


「さーぁ誓って!! もう怪我なんかしないって!!」
「う〜、しないように気をつけるよ・・・」
「それじゃだめ!! 誓ってくれないと次の戦いのとき私、一番前に特攻するよ!?」
「なっ!!? それは駄目だって!! んなことさせられるわけないじゃないか!!」
「じゃー誓って!!」


――あぁ、今、わかった。 今までマグナに感じてきた違和感。
トリスが一番大切だっていうのは前々からお前さんの態度で知ってた。
だけど、違和感を感じてたのは、お前さんが自分自身をそれほど大事に思ってるわけじゃないんだな。
会話してて感じたのは、お前さん自身の趣向の話題が、トリスのことしかなかったことに対してのそれ。
トリスのために生き、トリスのために己を鍛え、トリスのために守り、トリスのためにきっとお前さんは死に、トリスのために全てをささげるんだろう。
そしてそれはきっと、無自覚に、当然に、何のためらいもなく。

だけど、マグナ。

それはとてもとても危うい。
それじゃあ、幸せの幅が狭いんだ。
トリスとじゃれあっている今は、幸せだろう。
引き離されていた何よりも一番大切なトリスと、今こうして触れ合って、お互いに感じあえる。
だけど、もし、それを失ってしまったら?
“失う”っていう言葉の中には、あらゆる意味が含まれているんだぜ?
そのときになったらマグナ、お前さんは一体どうする? どうなってしまうんだ?






じゃれ合う二人を見ながら、俺は思う。
俺は、お前さんの幸せを願うよ。
俺にできるのは、少しだけ離れて変化を見守るくらいだ。

お前さんが変わるのを、この目にする未来を、柄じゃないが、祈るよ。




























・・・フォルテの口調がつかめねー!!!
おおっと、つい虚無の素が(ぇ
経験豊富なフォルテから見た、マグナの危うさ、ということでしたが。
まぁ、もし彼が危うさを感じるとしたらこの部分かな、と。
なんとなくひっかかりを感じて、よくよく見て、ふとしたときにマグナの存在意義に危うさを感じる、と。

まー、私の経験値とフォルテの経験値が違いすぎて違和感バリバリの出来になってしまいました。

ALORCさま、虚無にはこれが精一杯です!!
こんなですが、リクエストありがとうございました!!