見上げると、大きすぎると感じる、満月。
月明かりは、わずかに残った家の残骸の陰を色濃く、はっきりと地に落としている。
上、から、下、へ。
月光が、落ちるのを、追う。
そんなもの、目に見えやしないのに。


「何を見てンだよ」
「・・・月光が、降り注がれるのを」
「はぁ?」


誰もお前になんかわかってもらおうなんて思っちゃいない。
自分でも、あまりよくわかってないのだから。


「もう酔ってんじゃねぇか」
「そんなことはない」
「そーなんだよ。 だから残りは全部俺によこせよな、ヒヒヒ」
「馬鹿を言うな」


隣の地べたに座り込んでいるのはバルレル。
まぁ、こんなことを俺に言うのは他にいない。


「まぁいい、飲もうぜ」


手の中には、小さな小さな杯。
口をつけて、のどに感じるわずかな痺れ。
感じない味。 しかし、存分に味わえる。
わずかに体に酒気が回っているのを感じる。


「あーもったいねぇ。 せっかくの極上の酒がこいつになんかに飲まれちまって・・・」
「悪魔にももったいないなんて言葉、あるのか」


くつりと笑って言えば、横目でじとりとにらまれた。
大人の姿でいるから、さすがに迫力がある。
本来の姿はこっちだと知ってはいるが、普段の子供の姿だから、別人のように思うのは仕方のないことだろう。
やはり高位の悪魔なだけあって、姿かたちは美しい力強さを持っていると思う。
――あぁ、俺は少し酔っているな。 バルレルにそんなことを思うなんて。


「ケケケ、なんだぁ? そんなに俺を見やがって、俺に惚れたか?」
「何言ってんだか」


俺にそんな趣味はない。
はっきりとそこは否定すると、バルレルの視線が不意に泳いだ。


「・・・・・・みえるか」
「嫌でもな。 うざってぇったらありゃしねぇ」
「――俺にはみえない」
「なんとなく感づいてはいるだろ」
「まぁ、な」


ここはレルムの村。
今は、村の者が誰一人として存在しない、滅びた村。
今ここにいるのは、月見酒と洒落込んだ俺とバルレルだけだ。


「さまよってるのか」
「どーでもいー、おら、もっと酒よこせ」
「慌てるな、まだまだあるんだから。 俺も飲むし」
「てめぇはちょっとでいいんだろーが。 味しねぇくせに」
「酒は何も味覚だけで味わうものじゃない。 この酒は美味いさ」
「雰囲気で味わうってか? ずいぶんと珍しく情緒的じゃねーか」
「・・・それが彼らへの弔いだろう」


荒れ狂う負の感情の中、わけもわからずにその命を失ってしまった彼らの魂への。


「ケケケ、結局それは残されたモンの都合だろーけどな」
「そうだな」
「ま、俺は酒がのめりゃあそれでいーぜ」


悪魔はご機嫌に、酒を飲み干す。
今日は好きなだけ飲んでも酒が切れないよう、大量に持ってきたから、奪い合うように飲まなくていい。
俺はバルレルの杯に酒を新たについでやりながら、上にある大きすぎる月を見上げた。
草木や、岩、焼けた家は照らすのに、魂は照らさない月光。
否、ただ俺の目が魂を捕らえられないだけなのだけれども。
だけど、一瞬だけ、まるで昇華されるような動きとともに現れる輝きが見えたとき、なんともいえない感傷に浸りそうで、俺はまた杯を傾けた。


「お、結構なハイペースじゃねーか」
「・・・・・・・・・美味い、からな」


俺が行動していれば、もしかしたら死ぬことはなかった彼ら。
彼らが、そのことを知れば、間違いなく俺を恨み、憎悪して、そして憎しむのだろう。
自虐的になるのは、大きすぎる満月のせいだ。
そう、責任転嫁して、さらに杯を傾けた。


























悪魔の目を見る。

一度に寄り添うように、まわりを回ってから、輪廻に還る魂の集団を。
許すように、託すようにそばに寄り、迷い無く還る輝きを。

だけど悪魔は何も言わない。

黙って杯を傾けて、極上の酒を味わう。


























しんみり終わります。
タイトルが、誰にかかるかはみなさんのご想像にお任せで。
んでもってさらにしたのほうに雰囲気ぶち壊しなおまけをつけさせていただきました。
しんみりをぶち壊したくない方は読まれないでください。

それではALORCさま、ありがとうございました!!





















































































「わっ、お酒臭い・・・」
「どうした? アメル。 ・・・・・・マグナ!! 君は馬鹿か!?」
「ん・・・おはよ、アメル、ネスティ」
「あ、おはようございます・・・って、マグナさん? 昨日お酒飲みしたね?」
「え? な、なんでアメル知ってんの?」
「こんなにおいさせてたら誰だってわかるさ!! こんなときになにをやっているんだ君は!?」
「え?え?あれ? さっきまでのシリアスな展開はどこ? なんか軽くなってない?」
「何わけのわからないことを言ってるんですか、マグナさん!! もしかしなくてもバルレル君にそそのかされたんでしょう!!! 駄目じゃないですか、彼はまだ子供なんですよ!!?」
「え、バルレルって俺たちよりもはるかに・・・」
「ケケケ、ま、せいぜいがんばるこったなぁ」
「あっ、バルレル、俺を見捨てるのか!? ひどい!!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・お兄ちゃん」
「と、トリス? それいにハサハも・・・、もしかして、一緒にお酒飲みたかったの?」
「マグナさんっ!!」
「マグナ!! 君はほんっとに馬鹿だろう!!」


「わっ、わわわわわ・・・、ごめんなさーいっ!!!」











よくわからないまま終わってみる。