『アンタ、そろそろいい加減にしないとホントに死ぬわよ』
俺のことをおそらく一番よく知っているであろう、ウサギのこの一言で、俺は火影様直々に休暇をとることを命じられた。
俺自身は疲れも感じていないし、まだまだやることはたくさんあったのだが、その言い分もまったく聞かずに、何故か現在暗部待機所に押し込められている。
ウサギに睨み付けられながらだと、せっかくの寝心地の良いソファーが台無しだ。
どうやらほっとくとまた勝手に動き回るだろうから、見てないと安心できないらしい。
俺はお前らの子供かと問いただしてみたくなったが、めんどくさくあったのでされるがままに目を閉じて横になっている。
だが、いつまで経っても眠気は一向にやってきてはくれない。
「――そういえば、最後に眠ったのっていつだ」
『アタシがアンタの寝息を聞いたのは十日前よ』
「・・・あぁ、もうそんなに経っていたのか?」
通りで微妙に頭の動きが鈍ってると思った。
そんなに眠ってないのなら当たり前だったな。
しかし、困ったな。 それにしては目を閉じても眠気が来ないんだが・・・。
「あれ、珍しい。 がいる」
「何してるの、ドクター」
かけられた声にまぶたと顔をあげると、仮面がいくつか。 と、俺を発見して仮面をはぎ捨てる紫苑。
見ようによってはこの光景、ホラーだ。
こいつら、室内でも仮面なんて暑苦しいもの、よく着けられてるな。
俺は邪魔なら仕事中でも外すのに、隠す必要があるかどうかの違いだろうか?
というか、紫苑はそんな簡単に素顔をさらしてもいいのか?
仮面を外さないのに疑問を浮かべつつ、外す紫苑にもそれを抱くっていうのも変なものだが。
「別になにも。 今日はオヤスミ」
「休みぃ? こんの忙しい時に?」
「強制的にな。 文句ならそこのウサギか火影に言ってくれ」
「ウサギー、なんでだけ休みなんだよー」
『あんたたち、が死んでもいいわけ?』
「「それは困る」」
「――なんかその返答に、色々と複雑な気分になるのは気のせいか?」
ん、なんか俺の言葉おかしかったか? まぁいいか。
暗部なんてそんなもんだろうけど、なんか微妙な気分だ。
『、あんたもさっさと寝なさいよ』
「や、なんか寝れないだけだし」
「強力らしい薬ここにあるぜー?」
「それそのまんま永久に起きれなくなるやつだろ、やめとけ」
懐から取り出した何気に物騒なビンを振りながら俺の前にかざすが、興味はなかった。
というより、このやり取りもただのお遊びだ。
「お前ら、薬物が俺に効くとでも本気で思ってるのか?」
「や、全然」
「言ってみただけー。 んな怒るなってー」
だろうな。
体自体が万能薬な俺にんな毒物が効くわけがないし。
それに。
「それ、俺が奴と共同開発したやつだし」
「ぅげ」
奴っていうのはシカマルのこと。
時々一緒に新種の薬物毒物札まで作ったりするのだが、まぁ、その成果は仮面の反応の通りだ。
シカマルが考案するのってたいていエグイのが多いからな。
「あー、腹減った」
ポンポンと弾む会話の中、紫苑がそう言って腰に着けていたポーチの中を探る。
そういえば、この部屋でこうやって暗部たちと話すのって初めてじゃないだろうか。
あれ、そういえば?
「俺、最後に飯食べたのっていつだ?」
「『――――』」
ウサギが心底呆れたように目をつぶった。
そして他の暗部も信じられないような目で俺を見る。
『アタシもすっかり忘れてたわ。 眠る前日に食べたっきりだったわね・・・』
しかも血液増進のための栄養食・・・と、ウサギの声に暗部たちは反応する。
あ、お前今テレパシーをこいつらにも聞こえるように使いやがった。 絶対にわざとだ。
ウサギの発言を聞いた紫苑たちの反応を予測してのことだ、というか、それを狙ったものとしか考えられない。
「は? お前寝たのっていつの話だよ?」
「・・・十日前らしい」
「はあああ!? 寝ろっ!! それはマジで死ぬだろ!! じゃなくてその前に食えよ!! とりあえずコレ食え!!」
差し出された携帯食を受け取り、無理矢理に食わされ、またも強制的に横にされた。
やわらかいソファーに沈む感覚が、なんとなく俺の逃げ道をなくしているような気がする。
「――待て、何故今印を組む」
「安心しろ、とりあえず金縛りだけだから」
そう言われて安心できるわけがない。 というか、安心させるつもりなら逆効果だ。
何が今は道具の持ち合わせがない、だ。 俺は薬物が効かないと言っているだろう。
目を見開いたままかけられた術に、頬が引きつったような気がした。
それは術の効果か、俺の心情からくるものかは判断つかない。
自力では目も閉じれなくなった俺に、金縛りをかけた紫苑は嫌な笑みをさせながら指先で俺の目を閉じさせた。
――なんだか、目を見開いたまま死んだ奴に対して閉じさせる行動と同じだよな、紫苑の奴め。
あー、ったく。
「こーやって寝てる顔はかわいーもんだよなぁ」
「まだまだガキだもんな」
『普段の顔と違いすぎるわよね』
完全に眠りについたらしいの不思議な色の髪を撫でる紫苑は、初めて会ったときの思い出に大きくうなづいた。
巻き込まれる事件はいつも妙にやっかいだし、お調子者でいつもまわりを振り回してばっかりだった俺がこいつに限っては振り回されっぱなし。
だけど、それを思い起こしても本気で嫌じゃないからなんとなく複雑な気分だ。
・・・・・・俺はマゾじゃないぞ。 絶対。
「紫苑もすっかり丸くなっちゃって・・・」
「ドクター効果だな」
「お前、すっかりの兄っぽいもんな」
『完全に尻にしかれてるけどね』
「こんなにやっかいな手のかかる弟なんざいらねーよ」
笑いながら、ソファーに沈んだを見ると、もわずかに笑っているような気がした。
あ、ちょっと幸せってやつを俺、今感じてるかも。
心の中でだけでそう思って、なんてことを思ってるのだろうと、恥ずかしくなった。
穏かな寝息が、幸せを示しているような気がした。
なんだか・・・これは何? ギャグなのか?
なんてセンスのない話をつくってしまったんだと反省。
椎さま、こんな出来になってしまいましたが、ありがとうございました!!