「今月分の、患者リストだ」


どんっと少し乱暴に置かれた書類の厚さは、5センチほどになっていた。 一番上の紙には、患者リスト○月○日、機密事項の文字。
今月は大掛かりな任務が立て続けに起こり、その分負傷者が大量に医務室へと運び込まれた。 そのほとんどが、下忍中忍だったが、命冥加が世間に発表された直後とあって、も相当働かされたらしい。

――そうさせたのは、この自分。


「――事前に予想できていたのなら、先に言え」


少し恨みがましい目と声で訴えられ、そうするとかわした。 しかし今回はまったくの予想外のことだったと一応言っておく。
では早速言っておかなければなるまい。


「・・・おそらく明後日。二十人ほど駆け込んでくるかもしれんのぅ・・・」
「・・・それをもっと早く言え」


大掛かりな任務の存在だけを伝えると、無駄話する時間も惜しいとばかりにの姿は陽炎の中に消える。
水晶玉に手をかざし、姿を見つけるとすでに自宅へと戻っているようだった。 早すぎる、いったいどんな手段を用いて瞬間移動したのかは知的好奇心がうずいた。 たしか、は瞬身の術が使えないはずだ。
今度たずねてみようか、と思ったところで水晶にナルトとシカマルの姿が映ったので、そちらに意識を集中させた。


『いいところに来た。 手伝え』
『は? 俺ら今帰ってきたばっかなんだけど』
『ったく、めんどくせぇなー』


彼らは相変わらずのようだ。 最近は任務の報告以外で顔をあわせることがないので少し寂しくは感じるが、彼らの成長を思えば良いことなのだろう。
水晶の中のが腕を一振りすると、また景色が移り変わる。
白い部屋、隅に見えるのはおそらく医療道具。 ではここは医務室なのだろう。
ぶつぶつ言う彼らに、それでも楽しそうに見えるのはわしの欲目だろうか。
が何か指示をし、動き始める彼らは無駄がなく、ずいぶんと慣れているようだった。 おそらく以前にも何度かは同じような経験があったのだろう。
大量にある包帯、効果の知れない薬、なぜかある縄やどう使うのかもわからない器具の手入れ、整頓をして、準備はすぐに終わったようだった。


『あー、今日はなるとだったよなー』


シカマルの言葉に、水晶の焦点をナルトに合わせる。
ナルトは嫌そうに顔をしかめていた。


『ったく、前回はシカマル、前々回は俺が行っただろ』


淡々と言うの声が聞こえる。 一体なんの話だろうか。
それにしても、彼らは何かを交替制でやっているほどに親しくなっていたとは、世の中どうなるかわからないものだ。
得に、昔の彼らを知っている自分にとっては。
まぁ、予想はつかなくもなかった。 彼らは特殊で似たような環境で育ち、なおかつ数少ない同年代だ。
しかし、こんなにも打ち解けた関係になるとは思わなかった。 彼らは互いに警戒心が強いのを良く知っているから。


『ったく・・・、じゃあいってきまーす』


印を組んで変化した青年が部屋を出て行く。
水晶は突然現れた青年を追いかけ、背景を外に写した。
ドアを開けると同時に、ナルトをまとう雰囲気が変わる。
完全に別人となったナルトはそのまま家を離れ、買い物に出かけたようだった。

――姿を偽らなければ、彼は未だに満足な買い物もできない。

そのことをこんな形で再認識すると共に、未だ、里の人々はかの事件にとらわれているという嘆き、それから、事件にかこつけて子供に暴力を振るう人がどのくらいいるのだろうか、と疑念を抱く。
ナルトだけじゃない。 その隣に長いこといたシカマルだって、異端児扱いを受けていた。
目には見えぬ、頭の中身の出来が違うというだけで。
彼らは、少し人とは違うものを持っているだけだ。 そして、それがあるために、普通の生き方を、当たり前であるはずの愛情や人間関係や友を、取り上げられてしまった。
ナルトとシカマル、この二人が出会い交流を持ったことで、それぞれが孤独だったころに感じていた危うい雰囲気はなくなったが、それでも、彼らは二人とも幼かった。
どちらも完全に頼り切ることは出来ず、お互いがお互いのために強くならなければならなかった。 そこに危うさが残らなかったと言い切れるわけがない。
二人の前では絶対に口には出せなかったが、いつ、壊れてしまっても、おかしくはないと思っていた。 もしその時が来てしまったら、わしが自らの手で終わらせてやろうかとも密かに誓っていた。
そんな誓いしかできない自分を、あんなにも感じたことはない。


" "


過去のはずの、今もまだなお、続いている事件の被害者の一人。
かの事件でまだ母親の腹の中にいたころに父親というものをなくした彼は、確かに悲惨ではあるが、そのときには珍しくもないことであった。
父親、母親、子供、兄弟、恋人、友人・・・大切な人、それ以外のものを失ったのは、ほぼ里にいる人々全員に言えるだろう。 むしろ、失ったものが皆無であることのほうが奇跡だ。
それほど、かの事件は強大であり、凶悪で、最悪だった。
だから、彼の名前は見たものの、たいして気にかけることはしなかったのだ。 いや、言い訳かもしれないが、できなかった。
その子供の異質に気付いたのは、一人の暗部がこれ以上隠し続けるのも面倒だと、その正体を暴露したときだった。
少々問題はあるが、その腕は信頼している暗部が、ナルトたちよりも年下だと、そのとき初めて知る。

何故、と思った。 やはり、とも考えた。

子供らしくない彼。 世の中の醜い部分を知り、関わり、そして受け流し時には絡めとる、そんなおおよそ子供らしくない彼は、だけど、やはりまだ若いのだ。

先が短い老人がどこまで、いつまで彼らの手助けができるかを思うとまた気分が落ち込みそうだが、できるだけ、彼らが幸せになれるよう・・・、一体どうしてやればいいのか。


『とりあえずジジイ いつまでもジロジロ見てんじゃねーよ お前はストーカーか』


・・・・・・うんうん、無事にナルトは反抗期に入ってくれたかの・・・。
昔は反抗期なんてものではなかったからのぅ・・・。












と、いう感じで、火影視点からの主人公ズでしたー。
・・・なんでだろう、なんでシリアスでがんばったのに、最後の最後でこんなしょーもないオチ。
一応、がんばってウン十年老けて何十も下の子供を見守る気分で書いてみたのですが、いかがでしょうか。
・・・、まぁ、虚無の想像力はあんまりたくましくないのでおかしな感じになってるかもしれません・・・。

では椎さま、リクエストありがとうございました!! これからも連載ともどもよろしくお願いします!