「ー、今暇か?」
――来た。 暇人が。
どこをどう見たって暇をしているわけがない俺にこんなことを言ってくるのは紫苑。 俺が忍者なんてものをやっている元凶だ。
「熱い、ひっつくな失せろ」
「わーおさんってば今日は不機嫌さーん?」
のしっと背中からの重圧に文句を言えば、まるで犬のようにぐりぐりと何かこすり付けられる感覚がする。
・・・こいつって確か、俺よりも一回り以上も上の年齢だったよな・・・。
こすり付けられて揺さぶられるおかげで明日提出しなければならない(しかも手書き)書類も揺れる。
筆なんて使い慣れているわけがないから、俺の書く文字はメチャクチャだ。
まったく、なんでわざわざ手を入れた患者の情報をいちいち書類にしなきゃならないんだ・・・。
「ー、遊べー、構えー」
「・・・いいか紫苑、よく見ろ」
これのどこが暇に見えて、そしてどうして俺が紫苑に構ってやらなければいけなくて、そもそも構うという表現がおかしいことに気付け。 お前はそれでも里のエリートの暗部なのか。
暇なら任務でも取って来い。 そうしたら火影も俺も喜ぶぞ。 最近人手不足だと嘆いていたのを俺は見たからな。 それでも昔よりはましになったらしいが。
もしくは俺の仕事を手伝え、筆の進みが遅くてさっきから自分でいらいらしてるんだ。
「何やってんだ・・? うわ・・・これは・・・新しい暗号か?」
「うるさい、だったら手伝え」
これでも俺は普通の文字を書いているつもりだ。
筆を紫苑に放って渡し、ウサギのメモを清書するよう命令する。
「うわ、こんな大量にやんのかよ・・・」
「これでもだいぶ減らしたほうだ」
「・・・ちなみに、期限はいつまでだったりする?」
「明日の午前中には提出だな」
里への報告書は、何かのセキュリティなのか、専用のスミで、しかも手書きでしなければならないから俺の手はスミだらけで真っ黒になっていた。
慣れない筆でやっている俺は、だいぶ精神的にも消耗していた。
「紫苑、俺はこれから休憩する。 それまでにそれ、半分にしておけ」
「げっ!? そんな横暴な!?」
「・・・できてたら好きな料理を作ってやる」
「よっしゃー! ばっちり俺にまかせとけ!!」
俺のオムハンバーグ待ってろよー!! という声を背中に受けながら、なんだかさっきよりもぐっと疲れた。
最近、奴の使い方がわかってきたような気がする。
「ー、ー?」
ふっと持ち上がる感覚、いつのまにか眠っていたらしい。
体を起こすと、ちょうど俺を探していたのか、ナルトが部屋の入り口から顔を出して俺を覗いていた。
俺が起きたのを確認して、にっかりと笑う。
「見つけたってばよー」
「・・・・・・用は、なんだ」
嫌な、というか、ろくでもない予感がする。 ここには俺しかいないはずなのに、ドベな奴がなにもないわけがない。
寝ていたソファーから立ち上がるとそれはもうすてきな笑顔で彼は言ってくれた。
「今日の晩飯、特製味噌ラーメンな」
「・・・は?」
放たれたセリフの意味が良く飲み込めず、面食らっている間に新たな来客。
髪は下ろしてはいるが、変化もなにもしていないからわからないわけがない。 シカマルだ。
「俺はさばの味噌煮なー」
まて、何を言っているんだお前たちは。
俺は今日これから紫苑のを作らないといけないんだ・・・が・・・・・・まさか。
「俺の仕事をやったから紫苑だけじゃなくお前らのリクエストも聞け、と、そう言いたいわけかお前ら」
「お、にしては物分りがいいな」
「そのとおりー」
ちゃんと全部やっておいたから感謝しろよーって、今日三食も別メニューを作らなきゃならないのか俺は。
・・・そんな面倒なことを俺がするわけがないだろう。
だいたい、お前らにはそんな約束していないんだからリクエストメニューを作ってやる義理はない。
「あー、楽しみだよなー今日の晩飯」
「さっさと任務を終わらせてこーぜ」
「・・・おい」
俺の言葉を待たずに二人は姿を消した。
任務に向かったのはさっきの言葉でわかるが・・・、俺の話を聞け。
取り残されて呆然としていると、紫苑が俺を現実へ戻してくれた。
連れられるがままに書類を置いていた部屋に戻ると、見えた書類の山はさっきのナルトの言葉が嘘じゃなかったことを示していた。
・・・これは、本当に三食作らないとならないパターンかもしれない。
だけど俺はそんなの・・・いくらなんでも無理だろう、それは。
だけど無視したら暴動を起こしそうな予感がする。
「や、二人ともなんでか知んねーけどすごく楽しそうに仕事やってくれたぜ、なんか久しぶりにまともなメシ食えるーって」
・・・いやいやいや、いくらなんでもそれだけで流されちゃ駄目だろ、そもそも、俺があいつらを世話してて、最近はその世話を放棄しているみたいじゃないか。
なんで俺が育児放棄したみたいに感じなきゃならないんだ。
「あいつらも大変だよなー。 確か長期任務帰りだろあれ? それでの仕事手伝って、スグまた任務だし」
流されるな耳を貸すなぐらぐらするな・・・。
ほら、確か、こんなときは丹田に力を入れて耐えるんだ・・・!
「あいつら育ち盛りなのに携帯食ばっか食ってるんだろーなー。 俺あれ嫌い。 味しねーしゆっくり食えねーし」
俺はこいつらの母親でも保護者でもねーし・・・そもそもここにいる誰よりも肉体年齢は下だし・・・。
「今頃早く任務終わらせよーと多分多少の無理してるんだろーなー」
・・・・・・・・・
とりあえずその日の買い物袋がずっしりと重かったことだけをここに記しておく。
てな感じで、かなり自分の中ではギャグっぽくなってしまったような気がしますが、年下なのにおかんっぽくなってしまった主人公くんでした☆(なんか違う
緋蝶さま、お気に召していただけたでしょうか?
くすりと笑っていただければ幸いです。
主人公はこれからもきっとこんな立ち位置で苦労していくんでしょうね(笑
それでは、リクエストありがとうございました!!