「そう言えば、今年は彼女に花を買ってあげないの?」
偶然会ったに、そう聞いた裏には、まだ彼女と続いているのか、という意味も含めていた。
あれから一年経った今でも「何よりも大切」と言い切ったを忘れることはなく、きっと今年もプレゼントをするのだろうと思っていた。
何も頼まれていないのに、の彼女のためにと特別な花と、包装を仕入れてしまったのに、当のは普段通りで、もしかしたら忘れてしまったか、別れてしまったか、とも思う。
「・・・あぁ、もうそんな季節か」
はここではないどこかを見て、ぼそりとまた何か、言葉を落とす。
あまりに小さすぎたその言葉は聞き取れず、どこか悲しそうな表情にまさか、と思ったが。
「いの、去年と同じようなもの、頼めるか」
自分に向けられた、小さいながらもはっきり聞こえた注文の言葉たちに、幸せな気分になった。
だって、の彼女が私の作った花束を気に入ってくれたという意味だったから。
「任せてよね。 去年よりも良いものをプレゼントさせてあげるんだから。 この私に感謝しなさいよー?」
休暇をとり、いのから花束を受け取る。
宣言通り、花束は記憶にあるものよりもきれいで、心穏やかな気分にさせてくれた。
それは事前に準備していたということの他にも、いのに花を生かす技術が去年よりも上がっていることを示しているのだろう。
――去年とは、違うソレ。
ひかえめに香る花びらを散らさないよう、ゆっくりと歩いて移動すると、目に見える景色にも様々は変化があることに気付く。
店が変わる、空き地には家が建つ、犬の散歩道になっていたり、猫の集会も見かけた。
まぁ、当たり前かとも思う。 不変は基本的にありえないのだから。
だが、しばらくすると森の中へ入り、例の場所へ着くと、まるで時が戻ってしまったような感覚に陥ってしまう。
一年の歳月がまるで感じられないこの場所に、眠っている最愛の人を想う。
花束を無造作に落とした。
何かしようと思わずとも、そうであるのが当然のように、俺は唄を歌いだす。
まったく、あの時と同じだった。 一年前の、この季節と。
時を巻き戻し、あの日に戻ってきたよう、と、表現するのがこの状態なのだろう。
だけど、この表現方法が頭に浮かぶことこそ、俺の中身の変化を物語っていた。
去年の俺は、母であるあの人で全てだったのだと、今ならわかる。
動物たちが花束に群がる。
食みながら、俺の唄を聴く。
そこは、とても、 とても静かな空間だった。
「へぇ、は歌うのも上手いのか」
「かなり意外だな」
静かな空間は、俺の唄が終わった数秒後にあっけなく簡単に崩された。
今、声をかけられるまで気付かなかったのが不思議なほどの強烈な輝き。
ナルトとシカマルは俺の隣までやってきて、何もなくなってしまった地面を見た。
そこには、ただ地面があるだけのはずなのに、二人はこの地が何を意味しているのか、俺が何をしにきているのか、わかっているらしい。
地べたに座り込み、俺は二人の間に引きずり落とされた。 そして、グイッと何かを飲まされる。
体は飲まされたものの成分を自動的に分析する。 ・・・これは、アルコールか。
どうしてこんなことになるのか、わけがわからず二人の顔を交互に見るが、いそいそとそれぞれ杯を口に運んでいくばかりで何もわからない。
浅く広い杯を持たされ、酒を注がれてただ呆然とする。
なぜここに二人がいるのか、一体何をしているのか、これには一体何の意味があるのか、疑問がぐるぐると回り、ついで視点も泳ぎ回る。
ただうながされるままに杯を口に運び、液体をのどに通せばある事に気付き、そしてそれも疑問に変化した。
「これ、お前らが言ってたとっておきのやつじゃなかったか?」
「やっぱ一升で家が買える酒は違うよなー、超うめぇ」
一気飲みしたナルトにシカマルはつまみを手に取りながらちびちびと飲む。
つまみなんていつの間に用意したんだ。 ってか、何気にそのつまみも豪華だ。
この燻製肉なんて、たしか遥か遠くに生息している凶悪な動物の肉っぽいのは気のせいか?
「まぁ、深く考えるな、はげるぞ」
「・・・お前にだけは言われたくないセリフだな」
ようやく普段のペースが戻ってきた。
つまみに手をつけ、酒を一口飲むと、体のうちのどこかが落ちる。
「で、どうしてここにいるんだ?」
じとりと睨みつけると、意地の悪い笑みが返ってる。
まるでいたずら決行時のような表情が俺に向けられて、反射的に上半身が後ろに下がった。
「たまたま聞いたんだよ。 が最愛の彼女にプレゼントするってな。 これは真相を確かめたほうがいいだろ?」
「お前はその気がねーのかもしれないがな、俺らに隠し事ができると思ってんのか?」
――別に、そんなこと考えたことなかったな。
「だからって、乱入してくるか?」
「墓前では、生きてる奴がドンチャン騒ぎして楽しませるのが常識だっての」
そうだったか? ただ、自分らが理由をつけて騒ぎたいだけじゃ・・・。
――母を楽しませる・・・か、まぁ、そういう考えもいいかもしれない。
母さん。
だとしたら、去年は俺一人で、一つ歌って、あなたはもしかしたら、寂しかったかもしれない。
でも、今年はこいつらが楽しませてくれるってさ。
馬鹿丸出しで、ガキなのにこんなに高価な酒を平然と飲むし、人の話を聞かない奴らだけど。
でもやるときはやる奴だし、こうしてうまい酒も飲ましてくれるし、こうして俺のことを気遣ってくれてるみたいだ。
たった一年。
たったそれだけの時で、変化していったよ。 里も、人も、俺のまわりも、きっと俺自身も。
杯にある酒を振りかぶり、全員で高価な酒を頭から被る。
全員が笑う。
何があっても、今はおもしろくて仕方が無い。
「ッ! テメッ、なんてもったいねーことを!!」
「ぎゃははは! 酒クセェ!」
「うるさいな。 って、わ、なめてくんな気色悪い!!」
――どこかでやさしい笑みを向けられた気がした。
えー前にあったリクエストの続編のようになっております。
そちらもあわせてお楽しみいただけると・・・(宣伝かよ
それでは華蓮サマ、リクエストありがとうございました!