――なんでおれはここにいるんだろう。
俺は、生まれてから何度この言葉を繰り返しただろうか。
目の前には、なぜか色とりどりの豪華な食事。 なんだかイメージとは違うような気もするが、これは俺たちの夕飯らしい。
だれが用意したか・・・・・・もちろん俺じゃない。 俺は料理はするものの、こんなに大量な食事は作ったこともないし、食べることもない。
「さ、たくさんあるから遠慮なく食べなさい!!」
にっかり笑ってそう促すのは、奈良ヨシノ。 苗字で分かるとおり、シカマルの母親だ。
こんな何十人前もありそうなモンを、子供三人で全て食えとか言っているような気がする。 考えるまでもなく、無理だ。
だが、彼女は本気でこの大量の食料を食べさせるつもりのようだ。
ずいぶんとうれしそうににこにこしている。 なんだかこちらが悪いことをしているような気がする。 何故だ。
シカマル母からの期待の視線から現実逃避する。 そのついでに、なんでこんなことになっているかをもう一度思い出してみよう。
たまたまアカデミーの帰り道、たまたまシカマルとナルトに遭遇、いつものように軽く話して別れようとしていたのだが、たまたまそこへ買い物へ向かう途中だったらしいシカマル母が通りかかって一緒にいるところを目撃。 そしてどう見間違えたのか、とても仲がよさそうに見られ、数少ない息子の友人と交流をはかろうとシカマル宅に連れ込まれ、いろいろあった末に現在に至る、と。
・・・意味がわからない。
とりあえずかろうじてわかるであろう箇所は、シカマルには友達がいないであろうってところだけだ。
「――シカマル」
「んだよ」
「お前ってさびしーヤツなのか」
ゴッ
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
「テメーに言われたくねーな」
こいつ、俺の頭容赦なく殴りやがった!!
しかもすごい音したぞ、音が。
机の下でけり返してやると、シカマルもイイところに入ったのか、身悶えた。 弾みで机が浮き、ガシャンと食器類が音をたてる。
「テメェなにすんだ!!」
「元々はシカマルが悪い」
「はぁ!? 明らかにお前のほうが先だろ!?」
「手を出したのはお前だ」
「・・・ほーぉ、そういうか」
ガツッ!!!!! ・・・・・・・・・・・・・・・
「いい加減にやめなさい? 食事前よ」
「「ハイ」」
なんだこの理不尽な迫力。 言ってることは正しいんだろうけど。
・・・・・・笑顔、だよな、これ。
すごく恐怖を感じるのは俺の気のせいか。
「まったく、ナルト君が一番おとなしいじゃない。 もっと騒がしいと思ってたけど」
そういえば、今日のナルトはやけに静かな気がする。
いつもだったら俺なんかよりも騒いで、一人注目を浴びてるはずなのに。 どこか調子が悪いのだろうか。
いや、さっきまではいつものように騒がしいドベナルトだったよな・・・。 この家に来てからか? 大人しくなったのは。
もしかして、ナルトは人見知りってヤツなのかもしれないな。 ナルトにはまったく関係ないものだと思っていたが、そうでもないのか。
「ナルト、また何の新しいキャラだそれ」
「え、・・・えと」
「ナルト君も遠慮せずに、ここを自分の家だと思ってくつろいでね」
その言葉を聞いた瞬間、ナルトの目が見開かれた。
驚いているらしい。 一体なにに対してだろう。
シカマル母の言葉はそう変なことでもないし、シカマルだって何のリアクションもないのだから、俺の勘違いってわけでもないだろう。
とりあえず大量に盛り付けられているから揚げの山から、ふたつを小皿に山盛りに盛って、大皿を押しのける。
「これ、お前らのノルマな」
「は? もっと食えよ」
「遠慮はいらないわよー? っていうか作りすぎちゃったから残されても困るし」
「お前ら、食え。 ぜってー食い尽くせ。 じゃねぇとしばらく俺のメシがから揚げだけになる・・・」
軽くじゃれあいながら手を合わせていただきます、という。
他ではしたことがないが、シカマルの母親の目の前だ、印象を悪くしないようには注意をしておくことにしている。
野菜炒め、からあげ、しょうが焼き、スープ、どれも自分で作ったことのない味で、とてもおいしかった。
途中からは口のなかがギトギトしてしまったのだけれども、普段あまりこういった油味の多い食事を食べてないから、慣れていないのだろう。
シカマルの母親も食事に加わる。 少量しか自分の小皿に盛らない俺が気に入らないのか、大盛りに盛った皿を押し付けられてまいった。
彼女に気付かれないようにナルトとシカマルにその皿の中身をうつそうとするが、母の勘か女の勘か、ことごとく阻まれ、最終的には大人しく食べさせられることになる。
「あー、俺、今までで一番食った。 腹が破れる」
「はいつも小食すぎるから、今日くらいでちょうどいいんじゃねーか?」
「だらしねぇなぁ・・・」
とにかく食いすぎて気持ち悪い。 普段の数十倍の食い物が俺の胃の中でぐるぐるとまわっていて、急なことに驚きつつもかなりのペースで消化しようと動いている。
しばらくはうごけないな・・・、まぁ、今日はここに泊まるから動く必要がないか。
もしこれで家まで帰らなきゃならないってなってしまっていたら・・・、想像もしたくない。
あお向けに寝転んで床の上に大の字になる。 腹の皮がパンパンに張って苦しさを感じ、横向きになろうとして、あまりの腹の重さに断念した。
目だけ動かして一緒に食べていた二人を見れば、俺の家でいるときと同じように好き勝手にくつろいでいる。
なんでだ、二人とも俺の倍以上平らげているのになんでそんないつもどおりなんだ二人とも。
「そりゃあ、食べ盛りだからだろ」
「お前とは普段から食う量が違うっての」
今、俺はこいつらに若干の殺意を覚えた。
殴ってやりたいのに体が重くて動けない。 今動いたらそれこそ吐く。 撒き散らす。
そのときの大惨事を想像してしまい、ヒヤリとした。
「なぁ、シカマル」
妙に静かなナルトの声に、思考は中断させられた。 身動きせずに、続いて聞こえてくる声を待つ。
ナルトは胡坐をかいて、不機嫌そうにある一点を見つめていた。 たぶん、そこに何かがあるってわけではなく、どこかに視線を落ち着かせているだけだろう。
「お前の母さんってさ・・・、なんとも思ってないのか?」
言いたいことの意味が俺には読み取れない。 ちゃんと主語を含めて正しい文章で話せ。
だが、頭のいいシカマルには、ナルトの聞きたいことがちゃんと伝わったようだった。
「九尾のことか? 今日の感じでは何も思ってないっていうよりは気にしてないっつーか、気にしてもしょーがねーって感じだな」
「・・・なんでここに九尾が出てくるんだ」
十年前の大妖怪、俺の力の源。
両者からは呆れたような、何だこいつというような目が向けられた。 覚えのない俺は余計に疑問が増していく。
九尾・・・か。 十年前の事件がらみでなにかあるのか?
「十年経った今でも九尾事件を忘れられずにいる恨み、嫌悪している奴らが多いってことだよ」
「――そいつらは時効って言葉を知らないのか」
というより、十年もの長い年月、あの美しい妖怪への恨みつらみを持ち続けているっていうのはある意味すごいかもしれないが。
・・・あぁ、それでナルトは腹に九尾を封印しているからって、いっしょくたにされて里中から嫌われているのか。
なるほど、どおりでナルトと一緒にいるとやけに視線とか侮蔑の言葉を向けられると思った。 そういうことだったのか。
納得のいった俺の表情を見て、シカマルは呆れため息をついた。
「ふーん、てっきりナルトのそのドベ演技は趣味なのかと思ってた」
「んなワケあるか」
「そうやって他人を欺いたりするのが好きそうじゃないか、お前」
腹にけりを食らわされそうになったので、全力で阻止した。
今の俺にその攻撃はないだろ。 多分ダメージ食らうのお前だけじゃないぞ。
「なに馬鹿みてーなことやってんだよ」
シカマルがだるそうに体を起こす。 たかだか十歳の子供がよっこらせ、と掛け声を上げるのはどうかと思う。 ジジくさいのは今に始まったことじゃないが。
指を空に引っ掛ける動作をすると、部屋の明かりが落ちて、完全に寝る体制になった。
時間ももう遅い。 なんだか途中で会話を打ち切られたような気がしなくもないが、眠くなってきたのは確かなので、同じ体制のまま、俺も大人しく目を閉じた。
少し離れたところで人が動いている音がする。 おそらくシカマルの母親だろう。
明日の準備でもしているのだろうか。
朝からまた騒がしくなりそうな予感がする。 母親っていうのは、みんなあんな感じなのだろうか?
まぁ、きっと、たまにはこんな日常も悪くはないだろう。 大量に食べさせようとするのには困ったが。
副題「そうだ、シカマル宅に泊ろう」でした。(ぇ
ヨシノさんの名前がどうしても思い出せなくてキャラブック探し回ったのは秘密です。
彼女を選んだ理由としては、やっぱり魅力的だからですv パワフルでまさにおかん!って感じで(笑
ルイサマ、こんな感じのになってしまいましたが、いかがでしょうか? たいしたもんができなくてすみません・・・;;
大変遅くなってしまいましたが、リクエストありがとうございました!!