「ん〜、君ってさぁ・・・いや、なんでもないや、気にしないで」
俺にしては珍しく、カカシの言わなかった先の台詞を察することができた。
おおかた、やる気あるのかとか、いつもこんな感じなのかとかそんなところだろう、おそらくは。
まぁ、カカシの腰にぶら下がってる鈴をとらなければアカデミーに逆戻りなのに、自分の仕掛けたトラップの中に閉じこもってたら誰でもそう思うだろうな。
しかも、トラップの範囲はそこまで広くない、飛び道具で簡単に攻撃できるし、術だって届く。 それなのに、俺にはそれらをよけるだけのスペースも作っていない。
まぁ、自分で自分を追い詰めてるように見えるよなぁ。
ぼんやりと意識を飛ばすと、カカシのただでさえ力の入ってない目が脱力した。
「――あのさ、やっぱり君、忍びになる気ないでしょ」
「別にないけど」
別に忍者にならなくてもいい、大体俺、忍術幻術体術その他もろもろがほとんど使えないし・・・、むしろ、俺を忍者として認定すると他に対してまずいんじゃなかろうか。
それに、忍者として認定されたら色々と面倒ごとが起こりそうだし、俺としてはこのままアカデミーに逆戻り、それから才能やらなんやらがないってことにして退学、一般人として一生を送るっていうほうが楽そうだ。
ホント、何で俺が今、こんなことをする羽目になってるんだろうか、流れか。
・・・まぁでも、黙ってカカシにやられて失格になるほど俺は自虐的でもないはずだから、一応は抵抗しておくか。
「普通に喰らうつもりもないし、自分のトラップにひっかかるような間抜けしないから」
「!?」
飛来してくる刃物の軌道を操作して外し、だらりともたれかかっていた木の幹からようやく背中を離す。
カカシが来なければ時間まで睡眠でもとろうかと思っていたが、そんなに都合よくはないか。
大きく伸びをして、首をまわす。
そして、カカシのほうに顔を向ける瞬間、迫ってくる炎を握りつぶした。
―― ? まぁ、今はいいか。
俺にしか視覚できない糸を、指に引っ掛けて切る。
「カカシ、とりあえずそこにいると、死ぬと思う」
地中から現れた何色とも判別できない完全な球体が、決壊する。
「――これはあんまり使い勝手が良くないな、アイディアはいいと思ったんだが」
きっちり俺の半径五メートルを焼き尽くした跡を観察しながら、実験結果を記録に残す。
焼け跡の土を手に取って確認してみると、見事に灰化してた。
それどころか、なんか妙な磁界っぽいものまで生み出してる。
「・・・これは放置しておくと、呼び寄せたりしそうだな」
何をって、もちろん妖怪とかそういうものの類だ。
あとでこの妙な空気をなんとかしとかないと、里内がパニックになるかもしれない。
・・・・・・ウサギがブチ切れて脳内出血起こしそうだ、なんか今も激昂してるっぽい妖気を感じるし。
だけど、今は、このうさんくさそうな上忍をなんとかしなければならないらしいから、後回し。
忘却はしないように気をつけとこう。
「おっそろしい威力だね、コレ。 君のオリジナル?」
「一応は。 できればあんたに受けてもらってデータを取りたかったんだけどな」
「・・・さらっと怖いこと言うネー」
「頭に浮かんだことをそのまま言ってるだけだが」
指先に炎を創りながら、回収しそこなったトラップの残骸を視界の隅に入れて確認する。
カカシの眉間がわずかに寄る。
おそらく原因は、俺の指先に生まれ出た、五の、十の、十五の、球体。
「たぶん死にはしないから大丈夫、だと思うから」
「遠慮しておくヨ。 君のその保障はものすごく信用できないしネ」
まぁ、きっとそうだろう。
さっきの見せ付けられたら、俺だって信用できない。
「なんか見当違いなこと考えてるみたいだけど、さっきの見て言ってるんじゃなくて、君の言い方が信用できないんだヨ?」
そうなのか。
「まぁ、とりあえず、喰らってください」
懐から取り出したのは、アカデミーで支給された手裏剣やら千本やら。
それらを妖力で空中に浮かし、さらに炎を纏わりつかせる。
一瞬の異臭のあとに、忍具が微妙に形を変えたのには気付かないふりをしといた。
なんだか急にめんどくさくなってきたな。
タイムリミットはまだなのか?
カカシの反応を見ることもなく、忍具をある範囲内でランダムに飛びまわさせると、俺の周りの空気は熱いような、冷たいような異界を作り出す。
この空気は、人体に有害っぽい。 もちろん俺は平気だけど、もしかしたら結界代わりになるかもしれない。
飛び回る炎を見ると、なぜか十年前を思い出す。
懐かしくなってきた俺は、炎たちに思念を向けた。
さぁ、踊り狂え、あの時のように、非情に、妖艶に、残酷に、
ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!
その音を聞いたとき、俺は本気で安堵した。
大きな音にまぎれて、大きく息をつく。
今の今まで避けて避けて避けまくっていた炎は、終了の合図と同時に、媒体としていたはずの忍具とともに空中に溶けた。
・・・火影様からの特異は聞いていた。 だから、こうなる事態は予測はしていたんだ。
だけど、まさかここまで・・・。
ここまで、十年前の事件を自分が引きずっているとは思わなかった。
あの炎を見て、真っ先に思い出したのは、十年前の九尾の周りをさまよっていた炎。
あの炎に、俺のずいぶん年上の同僚は、何人も焼かれたのは、記憶から薄れても完全になくなることはない。
だが、あの炎に、自分の隠されたトラウマがあるなんて、自分の気持ちの整理はついていたはずなのに、戸惑う。
「カカシ上忍、具合でも悪いのか?」
原因が平然とした顔で俺の顔をじっと見てきたけど、笑みをつくってやりすごした。
「じゃあ、いったん戻ろうか」
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そうとう下書きから削りました。
カカシ先生、動揺してます。