まずスタートダッシュで超全力疾走。
次にこけそうになってかなり全力疾走。
後ろ見ておっかない形相にビビリまくって無茶苦茶全力疾走。
いろんな道や屋根の上を使いまくってとにかく全力疾走。
追ってくる姿が見えなくなってもありえないくらいに全力疾走。
全力疾走全力疾走全力疾走。
・・・・・・だぁああ!!も、限界!!
大体全ての力をかけるから全力というのであって長い時間走れないのは当然のことであって!!しかも、俺・・・、俺は・・・・・・。
メシ食ってねーんだよ!!(←心の中だけの心の底からの叫び。
つまり、燃費わりーの!!おわかり!?
ってか空気通しすぎて喉いてーし!!
心臓バクバクすぎてうるさいくらいだしよ!!
あーーーー、もー駄目だ、走れねー、というか指一本動かす気力すらねー。
とにかくあれだ。ここは休憩を取んないと本気で死ぬ。
もちろん、ほんきと書いて、マジと読む。
あーーーーーー。
ん、あれ。
明るくなってる。
・・・もしかして寝た?俺寝ちまった!?
しかもこんな薄暗い裏路地で地べたに座り込んで一夜を明かしたのかよ!?
慌てて立ち上がって、着物に付いた汚れをはたく。
あー、でも、昨日の夜は散々だったな・・・。
一日中仕事探し、というか街をうろついてたらカツアゲに会うし変な集団に追い掛け回されるし。
・・・やめよう、なんか思い出すだけで寒気がする。というか奴らのことを考えただけでまた追いかけられそうな気がする。
ん?
あ、なんかあっち表通り?すっげぇ人だかり。なんかあったのかな?
みんなして同じとこ見て・・・・・・あれ、立て札ってやつ、か?
んー、昔の人の文字って読みにくいなー。何々?
尋ね人??黒の着物に金の髪を持った、長身痩躯の男・・・・・・新撰組まで。
へぇー、この者を捕らえた奴には賞金も出すんだって。
こっちの金銭感覚ってよくわかんないけど、小判って書いてあるから相当のもんじゃねーか?
というか、この時代にも金髪っているのかね?
しかも着物ってことは外国人ってわけじゃないだろうし、ってこの時代にはまだ外国人入って来れないんだっけ?
だとすると地毛で金髪の日本人、まぁこの時代にはまだ染料なんてないだろうしなぁ・・・。あったら俺に譲って欲しいところだ・・・。
ん?
俺、忘れてたけど、今黒の着物、着てたよーな。
んでもって、俺、金髪に染めてたよーな。
さらに、昨日なんかの集団に追っかけまわされてたよーな・
・・・・・・あのー、もしかしてこの人物、俺だったりします?
ええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!????
お、おおお俺!?まだ犯罪した覚えありませんよ!!?濡れ衣っ!!むしろ濡れネズミでドブネズミでドブさらいで無一文!!
や!!んなことかんけー無いし!!
あ!!もしかして昨日のカツアゲ集団の仲間だって誤解されてるのかも!?
ちゃんと違うって言っとけよあいつらーー!!
お前らのせいで俺犯罪者にっっ!!
――――逃げよう。とにかく逃げるしかない。
そう言われればなぜか周りの視線が痛い気がする。
やばい、とにかくここから離れなければ。
俺、金髪だもんな。目立つッたらありゃしないし。
「ねぇ、そこのお兄さん」
とりあえず移動しようと一歩踏み出したときに声をかけられて、そちらを振り向く。
・・・・・・えーっと、とりあえずその声をかけてきた人を見るとなんというか、言葉につまります。
そいつは男・・・?のはずなのに、かんざしを三本もつけ、色の派手で鮮やかな着物を身に纏い、まるでこの時代の男らしくない男だった。
かんざしの先には鈴や、宝石のような石や飾りが付いていて、揺れるたびにわずかな音を立てる。
・・・懐にはものすごく理不尽なことに見慣れた刀がさしてあった。
なんか、あれだな。第一印象は女みたいな兄さんだ。
つか、え?何?俺何もしてませんよー?
むしろされてますって。濡れ衣で追いかけ回されたり誤解で追い掛け回されたりいきなり追い掛け回されたり・・・。
俺、ほんっとに怪しい奴なんかじゃないのでとりあえずここから離れさせていただけませんかねー?
その兄さんは少し、俺と目を合わせ、何かを考えているみたいだった。
このまましらばっくれるっての駄目かなー。駄目だよな、やっぱ。
というか、人に話しかけといて無反応ってどうよ。
「用が無いのなら帰らせてもらう」
「あぁ、まったまったー。君、そうは言うけど帰る場所なんてあるのー?」
ぎく。
間延びした言葉なのに結構ストレートに言うね、兄さん。
確かに俺、普通に変えるとか言っちゃったけど家がないってことになるんだよな。
タイムスリップしてて家が用意されてたらまじでドッキリカメラ探すけど・・・。
あー、俺は可愛くもないけど家無き子。
ここはあの名台詞、「同情するなら金をくれ」とでも言うべきか。
それとも「ここはどこ?私は誰?」作戦でいくか。
や、だから何の作戦だ?
馬鹿らしい思考にふけっているとなぜか慌てたように兄さんが口を開いた。
「いや、ごめんねー?教えたくないならそれでいいし」
「悪い」
ほんとごめん兄さん。今一瞬、存在を忘れてました。
にしても何したいんだ?この人。
「そう、それで」
急に表情、いや、顔つきまでもが変わる。
俺も釣られるように全身をこわばらせた。
一瞬、のため。
袖の中にあるカッターを持つ手が汗ばむのを感じた。
いつの間にか、周りに人がいなくなっている。
そのことに気付いたって、何の役にもたちはしないけど、俺はさらに体のなかの力が入るのを感じた。
そして、兄さんの妙に紅い唇が動く。
「私と一緒に暮らさないかい?」
「は?」
とりあえず俺、ホモじゃないんですけど。