もうちょっと希望を言えばお姉様のほうがよかった・・・って思うのは健全な男児としては普通の考えではないでしょうか。
いや、こんな俺のことを拾ってくれた某さんに失礼だしわかっちゃいるんだけどね。
――でも。

もうちょっと、こう、普通の人だったらよかったかなぁ・・・と肝っ玉のちっさい俺は思ったりするのです、はい。





なんか、俺にはよくわからんが、某さんはものすごい立場のお人らしい。
や、なんか、直接俺が聞いたわけじゃないんだけど、ときどき某さんが部屋に連れ込む(あ、なんか怪しい意味に聞こえる)面子を見て俺が勝手に想像してるだけなんだけど。
だってさ、暗闇にまぎれるようにして護衛をぞろぞろ引き連れて周囲に常に気を配っているのを見てみればんでもって時々鉄くさい香りがすれば・・・ねぇ?
結構そんなことが良くあることだったので、俺はすぐにその香りとかこわーい雰囲気とかに慣れた。
順応能力が高いのだって俺の自慢さ!! 誰もほめてくんないけど!!


「いらっしゃいませ」
「・・・あぁ」


今日もまた大勢の護衛を引き連れちゃったりとかして、大変ですねぇ、お偉い人も・・・。
俺は地味ーにひっそーり暮らしていきたい・・・ま、タイムスリップなんてものすごいこと体験しちゃってますがまだ俺の夢は破れてはいないはずだ。
んじゃあお茶を煎れに行きますか♪
ちょうどいいお茶の葉が手に入ったときにお客さんが来るんだよねー。・・・もしかして狙ってる?って疑わしくなってきちゃうけど、ま、そんなわけないか。
湯を沸かしー、お茶を蒸らしー、お盆に乗せてー、さて行きましょか。
あんまり待たせるのもまずいしね!!
俺が失態してお世話になりまくってる某さんに申し訳ない思いをさせちゃいけない!!


「失礼します」
か、入っていいよ〜」


相変わらず某さんは変だ。
まぁもう今更だって感じなんだけどね。


「お茶をお持ちいたしました」
「いつもありがとうね」
「いえ・・・」


連れてきている護衛さんたちにもお茶を万遍なく配る。
全員の器を配り終える前に、某さんたちの話が再開した。
え?俺この会議(だと俺は思ってる)の内容を聞いちゃってもいいのか?え?
や、なんか難しいこと言ってるから何について話し合ってるのか俺は知らないけどさ、こんな秘密の会議みたいなのに俺がいるってことがなんか気まずいんですけどー・・・。
最後のお茶を護衛の方に出しながら、なんかこの空気の中失礼しますって部屋を出るのも変だよなーとかうなってると、その護衛の方がちッ、と舌打ちした。
え!?俺なんかした!?


「何か不都合が?」


もしかして一番最後にお茶を出されたの気にいらなかった?
だだだだってあんた護衛でしょー!?主人のほうを先にもてなすのが当たり前なんでしょー!?
その人はすっくと立ち上がるととんでもないことをはっきりきっぱり言い放ってくれた。


「そいつの命頂戴する!!」


・・・は?
なにをおっしゃいましたか・・・?パードゥン?


「無理だ」


だめだめ!!この人は俺の命の恩人だし人を殺すのなんて絶対だめだ!!
つーか怖いから!!んな普通に刀構えないでよ俺カッターしか持ってないっつーの!!
某さんだって俺に護衛やってとか言って武器のひとつも供給してくれないなんて酷いや!!いいじゃんひとつくらいくれたってさー!!
とりあえず怖くて言葉もこれ以上でなそうで、袖に隠し持っていた俺の私物、お守り的業務用カッターを逆手に持ってみる。
うわお刃が出てないや出さなきゃ!!


カチカチカチ・・・・・・。


ううう、カッターのこの音なんとなく静かな空間でやると不気味だよね、なんだか夜の学校で水の音がピチャンピチャンって感じでさ。
怖い、怖いよー、恐怖で体が硬直ってこんな感じなんだねー、あははできれば体験したくなかったなーなんて。


「どけッッ!!」
「無理」


いやだから怖くて動けやしませんって!!
俺だってできれば逃げたいですー!!
ってかこの部屋にいる他の護衛の方や主人やなにより某さんは何をしてらっしゃるんですかー!?
助けを求めてそっちを見ようとすると・・・ぎゃー!!こっちきた!!?
ひぅっ、なんか変な息の呑み方した!!変な息の吸い込み方した!!なんか気管に水入ったみたいな感じがする苦しい!!
あーでもなんか咳できないわー気持ち悪いー!!


「ガッ!?」


おんや・・・?