「でっけー屋敷だな、おい」


任務で暗部に案内させた屋敷をざっと見ての感想はそんなもんだ。
俺の口が悪いのは今更。
俺も周りも処置のしようがないと見て、治そうと注意する奴もいない。
仮面越しに暗部がこちらに嫌悪の眼差しを向けてきたのを感じたけれども、それがどうしたっていうんだ?
少なくとも俺が気にすることじゃない。
暗部をそのまま置き去りにして、トラップと封印に守られたその屋敷の敷地内に入る。
やれやれ、上忍になってまで子守をするはめになるとは思ってなかったぜ。
しかもよりにもよってこの俺が。
結界内に踏み込むと何かひんやりした空気が俺の肌を刺激する。
へぇ・・・これが実力はあるけれど性格が歪みまくってる俺に子守なんて任務を押し付けた理由か。
自分なんかに任せる子供なんてどんな厄介な化け物かと思えば、本当に化け物の子守とはな。
獣の気配に俺は避けることをせず、左腕を差し出した。

いいぜ、これも教育の一環にしてやる。俺なりのな。

差し出した腕はいとも簡単にひじから先を喰いちぎられた。
くぅ、さすがにいてーな。
「狂人」と恐れられたこの俺の体も、所詮人間のものだったってことかよ。
面白くねぇなぁ、おい。


「来いよ、化け物。俺がじっくり調教してやる」


襲い掛かってくる金色にそう言い放ち、ちぎれた自分の腕を拾い、その血を舐めた。
鉄分摂取完了・・・ってか?はっ!!















「気は済んだかよ、化け物」


ある術の応用で作り出した左手で小さな餓鬼の首を絞め、右手はちぎれた本物の俺の腕を化け物の口に押し付ける。
口の拘束から逃れようと牙を立てられた俺の腕だったもおは、すでに皮が半分ずたずたにされ、内側の筋肉や骨が見えかけている。


「俺の腕、そんなにうまいかいよ、おい? わざわざてめぇの世話をしてやる俺の腕だぜぇ? 化け物」
「ヴヴヴー」
「はっ、いっちょ前に威嚇してやがる。いいか化け物。
本当に強ぇ奴には威嚇なんざ必要ねぇ、この俺のようにな」


わざわざ俺が世話してやるんだ。
今自分がやっていることがどれだけ無意味なことなのか、思い知らせてやる。
ま、今でも普通に俺にはかなわないとわかってんだろーけどな。
俺に逆らったらどんな目にあうか、とことん思い知らせてやる。
にやりと口角を上げると、初めて化け物の表情に怯えの感情が混じった。
へええ、完全に九尾の奴に支配されたわけじゃないんだな。まだ人間の部分はわずかに残ってたか。
・・・だけど、残念だったな。うずまきナルト。
俺に世話を任された時点で、お前はまともな人間になれる可能性はゼロになったからな。
恨むなら俺じゃなく、お前の人間味が完全に消え失せてしまったと誤認した火影を恨むんだな――。










悲鳴は飲ませた。
俺の腕は全部喰わせた。
俺の名を覚えさせた。
次にナルトの名を覚えさせた。
許しを請う方法を教え込み、実行させた。
そうして、初めてやさしさを送る。


「いい子だ」


初めての口付けは、血の味がした。