私は今、地面にうつぶせに寝転がっている。
「ほれほれ、どうした。もう音を上げとるのか?」
爺さんの『やってて得する護身術講座』という名の鬼のような扱きによって。
よく爺さんは私に稽古というか、やたらめったら身体を鍛えさせようとする。
爺さんは護身術と言ってはいるが、実際は護身どころか、どこかの国の兵士にでもなれそうな激しさの稽古なんだけど。
木刀や長刀を使うのはまだわかる。日本の伝統的な武器だし、護身術として習っている人も多いはずだ。
しかし、飛びナイフや小銃やライフル、ましてや火縄銃の使い方を覚えてどうするんだ。
一体この技術を何時使うというんだ。
「知ってて損はしないと思うがの」
「得もしないと思うけど。どこに銃の改造までできる中学生がいるのよ・・・」
「ほれ、そこに」
「私以外に!」
爺さんのおかげでいろいろ非常識な能力がついてしまったが、私自身望んで得たことじゃない。
日常生活に必要のない能力など、災害が起こらない限り無意味じゃないか。
いざという時の為に、という言葉もあるが、サバイバル能力はまだしも、ライフルや火縄銃を使うようになるいざという時は一体いつ来るんだ。
私は戦国時代の武将か、はたまた狩人にでもなって熊でも仕留めるのか?
「ほっほっほ、せっかく良く知識が詰め込める頭をしておるんじゃ。精一杯詰めておけ」
「詰めるにも内容にほどがあるんだけど。大体、合気道が中心とはいえ、何であらゆる格闘技を教え込まれてるのよ・・・普通、こういうのって一つもしくは二つに絞り込むんじゃないの?効率のために」
手当たりしだい、という言葉が似合うくらい、爺さんの教える内容は幅広い。
剣術、棒術、杖術、槍術、柔術空手にテコンドーやらムエタイ・・・って、よく素直に教わっていたな私。何でもっと昔につっこまなかったんだよ、私。
護身術だけでなくお花やお茶、舞踊も教えている辺り、爺さんのささやかな心配りがみえるが、稽古の大半が格闘技ってのは女の子を育成する上でどうなんだ、と思う。
「いろんな技を知っておれば、とっさの時にあらゆる動きが出来る。相手に動きが読まれるということは、自分が詰まれる可能性を高めるということだからの。まぁ、頭で覚えるよりも身体に覚えさせたほうが、確実性は高まるんじゃよ」
「だからといって、遠慮なくぶちのめすか?年端もいかない十代の少女を」
「何事も実践じゃ」
きっぱり、と言い切った爺さんに殺意を覚えた私を、きっと誰も咎めないはずだ。
「まあ、今日のところはこれ位にしておこうかの」
爺さんはそう言うと、転がっていた私を軽々と抱き上げた。
・・・・爺さん、前々から思っていたんだけど、一体歳いくつなんだ?見た目は壮年だが、爺さんの話す言葉の端々に、長い年月を生きてきた人間だということを感じることができる。
今私を軽々と担ぐことが出来る辺り、体力もばっちり・・・というか、稽古で一度もまともに攻撃を当てたことがないんだけど。このジジィに苦手なものはないのだろうか。
「爺さんってさぁ、変だよね」
「行き成り何を言うんじゃ馬鹿娘。そんなこと今更言われても痛くも痒くもないわ」
・・・これは開き直っているのか?自分の悪いところを認めるのは美徳だが、直そうとしないのはあまり・・・いや、とても良くない心がけじゃないか?
「・・・随分と大きくなったの」
ぽつり、と爺さんが呟いた。
「・・・爺さん?」
いつもの爺さんの声は大きくて五月蝿くて、いつでもはっきり聞こえる低い声。でも、今の爺さんは―――
――――今にも泣いてしまいそうで。
「爺さ・・・」
「随分と重量が増えたのぉ。ここら辺に肉が付きすぎとるな?」
むに、とわき腹の肉をつまむ爺さん。
「胸にはちぃっとも付かぬくせにのぉ」
「やっかましぃわ、この糞ジジィがぁぁぁぁぁあ!!」
爺さんに向けアッパーを繰り出すがやすやすと受け止められる。
ちょっと・・・さっきまでの儚げな爺さんは何処にいったわけ?
いつの間にふてぶてしい糞ジジィに戻ってんの!?
ちょっとでも心配した私の純情な思いを返せぇぇぇぇえ!!
「何ぐったりしておるんじゃ、」
「なんでもね」
「そんなに胸のことを気にしとったのか?なぁに、そんなに悲観するもんじゃない。に男でも出来たら存分に揉んでもらえばすぐ大きくなるじゃろう」
「堂々とそんなこと笑顔で言うなぁぁぁぁぁぁあ!!」
ナイスミドルの百万ドルの笑顔で言い切る爺さん。
やめて、その顔でそんなこと言わないで・・・!!
「何じゃ、男の一人もおらんのか?」
「悪かったな彼氏いない暦=年齢で!!」
「作ろうとしておらんだけじゃろ?どれ、見合い写真でも持ってくるか。好みの男がおるかもしれん」
「この歳で見合いさせんな!!」
「・・・・うっわ、懐かしい夢見た」
飛び起きて目に入ったのは、爺さんではなくホームにある私の部屋で。
久しぶりの感覚に、懐かしさと生ぬるい笑みを覚える。
夢の出来事からもう、10年以上たっている。
爺さんは、元気でいるだろうか。
「ー!飯出来たぞー?」
「っ、はーい!今行くー!!」
店長の声に、我に返ると急いで着換え始めた。早く行かないと、ウボーさんに全部食べられてしまう。
部屋を飛び出そうとしたが、ふと立ち止まって、ベッドの上のカバンを見つめた。
この世界に来た時に着ていた、制服が入ったカバン。
十数秒、そのままでいたが、またも聞こえてきた店長の声に慌てて飛び出した。
爺さん、ごめんなさい。
もう少しだけ、この場所にいさせて――――
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24000HITリク「爺さんとのじゃれ合い」です。
こんなものしか書けませんでした・・・貰ってください、虚無さん!
ありがとうございます!!保住さま!!
私はしっかりきっかりどっさり(?)といただきました!!
・・・なんでこんなに素敵な文章をかけるんだろう、いいなぁ・・・。
保住さまへのサイトにはリンクから行けるようになっております☆
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