人の昼寝の邪魔を見事に邪魔してくださったこの女はただただ本で読んだという詩を俺に言い聞かせていた。
今でもその本を捲りながら朗読して俺にとっては無意味な情報を入れてくれる。
「ねぇ!!この詩、すっごくいいと思わない?」
「別に・・・」
「えー、ってば情緒無さすぎだってー。じゃあじゃあ、んー、これは?」
好きなことを好きなだけ言って、またそいつは別の詩を朗読する。
そのときの感情を込めるように読み流すそいつの声は、実は好きだなんて、絶対にいえない。
俺は、その女の声をよく聞くために目を閉じる。
それはまるで運命
それはまるで宿命
それはまるで定め
そんなものでこの気持ちを片付けないで
そんな言葉でこの思いをまとめないで
そんな程度で縛りつけようなんて思わないで!!
この気持ちは他人にわかってしまうようなものじゃない
これは私のもの
私だけのものよ
ああ、とてもあなたたちには理解できないわ!!
彼に感じるこの狂気じみたこの独占欲!!
ときには彼を食してしまいたいのをこらえるのにどんなに必死か!!
人はそれを愛とか狂気と呼ぶのかもしれないけど
そんな単純なものじゃない
決して言葉ではくくられないこの想いよ!!
どうか彼を放さないでいて!!
どうか彼を怖がらせないでいて!!
どうか彼を優しく包み込んであげて!!
どうか彼を私から奪わないで!!
少しの沈黙がそこに満ちる。
満足したようにそいつはため息をつき、どう?と俺の顔を覗き込んでいた。
絶対に外れた返答だよなと心の中で思いつつもためらわずに聞く。
「で、なんでいきなりポエマー?」
「へ?」
随分間抜けな声だなオイ。
しかも口開きっぱなしになってんぞ。
美人が間抜け面してるのも結構笑えるもんだな。写真でも撮っとくか。んでもって売りさばく。
こいつ、頭結構馬鹿なのに顔のつくりがいいからファン多いんだよな。
俺の貴重な金稼ぎの元でもある。あー、一応幼馴染でもあるか。
そのせいでやっかみもあるけど、別に気にはならないし。
っと、それよりも。
「で?なんでなんだ?」
「え、べ、別に特に理由なんてないけど?」
ごもってる時点で何か隠してることばればれだぞ、おまえ。
まぁ、大体の予想はつくけどな。
でも本人の口から言い出すまで俺もおまえの質問には答えねーぞ。
そう言うとそいつはうー、とうなって俺を恨めしげににらみつけた。
んな顔してっとまた俺がやっかみを受けるんだが。
まぁ、こいつはそこら辺鈍感だから気づいてないんだろう。
気づいてたらこんな態度もできないはずだし。
「・・・ったから」
「もっとはっきり言え。女は度胸なんだろ」
「う〜!!今の詩をに伝えたかったの!!」
にやり、そう擬音が付きそうな表情をきっと俺はしているだろう。
自分では自分の表情なんか鏡とかを使わないかぎり見えないが。
俺の笑みを見て、そいつはひくりと体を震わせ、わずかに後退した。
俺は逃げられないように手首を掴み、耳元に口を寄せる。
「つまり」
「きゃっ!やっ、!!」
「お前は俺にそういう気持ちを抱いているってわけだな?」
「ひゃ、え!?あ、いや、そうゆうわけじゃ・・・」
「へぇ・・・じゃあどういうわけだ?ちゃんとわかるように説明しろよ」
「わ、わ、わ!!み、耳!耳元で喋らないで!!」
「ったく、話そらそうとしたってそうはいかねぇんだからな」
ちょっと顔を近づけて耳を噛む。
あんまりにも強くかみすぎて血がにじんでしまった。
その血も舐めると押さえつけている体が反応して面白い。
「そういえばよ」
「んっ、放してよ・・・っ」
「カミサマっていうのは母親の子供への愛情を百分の一くらいに減らしたんだってよ」
「へっ!?な、なんで!?」
こんなときにでも興味が出てくるかよ、お前は。
にじみ出てくる血を舐めながらも俺は話を続けた。
「母親の愛情が強すぎたんだよ」
「・・・?」
「よく言うだろ、『食べちゃいたいくらい可愛い』って」
「あ!!」
「比喩にならなかったから、それじゃあ子孫が残せないってことでカミサマが手を加えたと」
「カ、カニバリズムって、言うんだっけ、そうゆうの」
「まぁ、愛しすぎるものとは同化したいっていう本能でも仕組まれてんじゃねーの?人間には」
「でえ、でも私はとずっと一緒にいたいよ」
「やっと言ったな」
「・・・あっ!?」
これだから強情はめんどくさいんだっつの。
まぁ、そんなこいつを好きになった俺も俺だが。
「・・・・・・もしかして最初っから仕組んでたの?」
「さぁな」
「う〜〜」
俺も、その詩くらいの気持ちを持ってたってことさ。
もちろん、お前もそうなんだろ?
確かなにかの本で
「母親の愛情が強すぎたので百分の一くらいまで減らした〜」等のことを読んだ記憶があるので。
ただそれが書きたかっただけ。
ちなみに彼女の言っている詩は彼女自身が作詞したっていう裏設定。
(つまりはどさくさまぎれに告白みたいな感じ)
そしてさらに裏設定その二、「女は度胸」は彼女の口癖。
彼女もその言葉を出されて口ごもるのはそのせいってことで
(ていうか裏設定多すぎだなぁ・・・(苦笑