「いや、根本的に日本語の使い方間違ってるしね」









来ねぇなぁ・・・。
俺は置いてきぼりをくらっていた。
状況的にはまったくそんなこと言えないくらい危機的なんだけどな。
ちょっと任務が難しかった。
あいにく、単独の任務だったから助けてくれるような仲間もおらず、怪我を負ったままなんとか里には帰れたものの、もう一歩も動けない状態だった。

しかし、あの子供、一体何者かね。

今さっき偶然だろう通りかかった子供というには少し抵抗のある男の顔を思い出す。
ずいぶん陰気くさい顔だった。
無表情だったからそう見えたのかもしれないが。
それにしても、あんなやりとりをして、まったく表情を変えない子供もいないだろう。大人でも無理だ。
それに、声。
あいつの発した声には何も含まれていなかった。
ただ、音を振るわせるだけの、音。
だから、俺には正直、あの子供の声をよく思い出せなかった。
そのくらい、特徴のない声だった。

じくじくと痛んでいた傷が腐臭を発しているのには気づいていた。
できれば気づきたくはなかった事実だったが。
このままではあと一時間もしないうちに昇天してしまうだろう、まさか自分がこんな里の裏道的なところで死ぬとは思いもしなかった。

もし死ぬとしたら任務中か、恋人の腕のなかって決めてたんだけどなぁ。

どこかずれた思考を走らせつつ、俺は目を閉じた。
心臓の音と、自分の息の音がしだいに遠く聞こえてくる。
今だったらやすらかに死ねるような気がした。


「傷を見せろ」


男の声。
気配も何もないのに、他の音はあれだけ遠くに聞こえたのにその声だけははっきりと俺の脳に届いた。
さっきの子供か?
目を開けると確かにさっきの子供。
子供は手に注意しないと見落としそうなほど細い糸を巻きつけて俺の傍らに片膝をついていた。
俺が満足に動けないのを知ると、子供は無言で俺の体を横たわらせ、服を裂いて傷をさらす。

なんだかまな板の鯉状態な気がするのは気のせいか?

うん、気のせいだ。なんだか子供の目が微妙に輝いて見えるのも口元に笑みが浮かんで見えるのも全部気のせいだ、きっと。
子供は俺の血を舐めて、目を細めた。楽しそうに。
や、だから気のせいだって。
どこか現実逃避し始めている俺の頭は次の言葉に覚醒した。


「一回くらい死ぬかもしれないけど大丈夫だ」
「いや、根本的に日本語の使い方間違ってるだろそれ!!」


大声を出したせいで傷が盛大に痛んだ。
思わず苦痛にうめくと子供は呆れたように俺を見る。
や、お前のせいだって!!






結局、子供は驚くべき能力を発揮して俺の命を救ってくれた。
でもできれば事前に説明くらいして欲しかったよなぁ。
・・・・・・よし、仕返しに暗部に入れてやる。何が何でも。
なんかあいつは面倒ごとに巻き込まれたくないような感じがしたからな。
でもけっこう押しに弱いと見た。
ぜってー入隊させてやるぞ、このやろう!!




帰宅途中のその後、オリキャラ視点でお送りしました。
お題でどんなのにしようかなーと考えてたら最後の「一回くらい〜」「いや根本的に〜」のセリフが浮かびまして(苦笑)
私にしては結構うまく使えたと思うんですけどね。