「眠い・・・」
春もうららかななんとやらとかで、あたしは教室の窓際の席でつっぷして必死に睡魔と戦っていた。
状況はやや、というよりもかなり劣勢。 なにかきっかけがないとこのまま敗北は必死。
授業中、まだ休憩時間までかなりある。
そしてなによりもこのまま寝てしまうと授業に追いつけない。
ああでも、この今にも眠りそうな頭で授業を聞いても追いつけない、というかすでにもう追いつけてないような気がする・・・。
・・・だったらこのまま寝たってかまわないよね。 どうせ追いつけないんだし。
思いついたその考えがものすごく魅力的で、うとうととまぶたが自然に下りる。
「おい、今寝ると俺がお前の寝顔写メとって全世界にさらすぞ」
「・・・うぅ、そんなイジワルしなくたっていーじゃないかー」
今まさに夢の楽園へ入ろうとしていたあたしの意識を引き上げたのは、隣の席の男子。
あたしのほっぺつままないでくれるかな、太ってんのばれちゃうじゃん。 ってか痛いよ。
ついでにそのにやにや笑いもやめて欲しいとか思うんだけど、なんかやらしいよ。
あ、あんたの場合は存在そのものがやらしいか。 うん、男子高校生ってみんなそんなもんだよね。
頭のなかお下品な妄想で容量いっぱいなんでしょ、そうでしょ。
そんなことはともかく、今はあたしを寝させてくれい。
「おーい、ほっぺつねられたまま寝るのか、この鈍感女」
「フヒヒヒヒ、おやすみなさいそしておやすみなさい」
「・・・とうとう壊れたかこいつ」
呆れた顔がほとんど狭まった視界の中心に写る。
うん、どうでもいいけどさ、あぁ、短かったなぁこの平和なひと時。
さようなら、我が好敵手睡魔くん。 そしてこんにちわ、地震雷火事親父。
あ、ちがうか。
「いい度胸だなぁ? 二人とも?」
「ぎく」
「うわ、口でぎく、とか言う男初めて見た。 貴重な体験させてもらったよありがとう」
「てめっ、もともとはお前が寝てたからだろ!?」
「なーんのこと言ってんのかなぁ? あたしはちゃーんと先生の授業を受けてましたよ?」
ここ、聞いてたじゃなくて受けてたって言うところがミソ。
ぎりぎり嘘はついてなくて、でもいいほうに誤解されるであろう巧妙なトリック!!
ああなんて頭がいいのかな、あたし!
「せんせーい、隣のうるさい誰かさんのせいでなかなか授業に集中できませーん。 何か言ってやってくださーい」
「ほーう? それにしてはお前も開いているノートが真っ白なのはなんでなのか、きっちり説明してもらおうか?」
「あっはっは、そりゃあ先生の話と黒板の文字をこれ以上ないほど集中していたからにきまってるじゃないんですかー」
「嘘つけ馬鹿。 寝てたからに決まってんだろが」
「(無視)さぁさぁ、せんせ。 授業を再開してくださいな。 あたしはちゃーんと先生を見てますンで」
「そーかそーか、この先生の授業をしっかり聞いてたんなら二人とも、今黒板に書いていた問題は完璧に解くことができるな?」
「え・・・」
「えーっとですね、先生。 あ、急に頭痛が・・・」
「できるよな」
ハイ、ぶっちゃけあたしの頭はボンクラなのです。
なので黒板に書いてある問題が何を求めている問題なのかさーっぱり理解できませんデス・・・。
助けを求めようにもクラスメイトたちはあたしが苛められてるのを生暖かい目で見るだけ・・・。
ううう、薄情なやつらめッ。
そして、予想通りというか、なんというか、隣の席の馬鹿男は実は頭が悪くなく、っていうか、秀才なやつなんだけど、あっさりと黒板にかかれてた問題を解いて、あたしをにやりと笑って席に着く。
元はと言えば・・・元はと言えばこいつのせいだッ!!
「あんたのせいで〜!!」
「大本の原因はお前の居眠りだろ。 自業自得」
「うわー、むかつくッ!! 本気でむかつくッ!!」
「いい加減にしないかッ!!!」
「あ〜あ、怒らせちゃった〜」
「怒らせてんのはお前だこの〜!!!」
とりあえず眠気は吹っ飛んだ。