夜の街は、昼のそれよりも居心地がいい。
私用で遅くなった帰り道。
他校とか説教とか、誰かに絡まれるのも面倒だったので、普段とは違う道をゆっくり歩いていると、そこで思わぬ顔を見つけた。
なんでこんなところに、こんな時間に、こんな担任がいるんだっつの。
その姿を見れば、誰がどう見たって見回りとか、誰かトチやらかしてつかまった奴の身柄を預かりにとか、そんなんじゃないことはわかる。
だってそいつ、ヘルメットに作業着、おまけになんかセメントが入ってるっぽい袋抱えてるんだぜ?
・・・あ〜、とりあえず。
「教師ってバイト禁止されてるんじゃなかったっけ・・・?」
「おわっ!? ・・・ってなんだ、じゃないか、驚かすな」
驚いたのはこっちだ。
たとえ反射的にもそのほっそい肩に担いだクソ重たそうな袋を、こっちに投げそうになるなよな。
俺、簡単に死ぬ自信あるぞ。
びっくりっつーよりびびる。
ん? 意味同じか?
「、お前、こんな遅い時間まで何してたんだ。 早く帰って寝ろ!
ただでさえ普段から眠そうにしてるのも、こーんな時間まで起きてるからだろう」
あれ、さっきの俺の発言スルーしてね?
・・・まぁいいか。
どーせ、バイトばれて困るの俺じゃねーし。
「俺は「バイトォ!!! ちんたら勝手にさぼってんじゃねーぞ!!!!!」――俺、帰るわ」
「お、おぅ!! 寄り道すんじゃねーぞ!!」
さっさとその場をはなれ、ふと振り返ると担任は女とは思えないパワーで仕事に戻っていた。
――なんつーか、なんなんだったんだ。結局。
果てしなく無意味だ。
そして、担任を見かけるのはその日だけにとどまらなかった。
その後も、俺は夜の町の至る所でその女の姿を見かけた。
もう姿を見られることも、こちらから声をかけるようなことはしなかったが、見かける確立からして、ほぼ毎晩のようにああやって工事現場や交通整理のバイトをしてるんじゃないかと思う。
・・・そこまで働くわけがわかんねー。
たまに行く学校では相変わらず、授業を受ける気のないクラスのなかで、一人で教科書を読み上げてる顔は、普通の教師っぽいものだ。
だけど、注意深く観察してみれば、初日に見たときよりも顔色が悪くなっているような・・・気がする、そう見えなくもないってレベルだが。
「んー・・・」
あれか、ただ単に体を動かすのが好き過ぎて、昼の教師の仕事だけじゃ飽き足らず夜の肉体労働でストレス発散してる、とか。
それなら同時に金も稼げるし。
「や、それはないだろ」
それとも、単純に考えて金が必要か。
教師の給料って高くなさそうだもんなー、その割にはめんどくさいし規制もたくさんありそうだし、他人の世話しなきゃなんねーし。
・・・俺なんか、ぜってー教師になんかなりたくねーな。
「あー、そういえば」
たしかあいつ、竜のこと気にかけてたな。
他の教師から、竜のことについては教えられてるはずなんだけどな。
まぁ、理由までは教えてねーだろーし。
・・・ビリヤードを邪魔されて以来、竜に対して動きがないのも変だな。
あんな騒ぎを起こした女のことだ、あれくらいで大人しくあきらめるとは思えねー。
それともさすがに懲りたか?
「だったらはなっから関わんねーだろよ」
だとすると、竜に関わることであいつってバイトしてんのか?
・・・竜と会って、金さえくれればもう一度学校に来てやってもいーとか言われたとか・・・。
だけど、さすがにそんなことであの女も毎晩がんばってバイトなんてしないだろー。
あー、わっかんねーなぁ・・・。
「って、俺はなんでこんなに考えてんだか・・・」
だんだんめんどくさくなってきた。
大体、考えて俺の納得のいく答えが見つかったって、現状に変化はねぇし。
かまわれないタケが、腰に抱きついてきたし。
・・・もし、もし万が一、竜をクラスに戻したら、
「名前くらいは覚えてやってもいー・・・」
「、またぐるぐる思考してたの?」
「ん、そんなとこ」
少しだけ、そう思った。
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何ヶ月ぶりの更新だろう・・・(泣