ヤンクミの名前はなかなか呼びません、というか名前知りませんよ、この子







トンッ


軽い音を立てて刺さるそれを、ぼんやりと目で追いかけ、すぐに落とした。
腕の中にはいつもの温かみ。クラス内のざわめき。
もうそれだけで、なんだか眠くなってくる。
俺は、ごまかすようににやりと笑って声を上げた。


「隼人の勝ちー。光、そろそろ懐が極寒になってんじゃねーの?」
「くそー、今度こそ!!」
「もうやめとけば?土屋君?」


からかいの隼人の手には掛け金の硬貨。
あのなかには元・啓太の金も入っている。
ま、そんなことで俺が乗り出したってつまんねーし、何も言わねぇけど。


「でも隼人の一人勝ちにしてたまるかよ」
「それはいわゆる僻みだな。所詮この世は弱肉強食ってこった」
がなんかむつかしーこと言ってるー」
「ん〜でもちょっと微妙だよな」
「っつか、なんでお前がここにいんだよ」


一斉に俺以外が女教師に振り返る。
いつのまに俺の隣に腰掛けてるんだ、オイ。
忍者じゃねぇんだし、気配消すなよな。
反射的に殴りたくなるから。


「聞きたいことがあるんだけど」
「んだよ」


にっこり、と笑うその顔になんか妙な寒気を感じるのは気のせいか?
つか、なんで俺たち?
他にも聞けるやつら教室内にたくさんいるだろうよ。


「小田切君のことなんだけど」


腕のなかの存在が一気にこわばるのを感じて、ゆるゆると撫でる。
こわばったのはそれだけじゃなくて、ダーツを楽しんでた三人の顔も空気も緊張させた。
だからなんでそんなキーワードを俺の前で出すかな。
まったく、この教師は俺にストレスを与えるために派遣されてきたのかよ。
内心ため息を吐いて、だからなにさ。と乾いた空気を震わせた。
















女教師の問いに答えることなく、放課後のゲームセンターで隼人とビリヤードの勝負をする。
両者の腕は互角。今日の結果は三勝二敗。
他の三人は最初は参加していたものの、ゲームを離れ、観客となり、それも飽きたのかそこらへんでカツアゲをしている。
煙草に火をつけずに銜え、香りを楽しみながら台に回り込む。
行動を咎めるほど俺は良い人じゃないから、なにも言わずにキューを構えた。
息を吸うと、煙草の独特な香りを感じ、集中力が高まる。
よし、いける。



驚く声。
いきなりのそれに、思わずミスる。
・・・あいつら殴ってやろうか?


!!お前煙草なんか吸って、体に悪いだろ!!」
「んだよ、こんなところまで来て説教か?」


しかも火つけてないし。いいだろ、別に。
怒ったようにすごむ女教師。
でも本気で怒っていないと思う。こいつ、マジでキレたらシャレになんねぇ危険物だから。
っつか、ほんとに何こいつ。
ニュースで他のクラスメイトよりはこの女のことを知ってはいるが、それでもこいつのことを知っているわけじゃない。
むしろ知っているからこそ、これ以上知りたくないというか・・・。
つーか任侠とかいう世界に関わりたくないんだけど、俺。
とりあえずこのまま説教モードには持っていかれないようになんの用か聞く。
女教師はあっさりとそれに乗ってくれた。


「小田切の居場所、知らないか?」


あいつの居場所?どっかのバーかなんかで働いてたっけか?
反射的にその問いに答えるような思考。
それに気付いて、小さく舌打ちする。
隼人が女教師に答えた。


「そうか!!お前って案外良い奴なんだな!!」


お前、んな馬鹿正直に信じてよくいままで生きてこられたな・・・・・・。
任侠の世界って、殺るか殺られるかの世界じゃなかったっけ。
少しの油断でも命落とすのが当たり前の世界だと思っていたのは俺の勝手なイメージか?
足取り軽くゲーセンの外へ向かう女教師を見送ってそして呆れ、俺はまた何事も無かったかのようにキューを構えた。




「おい、次は俺の番だろ。失敗してたの見逃してねぇんだからな」
「うっせぇ隼人。途中で邪魔が入ったんだからあのミスは無効だ無効」





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お久しぶりのごくせん更新デス。
ごめんなさい、たぶんごくせんは一番更新遅いdeath。
あぁもう、なんというか、三つの連載ってむつかしー。