着崩した黒銀の制服が集まって、輪をつくっていた。
それぞれが、笑いながら、それを見ていた。
中心には、大声で助けを呼ぶ3Dの担任の男と、3Dの頭である矢吹隼人。
行われているのは、あまりに一方的なケンカ。いやリンチだ。
教師はそれこそ最初は悪態をつき、次に恐怖に顔をゆがめて助けを求め、逃げようとして囲まれた我らがクラスメイトに阻まれ、もたらされる暴力から身を守ろうと無駄な努力をしている。
その輪から外れている俺と啓太はその様子を雑談しながらのん気に見学中だ。
黒い制服に阻まれて中心を見ることはできないが、騒いでいる様子や隼人の大声、光の音頭を取るように高いところでゆらゆらと揺れる扇子、いろんな場所に駆け回ってはやしている浩介を見て、聞いているだけでも十分に面白かった。
「隼人、しばらくはすっきりするだろうね」
「・・・最近フラストレーションためまくってたからな」
「、フラストレーションってわかりにくいよ。ストレスっていわなきゃさ。でも隼人だけじゃないでしょ?溜め込んでたのは」
啓太に顔を覗き込まれて俺は肩をすくませる。
正直俺はこういってやりたかった。「そっくりそのままその台詞を啓太に返す」って。
まぁでも、ここ最近、3D全体の気がたっていることは事実だ。
原因は、ここにはいない、一人のクラスメイト。
一番そのことで思いつめているのは、俺の腕の中にいる啓太だった。
「竜・・・・・・」
クラス内ではもはや禁句にすらなっている名前を呟いて啓太は顔をうつむかせた。
本人ががんばってセットした髪型を崩さないように頭と髪を撫でながら輪をみると、俺たちの様子には誰一人として気づいていないみたいだ。
「――そろそろ終わりにするか」
啓太を机に座らせて、テンションがヒートアップしている集団に近づく。
啓太は先程の表情が嘘のようににこにこと笑顔で俺を送り出した。
俺が、こうゆうときにかかわってくるというときは、〆にきたということをクラスメイトたちは知っている。
つまり、その教師にとどめをさすという意味だ。
俺が輪の中を進んでいくと、クラスメイトたちは道をあけてくれた。
どうでもいいが気分はモーゼだ。
みんながみんな、これからおこるイベントにわくわくしたような表情だ。
こう見ていると、随分犯罪じみたクラスにも思えるがほんとうは友達思いで素直で良い奴らだ。断言できる。
まぁ、俺がそんなこと言っても全然説得力はないけどな・・・。
中心に着くと興奮して息を上げている隼人と、はいつくばって頭を守るように抱えている教師がいた。
隼人が、俺のことに気づいてにやりと笑う。
暴力がとまったことに気づいた教師はちらちらと様子を伺おうとしていた。
その顔は、涙と鼻水とよだれとわずかな血で醜いものになっていて、気分が最悪に近くなる。
もともとできのいい顔ではないのにさらにぐちゃぐちゃな顔になったそれは直視するのも耐えがたいものになっていた。
隼人のほうは、だいぶすっきりしたのか、さっぱりとした表情で俺を見るとまるで選手交代だといわんばかりにハイタッチして寄せてあった椅子に腰掛けた。
教師と目が合う。
その目はまるで、救いの神を見るような光をしていた。
(そんなきらきらとした目で見られてもね。)
俺の感情は少しも動かない。むしろもっと気分が悪くなっていくだけだ。
「自分たちだけ助かろうなんて、都合よすぎなんだよ」
声は教師に聞こえなかったらしい。たぶん耳がおかしくなっているんだろう。
あんまりに度がすぎた痛みは、頭痛とその痛みに音どころじゃなくなるから。
今度はちゃんと聞こえるように言ってやる。
「ざんねん」
教師はわけがわからないというように俺を見たまま固まるとどこか不安そうに視線をあちこちに飛ばした。
教師の体が恐怖に震える。
「俺があんたを助けるとでも思った?」
ようやく俺の意図がわかってきたのか、それともこの空気に耐え切れなくなったのか、その男は顔を青くして逃げようと身じろぎした。
動く前に思いっきり膝を踏みつける。
鈍い感触と音がしたが、教師の悲鳴とまわりの歓声にかき消された。
のた打ち回る教師の腕をとって、肩の関節もはずしてやる。
集団の輪は、ざまぁみろ、やれー!!などの声をかけて楽しそうに見ているだけだ。
今までさんざん俺らを見下してきたこの男を助けるほど、俺たちは寛容でもないし、大人でもない。
「どう?今までクズ呼ばわりして見下していたガキに見下され、助けを求める気分は」
傷は、いつか癒える。だけど心は、難しい。
そんなフレーズが浮かんできて、クツリ、と笑う。
なんだか俺がそんなことを思うなんておかしいと思ったのだ。
教師はそんな俺をみて、さらに情けない声を上げて体を震わせる。
逃げようともがいているが、自由の利かない片手片足ではせいぜい這うのが精一杯だ。
「情けなくないか?恥ずかしくないか?どうでもよくならないか?逃げたくならないか?・・・・・・自分の価値など無いと、思わないか?」
俺の言葉を聞いていくうちに教師の意図御の光が弱くなっていくのを、俺は喋りながらただ見ていた。
今はただただ痛みからの恐怖に逃れようともがき、痛みにうめくだけだ。
さて、本当にラストにするか。
「カウント五秒前ー」
今までの空気を払拭するようにおちゃらけて言ってみると、輪の連中も歓声を上げて空気を盛り上げる。
ほんとに、いい奴ら。
「五!!」
光が扇子を高く高く振り上げる。
「四!!」
浩介が跳びあがって声を張り上げる。
「三!!」
隼人が笑って逃げようとした教師を蹴る。
「二!!」
啓太はいつのまにか俺の隣にいた。
「一!!」
教師の絶望したような悲鳴、煩い。
「ぜろーーーー!!!!!!」
俺は煙草をくわえ、その香りを大きく吸い込んで目を細めた。
そして、鈍い音・・・――――
ちなみにその教師を捨てる際、俺は親切心から辞職届とついでに遺書をもたせてやった。
なに、ちょっとしたブラックジョークだよ。
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主人公、普通に怖いです(ブルブル
というかみんなもノリノリだし!!
こんなクラス、ありえないよ!!わーん!!