無造作に見えるだろう、手つきで指を埋め込む。
青年にかけた術は一瞬にして跡形も無く解けていた。
かけていたのは、妖術だ。
俺は、あの事件のおかげでも特異能力を授かった。
あのときのぬくもりは、たぶん妖力。
俺の中には人間としてのチャクラと呼ばれる力と、妖力が存在する。
顕著にそれが出ているのが、俺の右目だ。
赤く、濁った色の瞳。
俺の右目は普段、閉じている。
なぜかというと、右目は左目とは違うものが見えてしまうのだ。
違うもの、というよりも、左目では見えないものが見えすぎてしまうというべきか。
遠くのものが見えるように、俺の右目はすこし意識するだけで様々なものが見える。
人の想い、チャクラ、人には見えない妖怪の類も見ることができる。
しかし、俺にとって一番ありがたかったのは、人の体内も透視できるということだった。
前世で俺は、レントゲンなどの写真のイメージでしか体内のようすを想像しながら指先の感覚だけで手術をしなければいけなかった。
だけど、今ではその体内もちゃんと確認しながら手術を行うことができる。
目で確認しながら手術ができるのは、かなり成功率が高まる要因だ。
さて、思考がそれまくってしまった。
俺の悪い癖だ。
チャクラを流し込み、血を流し込み、少しばかり足りないところには妖力も流し込んだ。
もしかしたら、こいつも回復したら妖術を操れるかもしれないな。
またそれ始める思考をそのままに、手術は終わりに近づいていく。
普段はこんなにも取り乱したりしない。
誰が死のうと、重症を負おうとも、俺の感情は冷え切ったものだった。
ただ、こいつだけは、シカマルだけは失いたくなかった。
俺にとって、大切なものという存在はとても少ない。片手で足りるほどしかない。
俺を保護し、育ててくれたじいさん、俺の隣にいてくれるシカマル、そして、二人が大切にしてくれている自分自身。
決して積極的では無いけれど、自分を大切に思えるようになったのは二人のおかげなんだ。
それなのに
シカマルが今ここで死にそうになっている。
それだけですでに俺は発狂しそうな感情をもてあましていた。
シカマルは、強い。
俺の強さとは少し質の違うものだけど、任務で殉職する心配はまったくないと言い切ってしまえるだけの強さをシカマルは持っている。
だけど今、シカマルは俺の背中で息を、その命を止めそうになっているのだ。
俺たちは珍しく二人で任務を遂行していた。
里でもトップの実力を持っている俺たちはほとんどが単独か、他の暗部が死なないようにつけられるかだ。
(どうやらこれは他の暗部の教育にもなるらしい、俺にはよくわかんねぇけど)
それなのに、この二人のメンバーで行かなければならない。それは、任務の難しさを示していた。
それに付け加えて、毎晩幾多の任務で俺たちの体力が最初から限界だったという理由もある。
じいさんとも話しをしたのだが、これでも俺たちにまわす任務はできるだけ少ないようにしているのだ。
ときにはじいさん自身が影分身をして任務を遂行させていたらしい、影分身だからあんまり難易度の高い任務はできないけどそれさえもせざるを得ない状況だった。
最近の、忍不足の問題は深刻だ。
ドクター(正式な暗部名は忘れた)の入隊によって、死者は目を見張るほど減ったが、年齢による除隊、長期任務、最近新しくできた音の里の情報収集、里内部の問題などによって、俺たち個々の負担が重くのしかかる。
今のうちに原因の一つである大蛇丸を暗殺しようかとも思わなくもないが、やつにはまだ利用価値がある。もうしばらくは様子見だ。
いや、そんなことはどうでもいい。
シカマルは任務中、最後の最後で意識を失いかけた。
明らかな寝不足だ、疲労もピーク、これで死なないほうがおかしい。
ここ一ヶ月くらいはまともに寝れてないはずだ、親にも暗部に入っていることを内密にしているから家には影分身を常駐させ、里で請け負っているほとんどの任務の戦略を作成し、独自の情報網をつかんでいる。
俺もかなり忙しかったが、純粋な肉体疲労だったので、腹の中の九尾に協力してもらって回復させながらだったからまだシカマルよりはましだったと思う。
それでも、今回の任務はなんとか、乗り切れるだろうというくらいの体力しか残っていなかった。
シカマルより体力のある俺が、なんとか、だったのだからシカマルは最初から気力だけで働いていたのだろう、そして俺もそれに気づけないほど疲れていた。
疲れていた、とにかく、疲労していた。
最後の暗殺対象だった。その男は。
場所は幸運なことに木の葉の里付近、そこに集まっていた忍(および盗賊)の全滅が、その任務内容だった。
その任務さえ無事に終えられれば、三日間の完全休暇をもらえる予定だった。
最後に残ったのは下っ端の忍だった。
突然、奇声をあげて狂ったように暴れだしたのだ。
もちろん、簡単に任務を終えられるはずだった、そこまで詰めていた。普段の俺たちなら。
だが、シカマルと俺は最後の下っ端に気を緩めた。その上に疲労の枷が重くのしかかる。
シカマルは一瞬、意識を失った。
俺は全身に痙攣が起きた。
男は俺たちの様子にはこれっぽっちも気づかずにシカマルにクナイを突き刺し、俺のわき腹にもそれを刺した。
俺の頭は真っ白になった。時が止まったかとさえ思った。信じられなかった。
気づいたら俺は男の首を飛ばし、シカマルに駆け寄った、息を呑む。
まるで最初から仕込んでいたかのように、傷は綺麗に心臓を貫いていた。
「シ――カマル!!?」
本名を呼ぶ、本来なら任務中に絶対しない行為だが、それすら、全ての思考が吹っ飛んでいた。
シカマルは何も返さない。いつもなら、どんなときにでも答えてくれるのに。
ある程度の医術を持っている俺では到底治すことのできない傷。
これほどの重症を、シカマルはしたことがない。
詰め所の扉を勢いよく開く。
ドクターが待機していると記憶しているその扉だ。
「ドクターはどこだ!!」
早く、早くと焦る。
シカマルの血臭と自分のそれが混じったにおいが今になって妙に鼻についた。
目の前に陶器の仮面をつけた男が現れた。
その男は体全体の様子を眺めるように見る。
「狐、俺についてこい」
「――っああ!!」
その陶器の仮面、それをつけているのはドクターしかいない。
全速力でドクターについていく。
いつの間に着いたのか、気づくとどこかの部屋の中だった。
目に入ってくるのは、正体不明の物体が入っているカプセル、注射器、大量の書類、そして、大きな台。
ドクターはシカマルをその台に乗せて、あろうことか何かの術で凍らせた。
何よりも体が先に反応する。
「助けてくれるんじゃなかったのか!?」
自分の声が遠い。
体が、重い。
そんなことをどこか遠くで思っているとドクターはなんと俺の服を切り裂く。
「なっ!?」
「無駄口たたくな。死にたいか」
冷静な声、なぜか動けない。
ドクターは俺の血を舐めて、まるで味わうように口を動かした。
そして、一つうなずくと一瞬体を震わせて指を俺の口に突っ込む。
口の中に広がるのは、散々味わってきたはずの血の味。
なのに、それに触れた部分が痺れるような、初めての、何かだ。
「眠れ」
最後に聞いたのは、やっぱり冷静な、声だった。
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なんだか色々な能力を持ってる最強主人公になりつつあるよねぇ・・・。
ほんとはもっと普通だけど特殊能力を持ってるのにしたかったんだけどなぁ・・・。