暗部の待機所。
一人でくつろいでいた俺は、最初のほうこそ珍しがられていたみたいだったが、今ではそんなこともなくなり、室内の隅っこのほうでこちらの世界での医療関係の資料に目を通していた。
やはりというか、こちらの世界では前世のような医学というよりも、チャクラ等を利用した医療技術とする考え方が主流だ。
まぁ、あんまりこちらでの精密機械っていうのは見たことないか。
もし俺が普通の医者だったのならきっとここまで重宝されることはなかっただろう。
俺の仕事は順調にいっているようだ。
今まで治療を施した人間は、今のところ全員回復して、生きている。
だけどまだ人手不足は解消されないらしい。
俺も治療だけが仕事ではないからあんまり暇とは言えない。まぁ、緊急事態の待機でここにいることが多いから他の人よりは楽なのだと思うが・・・。


――強烈な血のにおい。


どうやら緊急事態だ。
普通の人間だったらとっくに死んでいるであろう、その色がつきそうな濃い香りに俺はすぐに動けるように定位置になりつつある椅子から立ち上がる。
くん、と鼻を鳴らして血のニオイからわかる情報を分析する。
俺の嗅覚は、純粋な血臭にまぎれる不純物の存在を確認した。


「・・・毒盛られてるな」
「ドクターはどこだ!!」


俺が誰にも聞き取れないほどの小さな声に覆いかぶされるようにして大声が響く。
――ドクターというのは俺の通称のようなものだ。
普通に仕事をして、暗部名もあるというのにいつの間にか俺は周りからそう呼ばれるようになっていた。
今ではという暗部名よりもドクターという通称のほうが有名らしい。


「診せろ」


自分の存在を青年に伝え、『診』る。
一人の青年を抱え、自分も血まみれなその狐のお面、そのあわてように今までで一番難しい仕事になりそうだ、とその場の空気にはそぐわない、のん気なことを思った。
口に出したら即殺されそうだな。
怪我の状態を診ながら俺はできるだけその暗部を落ち着かせるように感情を込めない声を出すことを心がける。


「狐、俺について来い」
「――っああ!!」


俺は二人の状態を観察しながらも、部屋を出る。
向かう先は、暗部に入るときの条件で火影からもらった実験室。
部屋に入り込むと、一瞬遅れて狐も転がり込んできた。
呆然とした表情、もしかしたらどうやってここまで来れたのかわかっていないのかもしれない。
それはそれで、俺にとって都合がいいのだが。
息が切れている。もう体力も気力も精神も限界だろう。


毒を盛られているのは間違いが無い。
たぶん体中にその毒がまわっているのだろうが、それでも狐が動けているのは毒に対してのある程度の耐性があるからだ。
普通血液が体全体を一巡するに要する時間は約二十秒と言われている。
脳は五分弱、心臓なら三時間で、酸欠によって細胞の壊死する。
少なくとも、もう全身に毒素が回っていると考えてもいいだろう。


・・・ふむ、先に治療が必要なのは狐かな。


判断を下すと、まずは狐の担いでいた青年を実験台、いや、今は手術台に寝かせ、一瞬にしてその体を固まらせた。
それを思いっきり目撃してしまった狐が血相を抱えて(仮面で顔は見えないが)俺に詰め寄る。


「助けてくれるんじゃなかったのか!?」


わけのわからない重圧。ふむ、これが殺気というものか。
これほどの重症でこれだけのプレッシャーを俺にかけられるんだから大したものだ。
妙に冷静な自分を意外に思いながら、俺はその問いには答えずに狐の服を切り裂く。
服の下に現れたのは、イメージとはかけ離れた貧弱な筋肉。ちゃんと栄養取ってるのか?
っと、今はそんなこと後回しでいいか。


「な!?」
「無駄口たたくな。死にたいか」


刺しっぱなしの毒を染み込ませたクナイ、そこから出ている赤黒い血を指につけて舐める。
味わうように念入りに分析した。あれか。
血液を完全に侵した毒素で俺が死んだりするようなことは、もちろんない。


これは、俺の特殊能力の一つ。
もともと、心霊医術というかなり異質な能力を持っていたおれははこの世界に来てからさらにその種類を増やした。
その中の一つが、毒を体内に入れることによって、その種類がわかるというもの。
普通の人が何かを味わい、どんな材料からその料理がつくられたか大体は推測できるのと同じような感じで、俺には毒の種類がわかる。
そしてもう一つ、体内に入れた毒の抗生物質を俺の体内にも作れる。
そして、意図的に血を薬代わりに与えることによって、即効の解毒作用をもたらすことができるようになったのだ。
つまりは、俺の血は万能薬になるってことだ。

なんか俺ってどんどん人間離れしていくような・・・、と遠い目をしたくなるのは自分の心の内にとどめておく。


血を飲ませ、ちょっと強引な方法で狐を眠らせる。(体力をかなり消耗していたからこそできた芸当だ、完治した後の報復が怖い)
寝かせる場所がないので壁に寄りかかせて座らせ、俺は早速手術の準備にかかった。
シャワーを浴び、これから入る手術に向けて心構えを整える。
俺は神じゃない。
これから行う手術に完璧な自信を持っているわけじゃない。
それが、今までで一番難しいものになるのならなおさらだ。


変化を解き、伸ばしっぱなしの髪はゴムで結わえた。
たっぷりの湯と糸を準備して、自分の血液を大量に使うと思われるから水分と固形物を大目にとる。
さて、できるだけの準備は整えた。
・・・・・・手術、開始だ。



青年の心臓は、すでに止まっていた。






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(10/19 修正)
さて、やっと登場人物と接点ができそうです。
本当だったらもうすこし早く出会うはずだったんだけどなぁ。
というか、前にナルトに会ったときにもうちょっと普通に関係をもって、
で暗部だってことにあとから気づくっていうプロットだったんだけど・・・。
一体何が起こったんだろう・・・。
そして修正・・・。あは☆