拾物





なんだ、これ。


仕事帰りに見つけたのはガラクタだった。。
さほど抵抗なくそれを拾い上げると事切れたばかりだったのか、まだぬくもりが残っている。
固まりかけている液体がぼたぼたと音をたてて地面に落ちるのを耳で聞いて、見やすいようにすこし明るいところに腕を動かした。
それを見れば見るほどその損傷具合に思わずまじまじと傷の様子を観察してしまった。(とても俺らしい反応だと思う。他のやつだったら顔をしかめるとか目をそむけるとか息を呑むとかしそうだ)
それはもともとある小動物だったらしい。
今はその姿を想像することのほうが難しい。
俺だってその特徴的な部位を見なければ何の動物だったか判別できなかったかもしれない。
それほどそれの損傷は酷いものだった。


「・・・・・・」


気まぐれだ。
今の俺の行動は。

そう自分になぜか言い訳して俺はそれを家に持ち帰った。
少し動かすたびに右手を伝う液体を袖につけないように一応気を使いながら左手の買い物袋を持ち直す。
別に急ぐ必要はない。
だってこの行為は気まぐれからなるものだから。
それでも、なぜかいつもより景色は速く過ぎていくような気がした。
いや、これは気まぐれだ、と言い訳を主張する自分、誰に言い訳してるんだとつっこむ自分、それにほんとはわかってるんだろと冷ややかにたしなめる自分、知らないさ、としらばっくれる自分・・・ループする思考回路はなかなか止まることはない。


“生きたい”そんな声が聞こえた気がしたからじゃ、ない。






「おかえり、。で、ソレ、なに」


家に帰ると当然のようにいるシカマルにとりあえず足蹴にして左手の買い物袋を乱雑にほうって奥の部屋に行く。
それにしても、左手に買い物袋、右手に血まみれの物体・・・随分おかしな組み合わせをするもんだ。
自分のことなのにどこか遠くの思考を眺める。


奥の部屋の開き、自分の体を通すときっちり閉めて鍵をかける。
この部屋ともう一つの部屋だけは特別製のロックをかけている。いくらナルトとシカマルでも入れないだろうと思う。これでも侵入されたら秘密の部屋でもつくるほかない。
部屋の中央に備え付けられている机の上の物をどかし、右手に持っていたものを乗せた。
固まった液体が、まるで俺の手とソレをつなぎとめようとする。
まるで、幼子が離れていく親の服の裾を必死で掴んでいるみたいだ、と思ったのは本当に俺の思考だったのか。
さほど力をいれずに手を引くと、数本の毛と一緒に俺の手はそれから離れた。
気にしない。
思考は、ほとんど働いていない。


まったく、酷いことをする人間がいるものだ。
















「ったく、家にまで仕事を持ち込むなっつの」


リビングで足蹴にされた人物の表情を思い出しながらシカマルは蹴られた部分を軽くさすりながら読んでいた巻物を元にもどし、乱暴に置かれた買い物袋の中身をあるべき場所にしまう。
お、今日の夕飯はカレーか。

なんだかんだ言ったって、は優しい。

俺らの正体を知っても侮辱したり恨んだり殺そうとなんかこれっぽっちもしないし、こうして俺らの分の食事も用意してくれる。
一つ年下に世話になっているのになぜかそれが最初から当たり前のような気がするのはあいつのもつ雰囲気のせいだろうか。
精神年齢が三十路とかなんとかいっていたことがあるが、あれも何かしらの根拠があっていっているのだろう。
きっと、そのまま三十路に変化してもなんら違和感が感じられない。

本人は決して認めたがらないけどあの性格は厄介ごとを引き寄せる。

たとえば押しに弱いところ、困っている奴を放っておくことができないところ、ある程度気を許した相手に対しては俺らのような異端児であっても面倒見のいいところ。
しかも本人はほとんど無自覚ときてる。
まぁ、その性格のおかげであいつは暗部に入って、死人をほぼゼロにまで減らして全体の負担を激減させただけでなく、俺を大げさではなく生き返らせ、そして出会ったのだから。

あいつ自身は気づいているのだろうか。
自分がどんな顔をして、その特殊な能力を使用しているということに。
俺も、ナルトも、そしても、決して誰にも交われないと、どこかでわかっているから、なのか。
危うい、と思う。
そう思うのはある意味失礼なんじゃないかとも思うが。
だけど、どこか、わからないなにかが、危ういと、感じる。
わからない、わからないことが危ういと感じる原因なのか。
だが、理屈ではわからないけどもなぜか安心していられるということがあるのも俺は知っている。
だったら、危ういと感じるその原因が、俺はどこかでわかっているんじゃないかと、どこかヒントでも引っかかっているんじゃないかと、どこか見落としてはいないだろうかと、頭のなかをかき回してみるが、見つからない。
そのとき、馴染んだ気配が家の外に感じられた。


「ただいま〜」


血臭に気づいたのか、微妙に不思議そうな顔をするナルトの顔を見て、こいつも本能的な部分で俺と同じような感情を感じているんじゃないかとふと思う。
こいつの本能はなによりも鋭いから。
だけども俺たちは何も言わない。
今そのことを話し合っても、何もできないことを知っているから。


「今日の夕飯はカレーらしいぞ」
「まじ?俺中辛がいい!!」
が買ってきたのは辛口だったな」


ぶぅたれるナルトは一瞬、の入っていった奥の部屋のドアに視線をやると、なにごともなかったかのようにソファーの上に寝転んだ。
まだ俺たちが、の『心』に入れるほど、気を許してはいない。
それは、俺たちにとっても言えることだ。





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そんなに簡単に全てを預けるほど単純じゃない。
ただ他の人よりは、少しだけ近い位置。
それが今の主人公とナルトとシカマルの距離。
なんだか期待を裏切っている展開のような気がしないでもないですが普通のことだと思うんです。
短時間で築けてしまえる信頼は、なんだか信用できないと思いません?私だけか?