食事





完全に血に犯された部屋から出ると窓から差し込む光がすでにわずかなものになっていた。
体にまとわりつく香りを何も思わず、タオルだけもって風呂に入った。
まだ、強烈な赤い色が目にその残像を残す。
コックをひねり、温度を調節することのないまま浴びたシャワーは、俺の微熱ぎみの体温を急速に冷やした。





「すっげー匂い」


思わず(そんなことはないけど、あったら忍びとしてやっていけない)口にした声が沈黙を破る。
俺の振動させた空気は控えめな余韻を残して静かに消滅した。
直後に聞こえてくるのはシャワーの音。
・・・まさか冷水のまま浴びているんじゃないだろうなと思いつつすぐに途中だった任務の報告書に取り掛かった。
ちまちまとしたこの作業はあまり好きではない、が、そんなことを言ったってやらなくてはならないことを放棄するわけにはいかない。
何よりも、怠れば迷惑をかけるのは俺の大切な人だ。
まぁ、それでも少しくらい雑なできになってしまうのはおおめに見てもらおう。
いやなものはいやなのだからしょうがない。
こうゆう事務処理はシカマルに全て押し付けるべきだ。それでシカマルの実務は俺がやる。
そのほうが絶対に効率がいい、だけど報告書は任務を実行した人が書かなければならないからしょうがない。
そんなことを考えながら、もくもくと作業をしていた。


音が途切れる。


少ししてからドアが開き、が腰にタオルを巻いただけの格好で出てきた。
呆れた。本当に冷水シャワー浴びてたのかコイツ。
風呂場に繋がるドアの隙間から湯気が出てないのと、自身の顔色を見てすぐにわかった。
唇の色が紫になっている。肌の色もいつもより青白く見える。
それでも、はいつものように俺らを流し目でいることを確認すると、なにも言わずにキッチンのほうに向かっていった。
もしかしてその格好のまま食事をつくるつもりか?
いくらそんな寒い季節ではないとは言ってもそんなことをしていれば風邪をひくに決まってる。
本人もそんなあたりまえのことをわかっているはずだ。
それとも自分だけはひかないとでも思っているのか?





かじかむ手を気にしないようにしながら料理をする。
背後から視線を感じるが、今更だ、答える気力も実はあんまりない。
今の俺は俺じゃない。
他人事ならいいだろうと、意味のわからない言い訳を心のなかだけでした、今日の夕飯の準備をする。
今日はカレーだ。

まだ、思考が遠い。






「なぁ、とりあえずパンツだけでもはけよ」


発言したのはナルト、隣で頷いたのはシカマル、言われたのは俺。
まだ遠い思考の中でも、俺はいつもと大して変わらない返事をする。


「別にいいだろ、女じゃあるまいし」


まだ腰にタオルを巻いた状態のままだ。
ときどき髪に付いた水滴が肩に落ちて肌の上を滑らすが気にしない。
カレーのルーと真っ白なご飯を混ぜ合わせて口に運んだ。
不満そうな二人の表情には気づかないフリをする。
さっさと食べて、奥の部屋に戻ろう。
二人のこの視線苦手だ。


「ごちそうさま」


食べ終えたと同時に食器を持って立ち上がる。
ナルトはまだ半分ほど辛口カレーに牛乳をたっぷりまぜたもはやカレーの色をしていないそれを食べているし、シカマルはシカマルで食が細いのでちびちびと食べている。
俺は、食器を簡単に水にさらしてそのまま奥の部屋に引っ込んだ。
なんだか二人から逃げているみたいで、一瞬情けなくなったのは、誰にも言わない。



奥の部屋にいるソレは、部屋を出るときとまったく変わらない体勢で、横にあった。





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互いが気遣っていて、気にかけているのに気づいているけれど、気づかないフリ。
展開が遅くてすみません;;