俺は、人というものの認識が、他人とは違うということを、自覚している。
それはしょうがない。そうゆう職種なんだから。
俺は、手術が専門の医者だったのだから。
人が、生死の狭間をさまよって、俺のところにすがり付いてくる。
俺に捧げるのは、大量の現金や、権力。
まぁ、それには興味がなかったから、すべてを家族任せにしていたけども。
俺は、手術はする。
病気の根源は取り除いてやる。
だけど、俺にできることはそこまでなんだ。
その人から引くことはできるけども、決して足してやることはできない。
手術はできる。だけど、治療はどうやったってできない。
性格的に向いてない。
手術だけで、手一杯っていう理由もある。
とにかく、俺は、誰か一人を最初から最後まで関わってやれるということが一回もなかった。
あるのは、手術前の観察のための問診。
そして、俺専用の手術室の中での、死の香りのなかでの対面。
決してそれが悪いと自己嫌悪になるわけじゃない。
ただ、普通の人間として生きていくには、難しい価値観に育ってしまったなと客観的に思うだけだ。
ふと思う。
『人を殺す』ということを仕事にしている彼らは、どんな価値観をもっているのだろうかと。
ひくり
ガラクタを拾ってから二日後。
まずまず予定通りの回復を見せたソレは、思ったよりも早く目を覚ました。
これも妖力の影響か?
全てを妖力のせいにしてないか?と少々思いつつ、観察記録に反応を妖力を使って念写(こうゆう使い方もあるのだ)して、ソレの体調を調べるために体毛に指を滑らす。
体温、鼓動音、脈の流れ、まとわり付く妖力、筋力のこわばり、呼吸、眼球の動き、傷の治り具合、エトセトラエトセトラ。
まぁ、大体触感と右目で全てわかるけども、念入りに診る。
きっと、らしくもないことを考えるのは、俺がこいつに『治療』を施しているからなんだろう。きっと。
なんだか今の俺は妙に感傷的だ。
ふぅ、とため息をつき、ソレをベッドに寝かせる。
クッションをちょっと改造しただけのものだが、意外にフィットしているらしい。
手を離すともぞもぞと俺の手を探すようなそぶりを見せたのでもう一度、今度は手のひら全体で薄い色素の毛並みを撫でた。
すぅ、と力の抜けた小さな体を感覚で感じ、思考は奥に沈んでいく。
前世では、最初から最後まで人と関わる、ということは少なかった。
人と関わった記憶があるのは、小学生の低学年以前と医者の学会やら研究会やら俺の持っている能力の解明だかなんだか騒ぐやつら、それに、手術を行う顔色の悪い患者。
俺が最初に手術の現場に立ち会ったのは、自我も生まれていないだろう、2,3歳のころ。
その現場に恐怖心を覚える前から慣れさせようという医者家族ならではの環境だと思う。
そのおかげで俺は血や肉片などに、まったく恐怖心を覚えることはない。
俺の能力が発覚したのは5歳にも満たないころ。
車にはねられた一匹の太った野良猫。
それを公園の茂みで弄くりまわしていたら、その違和感に気づいた。
今でも思い出せる。
たしかあの後一般人それを見つかって警察に通報されたんだったか。
そんなこと、どうでもいいんだけど。
家族に引き渡された後、その能力のことを話して、実際に確認してもらった。
そこで、俺は初めて『心霊医術』という言葉を聞いたんだ。
初めて『人間』にその指を埋め込んだのは、それから一年後のこと。
なにも、最初から病院で預かっている患者を手術するということは、流石にしなかった。
きっと、俺がしていたことが世間にばれたらとんでもないことになるんだろうなと、今では思うが、当時の俺にはどうしてわざわざめんどうなことをするのかがいまいちわかっていなかった。
まず、海外にとんだ。俺の知らない名前の小さな国だった。
戦争があったのかテロがあったのかは覚えていない、というか知らされてもいなかったが、俺のようなガキでも必要としている患者はそこらへんに腐るほどあった。
実際に、腐っていたやつもいた。
暗黒の負の感情を封印しているテントの中で、俺はとにかく指を動かした。
家族は誰一人として来なかった。
俺は一人だった。
母国語ですらうまく喋れなかった発達の悪い俺は、英語すら喋れる者が一人もいなかったその国で動作だけでそのテントの中で三年の時を過ごした。
気づいたら、日本語よりも名称のわからないそこの言葉のほうが扱いやすくなっていた。
ただ、友人と呼べるやつは一人も作らなかった。
俺は、人間というものを
『物』としか見れなかったから―――――。
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参考書は漫画の「医龍」です<雰囲気ぶち壊し/笑
人を人として見ているとメスが入れられないとかなんとか。
あと、手術医の親しい人はその手術に携わってはならないとか。
とりあえずここにて採用(笑
次かあと数話で原作前終了予定です!!