生終









ナルトとシカマルが気をつけていてくれたおかげだろう、家に忍び込んでも誰一人としてはち会うようなことはなかった。
そして、すぐにターゲットの部屋にたどりつく。
ナルトがその部屋を開いた。

濃密な死の香り。白を基調とした部屋。

それらは簡単に昔の記憶を呼び覚ましてくれる。
最初に思い浮かんだのは、母親。
この世界で、俺だけに見送られて逝った、女。
そして、さらに記憶はさかのぼり、前世の病院へと無理矢理引きずられる。
白、白、白、赤、白、白、白、緑、白、シロ、シロ、しろ・・・。


、・・・!!」
「わかってる」


今は思考をとばしてるときじゃない。
心配そうに覗き込んでくるナルトをよけて、シカマルの結界が張られていることを確認して、それでも二人の注意が俺に向かっていることを感じて。
・・・(精神的)年下にここまで心配されるとは、な。
なんとなく不覚、という気持ちになって、自分はまだ子供だなと思う。
もう、30年以上生きてきたはずなのに。
それを口に出すことはせずに、中央に備え付けられているベッドに近づく。
横たわっているのは、もはや生き物の顔色を失っている老人。
棺おけに片足つっこんでいるという表現では足りない。触れたら決して抜け出せない死の沼に腰、いや首まで浸かっているという表現の方がちかい。
病に体を蝕まれ、苦痛が絶えず襲ってくる。
それなのに、この老人はその痛みも、死すら受け入れて。

しばらく見なかった表情だ。

人は死ぬために生きる。

生まれ落ちた瞬間、否、生まれる前から、全て平等に義務付けられている絶対な、偉大なる、神聖なる死。

この老人は、最終目標の“死”を通して、これからどうなるんだろう、と、考えてもしかたがないことを思った。
そんなことを、母親のときにも思ったような気がする。
そして、自分のときにもそんなことを考えるのだろうかとも、思う。
・・・そういえば俺は一度『死んで』いるんだった。
そのとき俺は、何を考えていたんだろう・・・?


「おじいさん」


無音の部屋に、俺の吐息混じりの声。
自分の耳には、思ったよりも大きく聞こえた。
老人の横に手をつき、顔の真上に乗り上げるようにして覆う。
気配を感じたか、声に導かれたか、まぶたがわずかに震えてゆっくりとわずかに老人は目を開いた。
その瞳は濁っていて、焦点が合っていない。
俺のほうを見てはいるが、何かさえわかっていないだろう。そして、俺は認識される前に言葉をかけた。


「くるしい?つらい?」

ゆっくりなテンポでおきかけの脳にもその意味が伝わるように囁く。
老人は言葉の意味を租借してそれに返す反応を考え、表情や口をゆっくりと動かした。
フ、と力はないけれど、どこまでもやわらかく笑みをにじませる。
口を開いた。
だけど音は出なかった。


 だ い じ ょ う ぶ


決して、大丈夫な苦痛じゃない。
だけれども“死”を受け入れてしまったこの人間にとってはこんなにもつらい痛みが、許容範囲のなかに入ってしまうのだ。
なんなのだろう。
俺も、ここまで来てしまえば、この気持ちが、わかるんだろうか。



用意していたカプセルを、老人に飲ませて、俺たちは里に帰った。





老人がどんな過去を送ってきて、どんな思いに包まれて、最期を生を終えたのか、俺は、知らない。





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テーマは読んだ人が生死について少し考えさせるような文章!!
と目指してはみたものの、どうでしょう??