母の体に幻術をかけ、自分は変化して抱き上げた。
玄関の鏡でおかしなところはないかとチェックして、外に出る。
向かう先は、母の墓地になる場所だ。
とりあえず一番近くの森まで人通りの少ない裏道を進んでいくと、最初は小さな、しかしだんだん近く大きくなってくる喧騒が聞こえた。
運の無い、そう思って見なかったことにしようと進路を変えようとしたとき。
「・・・この、・・・狐がっ!!」
その単語で反射的に動きを止めてしまった。
同時に、今まで悲しみによって抑えられてきた行き場のない憤りがあふれてきてずきずきと頭を痛める。
「ごめん、ちょっとここで待ってて」
慎重に母親の体を壁に寄りかかせて座らせ、他人の目に触れても意識に入らないように仕組んだ幻術をかけておく。
結界もはりたかったがそこまでの忍術は習得していなかった。
幻術をかけてそう見えるのだとはわかっていても、死んでいるとは思えないその顔色に、一瞬悲しみで泣きそうになったがすぐに感情の
波は収まってしまった。
もう、母親の死に慣れてしまったのかもしれない。
いつまでもこうしてはいられないと、立ち上がり、声の方向へむかう。
角を曲がると予想通りの光景がそこにあった。
大人が三人、そして、その大人に囲まれるような位置で頭を抱えうずくまっているような体勢の、子供が一人。
予想していたとは言え、『現場』を初めて目撃した俺はショックを受けた。
実際にわかっていたつもりだった自分を殴り殺したい衝動に襲われる。
ほぼ無意識に握りこんでいた手からは血が流れていた。
そうなった理由を、俺は知っている。
そうなった動機を、俺は知っている。
そうなった原因の瞬間を、俺は覚えている。
冷遇されていたという事実も、知っていた。
だが、所詮、『知っている』だけだったのだ。
「やめろ」
自分でもわかる、苛立ちの声に、不思議な気分になった。
変な話だが、自分の感情のこもった声を、今初めて聞いたような気がする。
少なくとも、成長したこの姿での感情のこもった声は、初めて聞いたのだが。
俺のなかには感情が高ぶっている自分、そして、そんな自分と周りの状況を冷静に観察している自分がいた。
大人たちは自分たちの行動をとめられたことに驚いたらしい、そして、声をかけた俺を見て驚く。
「なっ、なんでとめるんだ!?」
「そうだ!!ここにいるのは俺たちを――「それ以上言うのか?禁句なんだろう?」
少なくとも俺はそう記憶していたはずなんだが?
と、付け足して男たちに近づく。
それにつれて、子供の様子が細かく観察することができた。
打撲、擦り傷、内出血・・・うまい具合に致命傷を避けている。それは慣れのおかげなのか、せいなのか。
とりあえず、今すぐに片付けなくてはならないのはこの感情的な人間たちだ。
「いいのか?このことを公にしてしまえば立場が悪くなるのはお前たちなんだろう?それにもし“あれ”の封印が弾みで解けてしまったらどうしてくれる?お前たちだけで“あれ”を追いやってくれるのか?」
そんなことはできまい、絶対に。
反論を許さずにいまだうずくまったままの子供を抱き上げて傷の様子を診る。
ん、これなら消毒しとくだけで十分だ。
どうやらとめに入ったのが早かったらしい。
「――てめえ、殺す!!」
「お、おいっ!!?」
物騒な台詞だな、と、顔を振り向かせたときには俺の腹に、なにかが刺さっていた。
痛み。
男は私服だったし、額宛をしていなかったからわからなかったが忍びだったらしい。
そのことに気づかなかったのは、ただ俺の観察力が足りないのと、今まで忍びを見たことがなかったせいだろう。
そんなことを思いながら、視線を下に向けると、わき腹あたりにクナイが刺さっているのを確認できた。
俺を刺した男は顔色を悪くして後じさる。
この様子をみると確実に下忍だ。年を考えてアカデミー生ではないだろうが、実力はそのレベルだろう。
「忍びが殺すといったら確実にしとめなければ駄目じゃないか」
呆れた、その感情をそのまま隠さずにそういえば、男たちはなにか意味不明な言葉を発して逃げていった。
オイオイオイ、なんだかもう、ほんと呆れるしかない。
もしかしたらクナイを持っているだけの一般人だったのかもしれない、いくらなんでもあの反応の忍びがいたらかなり問題だ。
そんなことを考えている俺を、金の髪を持つ子は驚きながらも俺を見ることしかできなかった。
とりあえず、ナルトと思われる子供の傷を簡単に消毒してすぐにその場を離れた。
何か言いたそうに見られているのを感じたが無視した。
正直、深く関係を持ちたくなかったから。
深く刺さってしまったらしいクナイをそのままに、母の元につくと、置いたときと変わらずにそこにいて安心する。
母を抱き上げて、また歩き出した。
back/
next
主人公がどうして幻術を知っているのかというとお父さんが忍びだったので押入れの奥かなんかに術書かなんかがあったんですよ、たぶん。
というかこのあとがき、隠しているのに書いている意味あるんだろうか・・・?
まぁいいや。