母親の死から、また数ヶ月の時が過ぎた。
今では一人の生活もやり方がわかってきて、誰にも干渉されない生活を送っている。
俺はこの世に産み落とされてからちょうど四年、いつものように変化をして買い物の帰りに裏道を使っていたら気配が明らかに一般人ではない、血の香りを体に纏った男が壁に背を預けて座り込んでいた。
そういえば、この里は人手不足に悩んでいると聞いたことがある。
だが、それがどうした、というのが正直な感想だ。
俺はたまたま木の葉に生まれ育っただけで、特に里に対して誇りとか忠誠を持っているわけではない。
だけどそのまま見過ごすくらい、男の怪我が酷くないわけではなさそうだ。
そのまま通り過ぎようかどうか迷いながらも、俺は歩みを止めることはない。
とりあえず、家に荷物を置いてからもう一度来て見ようか。
その場で治療しようとはしないのは、この男が暗部に入っているらしいから。
腕にある刺青は、間違いなく暗部のものだろう。
それならば、お互いのためにもあまり関係を持たないほうがいい。
行って戻ってきてくるまでに回復していれば問題はない。
逆にそれ以上ここで血を流し続けるのなら、多量出血で治療が必要になるだろう。
そう結論を出して、素通りする、つもりだった。
ガシッ、と足を捕まえられて行動を制限される。
向こう側の道路に向けていた視線を俺の脚を掴んで四つんばい状態になった男に移す。(これが美女だったら俺の気分は多少浮上していたのかもしれない)
男が顔を上げ、目が合う。
少し苦しそうに眉を寄せたあと、彼はヒクリと片方の口角を吊り上げさせ、口を開いた。
「困っている人を見かけたら助けてあげなさいと両親から教えられなかったのか?」
俺、困ってるんだけどなー、とかすれたような声を絞り出して俺の様子をみる。
今の俺の格好はだいたい20才くらい。
変化のモデルは前世で死ぬ前の自分自身。鏡で確認しても、大した違いは見られない。
この世界では、実在しない人物の姿。
だが、俺が一番慣れ親しんだ体だ。
無言で視線を合わせたまま、少しの時間が過ぎる。
もちろん、俺は無表情のままだ。
反応がない俺に彼は一瞬目を細めたが、それはすぐに苦笑いに変わった。
「あーっとな?俺、おにーさんに助けてもらいたいんだけどなー?」
・・・やっぱり家に戻ろう。
――荷物を置くついでに、薬も少々持ってこなければならない。
俺もお人よしになったな、とどこかで思いつつ、男に掴まれた足をはずし、ここで初めて男に声をかけた。
「ここで待っていろ」
男の顔色や、瞳孔などを見てわかった。
命の危険までは無いが、長期間ほうっておくとその危険性がある少々やっかいな病気にかかっている。
ついでにいうと、毒も盛られている状態らしい。
そんな状態でもこんな表情ができるんだから、流石は暗部か、と少しだけ感心した。
まずは毒を抜くか。
手術の算段をしながら男の呼びかけを無視、俺は跳んだ。
「―――消えた?」
移動しただけだ、馬鹿。
ちょっとだけ、里の未来が心配になってきた。
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オリキャラ登場。出番は少ないと思われる。
暗部の中では強いほうだがこれから出てくる人たちにくらべれば弱いというかわいそうな立場。
主人公、普通に速すぎなのにあんまり自覚無し。