「よう」
それが一応命の恩人に対しての挨拶なのか、この世界の。
相手の顔をみて、病の心配はもうなさそうだとわかると、こいつにかかわる理由が無い。
かけられた声を完璧に無視して、買い物帰りの道を進んだ。
何日か前、治療を施したその男は俺のその反応をあわてることなく俺の隣を並んで歩き始める。
男は何か話しかけてきたが全てシャットアウトした。
今考えているのは夕飯のメニューだ。
最初はめんどくさいと思っていた料理だが、なかなかはまりだすと面白いものだ。
栄養面のバランス、味の質量、見た目の鮮やかさなどいろいろな考える要素があって、なかなか主婦業も大変なんだなと思う。
そんなことを考えながら歩き続けていても、男は俺を話しかけ続けているようだ。時々様子を伺うように顔を覗き込んでくるのは邪魔としかいいようがない。
めんどうだ、この上なく。
そう考えたとき、男は急に俺の目の前に立ちはだかって向かい合う形になった。
必然的に俺の足も、止まる。
「なぁ」
男の声は真剣だった。
だから、俺も少しは聞いてやることにした。
「暗部の医者に、なってくれないか?」
ある程度、その問いは予測していたものだったのかもしれない。
俺の異質な能力は、この男に知られてしまっていたのだから。
確かに、人手不足の里にとって、俺の能力はのどから手が出るほどほしいだろう。
なんせ、俺が治療すればどんなに命が消えかかっていても回復することができる。
だけど、俺はその話を断った。
後から考えてみてわかったことだが、暗部にかかわるだけでもかなり危険な事態なのだ、生き続けることを目的にしている俺にとっては。
情報を集めてみると、暗部の任務情報を少しでも、たとえランクだけでも知ってしまったら記憶を抹消されるか(そんな術があるかどうかは知らないが俺には可能だ)命を抹消されるか、とにかくろくなことにならない。
だけど、男はとにかくしつこかった。
ならば最初は俺と友人にならないかとか、お前の好きな条件をつけていいから大怪我を負ってしまった忍びたちを治療してやってくれないかとか、お前に危険をさらさないように護衛をつける話を火影様に交渉もするとかとにかく男は諦めが悪かった。
俺はしばらくは無言を貫いて家を目指して歩いていたがもう少しで俺の家へ着いてしまうというときに男はもしかしたら了承しなければ家にまで上がりこんでくるんじゃないかと思いついてめんどうなことに、本当にめんどうなことに条件付で了承した。
―――案外自分は押しに弱いのかもしれない。
そんなことを思いながら明日のこの時間までに条件を考えて準備もこちらで用意するからとにかく帰れ場所はここでいいと男をここではないどこかへ術を使って飛ばし、俺はようやく家にたどり着くことができた。
なんだか、週に一回の食料の買出しがとても疲れた。主に精神的に。
翌日、俺は仕事着を購入し(暗部服ではない)、陶器製の仮面を自分で準備した。
市販で売っていた白紙の巻物(ノートと同じ扱いだった、さすが忍びの世界)に慣れないながらも筆を滑らし、思いつく限りの条件を書き出す。
かなりの数になってしまったが、大切な部分を要約すると、こんな感じになる。
+条件+
暗殺任務は受けない。
俺個人の情報はたとえ火影でも教えない。
火影邸の近くの地下実験室の提供。
実験体の提供、他国の死体でもかまわない。
俺のやり方に文句はつけない。
報酬に禁書を借り出す権利をもらう。
*これらに関する条件が破られた場合、俺は火影に自分の要望を突きつける権利を得る。
この条件を見た男は呆れたようにため息をついたがこれだけ好き勝手に条件をつけたにもかかわらずどうしても人材はほしいらしく、数日後、俺は正式に暗部に入隊した。
刺青は自分で彫った。
常に変化しているから必要はなかったかもしれないが、あんまり自分勝手にしすぎるとなんとなく申し訳ない気分になるからという理由で彫った。
専用の店へ行ってやってもらわなかったのは、自分の正体に気づかれる可能性を少しでも残さないためだ。
念には念を、である。
まぁ、誰も俺がまだ四年しか生きていない子供だとは思わないだろう、精神年齢はとっくに成人を過ぎてはいるが。
自分の生活臭を探られないために香水でもつけようかとも思ったが、めんどうなのでやめた。
そんなことをしたらその香りをたよりに俺に気づく可能性のほうが高い。
「それでは、お主に『』と名づける」
火影は俺の仕事ぶりを見て、俺に名を授けた。
「俺はひざまずかない、俺は契約で忍びの命を永らえさせるだけだ」
「・・・・・・よかろう」
まわりにいた暗部数名は俺の言葉に驚き、答えた火影に何故、という視線を向けたが、誰も何も言わなかった。
こうして、俺は、働き口を手に入れた。
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主人公(外見)3,4歳にて就職しました。
だって家族がいませんから。
あ、そこのところの詳しいところは短編で書こうかなと思ってます。
うん、ネタはちりばめてはいるんだけどなぁ・・・。
それらを拾い集めるのがとっても大変だ。