もうすぐ、もうすぐなんだ。たのむから、じゃましないで。
俺はそれだけを求める。それ以外はもう求めない。
求めても、それを手に入れることができたとしても、俺は素直にそれを喜ぶことができない。
手に入れたものは、簡単に失えてしまう。
そのときの苦しみが、俺には耐えられない。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
俺はもう、生きることに疲れてる。
自分に向けられる感情に、期待に、思いに、欲求に、うんざりしているんだ。
求められて、その通りに生きることに、俺は疲れてる。
生きる理由のひとつ、目の前のナルト、それに覗き見しているシカマルとウサギにも、俺を楽にさせてくれと訴えたい。
いや、訴えよう。
「ナルト、もう俺と関わらないでくれ」
「嫌だね」
即答されるとは思ってなくて、続く言葉が見つからない。
戸惑って、それから苛立ちが胸の中に湧き上がる。
こいつには、俺の心境なんてこれっぽちも理解しようと思ってない。
ずしりと、重くなる。
ストレスでどうにかなってしまいそうだ。
「いい加減にしろ。お前がどんなに嫌がっても、俺らはお前を離すことなんてしない」
「・・・・・・やめろ」
「やめねぇ。てめぇのペースに合わせてたら一生このまんまだって、冗談じゃねぇ。いーか、よーく聞け。
は俺らに必要とされてるんだ。お前の本心を見せやがれ、お前の本気を、お前自身を見せろ」
「やめろ!!」
叫ぶ。
一言だけの叫びなのに、記憶にあるかぎり生まれた直後にしか大声を出したことのない俺ののどはそれだけで異常に痛んだ。
別に病だからとか怪我だからとかじゃない。
大声を出すという行為に、普段使わない声帯が耐え切れなかったのだ。
血を吐く思いで、俺はわめいた。
もしかしたらほんとに血を吐いていたかもしれない。のどが痛い。
「うるさいうるさいうるさいっ!!黙れ黙れ黙れ!!俺に近づくな関わるな消えろっ!!」
口が回らない。
言いたいことは頭からあふれ出すほどにあるのにそれを言葉にできない。
言葉にならない感情はぐつぐつと体中を暴れ周り血液とともに駆け巡る。
血と一緒に汚物まで吐き出してしまいそうだ。
だけど自分の中は空っぽで、空虚しか吐けない。
「ざけんじゃねぇ!!」
「・・・ッ!!」
俺の精一杯の叫びは、それ以上の大きなナルトの叫びに簡単に負けた。
ずるい。俺はもうのどが痛くて声を出すことも辛いのに。理不尽だ。これじゃあまるで俺の訴えなんてどうってことないことみたいじゃないか。なんなんだよ。頭の奥がジン、とする。なんなんだ、くそ。
ナルトの叫びは続く。
「てめぇが何考えてるかわかんねぇよ。でもそれはお前が本心を隠してるからだろ!!まさか何も言わないで黙ってても自分の気持ちとかは悟ってもらえるとでも思ってんのかよ!?んなことできるわけねーだろが。どんだけ自分勝手なんだよ、あぁ!?
挙句の果てにはちょっとつっこむだけで勝手に防御壁はろうとして勝手に諦めて勝手に自己完結して勝手に消えようとして勝手に全部無かったことにしようとしやがる!!ざけんな!!」
「あ・・・う・・・」
「関わるな、だって?言うことに欠いてそれかよ!?
六年だ、六年だぞ!?俺らが生きてきた人生の半分以上っつー時間だ!!それを簡単に捨てさせようとするんじゃねーよ!!
勝手に俺らから“”を奪い取ろうとするな!!」
自分の言葉の意味が、どういうことか、ナルトとシカマルにとってどういう意味か、気付く。
ずしりと、体がさらに重くなる。
それは、ナルトの本心からの叫びだ。
俺の本心はこれだ、と。
お前の本心を見せろ、と。
もう、最初から無かったことにはできないのだと。
あまりに深入りしすぎたのだと。
――どうして、こんなになるまで、こいつらと付き合ってきていたんだろう。
わかってる。わかっていた。わかっていたんだ。
心地よかったんだ。
母を失った家は広く、冷たく、空虚で。
家にナルトたちが入り浸るようになって、人がいるということが、とても暖かい気持ちにさせてくれて。
認めてしまえ。
嫌だ、怖い。
相反するそれは、どちらもうそ偽りはない。
あいまいなまま、この話題を先送りにしてしまいたい。できることなら一生。
頭が飽和状態だ。
ナルトの言っていることはわかるのに、理解が追いつかない。
ナルトが訴えていることは、たぶんとても単純で明快で、ただそれだけのもののはずだ。
ただ自分をさらせ、と。
俺たちに本音で接しろ、と。
気付けば自分というものを主張することは無かった。
同時に自身の気持ちを素直に表現するということもなく、その発想すらもなかった。
まわりの期待や欲求に答え、流されるままに流された。
そこに、自分というものの意思は必要ない。
そう、生きているとも言いづらい生を送ってきていた俺にとって、やったことのない自分を出す、というのには一体どうすればいいのかすらわからない。
「ちょ、ちょっとまって・・・」
ともすれば知恵熱を出しそうなくらい頭を働かせ、何とか出したことばはやっぱり情けないものだった。
しかもその内容まで声音に負けないくらいに情けない。
だけど、心のなかが少しだけ、変化したような気がする。
きっと、本気というものをわかりやすく向けてくれたからだ。
だからだ。きっと。
「でも――」
「まだ何かあるのかよ」
「まず何をすればいいんだ?」
「・・・・・・・・・・・・」
心底呆れたナルトの顔は、まぁ微妙にむかついたので衝動のままに蹴り上げといた。
そこで今まで傍観に徹していたシカマルとウサギが割り込む。
『とりあえず三人で気楽に話でもしよーぜ』
『失礼ね、アタシのこと忘れてるでしょう!!』
「・・・お前は一匹の計算だろ」
「、俺にも話ができるようにしろ。大体シカマルも覗き見なんてすんなよ!!」
『あー、めんどくせー』
「おい」
胸の重みが少しだけ軽くなり、世界が少しだけ、色鮮やかなものになったような気がした。
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無理矢理な展開でごめんなさい。
めずらしく何度も書き直し修正し根本から方向性を変えた回でした。