普段、ぶかぶかで体のラインが分かりづらい服を身にまとっているは、家にいるときはだいぶ軽い服装になっているが、常に俺たちの前では変化を解く様子は見られなかった。
変化はそう長く持たないと、先ほど言っていたのも、ただの言葉遊びだ。
本当のは、ひと時も他人の目が存在する空間では変化を解かない。
それが、油断していたのだろうか、それとも、彼の不本意な登場で動揺したのか、彼の曝した素肌には、いつものチャクラや妖力は纏っていなかった。
ち、という小さな舌打ちとともに、その素肌はなんら特徴もない肌に変わる。








、お前・・・・・・その傷・・・」


イルカの呼びかけが遠い。
俺はこの問いかけに答えなければならないのか?でもどうやって?
正しい答えはどこ?何を信じて、何を考えて、何をすればいい?
世界が色あせていく。
自分のまわりに、薄い膜のフィルターが形成されていく。
俺はいったい何をしていたんだっけ?
目の前で叫んでいる男たちは何をしている?
あぁ、なんだか思い出すのも面倒だ・・・。


「見ただろう!! そいつの醜い傷跡!! 異常な躯を!!」


叫んでいるこの男は、誰だ。
そして、何のことをわめいている。
まぁ、別にいい。
興味がわかない。
もしかしたらまたどこかの研究会のやつらが俺の手の異常さを説いているのかもしれない。
この手の危険性を熱弁するのもいいけれど、そんなことよりもこの時間に患者の手術をさせればいいのにと思う。
俺は一度も任せられた患者の病原を取り除き損ねたことはないのだから。
これから俺が手術に失敗するなんて不確定要素を言及するのも馬鹿らしいと思う。
百パーセントの確立で成功する手術なんてありえないのだから。
俺は、与えられた仕事をただこなすだけなのだけれども。


「こいつだって生まれながらにしての化け物だ!!」


そんな言葉、会議の中で発言してもいいのか?
まぁ、そんなレパートリーの少ない陰口、慣れすぎてるくらいだけど。
医者家族のなかでも俺の存在が浮いているのだって知ってる。


「お前なんか誰も認めやしない!!」


知ってる。
俺は、人間ですらない。
人間の形をして作られた、医療道具だってわかってる。
道具は何も考えない。
道具は何も欲しない。
道具は何も望まない。
道具は何も聞かない。
道具は何も関わらない。
道具は何も、感じない。
道具は何からも、認められない。
道具はただただ、そこに在り、使われるだけ。




!?」


ぐん、と引っ張られる腕。
流れる景色。
風を切る音。
俺を引っ張る、子供。
誰だ?こいつ。
いや、誰でもいいか。俺にはどうしようもない。
遠くで何かを呼ぶ声。
俺のものではないだろう。
俺は誰からも惜しまれるようなことはない。

いくら手術の仕方が特殊だからって、結局病や怪我を治すのは患者自身によるものであり、そして最新の医療技術は俺の手と同等の効果をあげているのだから。

求められるのは結果のみ。
患者たちにとっては過程はどうでもいい。
そう、所詮、俺のことなんて、どうでもいい存在なんだ。

痛い 痛くない 苦しい 苦しくない 辛い 辛くない 悲しい 悲しくない 怖い 怖くない 欲しい 欲しくない 感じる 感じない 寒い 寒くない 熱い 熱くない 痛い 痛くなるな 苦しい 苦しくなるな 辛い 辛くなるな 悲しい 悲しくなるな 怖い 怖くなるな 欲しい 欲しくなるな 感じる 感じるな 寒い 寒くなるな 熱い 熱くなるな

道具は、意思を持たない。
何かを感じる感情も持たない。
現状に疑問を持たない。
音がする。
それは俺に対する命令文ではない。
だったら、聞く必要がない。


!!」


って、誰のことだ。次の患者の名前だろうか。
思って、すぐにその疑問は掻き消える。
俺には必要のない情報だと判断する。
聞き流す。
次の患者は、どんな症状で俺に任せられるのだろうか。
また医学会の重鎮とやらが俺を試すために無理難題を押し付けてくるのだろうか。
俺にとっては、それもどうでもいいことだけど。



!!しっかりなさい!!』










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記憶の逆行・・・あれ?使い方違うかな?
とにかく無気力に〜。
世界が変わる前の主人公ってこんな感じだと思ってください。