世界が急速に汚く、否、リアルに感じられてくる。
同時に、今の自分の状態――何かから隠れている状態――も自覚することができた。
少し離れたところで、イルカとミズキが何かを話していることを確認する。
・・・紫苑の姿が見えない。


、気がついたのなら返事なさい!!』
『・・・・・・ウサギ?』


脳に直接響くテレパシーに、間を空けて答えると、ほっとしたようなウサギの感情が伝わってきた。
いまだに何が起こっているのか、よく理解できない。
だからウサギが何に対して何を思っているのかすら、まったくわからなかった。


『あんた、大丈夫なの?』
「いきなり固まって・・・どうしたんだ?』


ウサギとナルトの言葉が重なる。
どっちの問いに、どう答えようか迷って、結局俺はどちらも答えることはなかった。
ミズキの声が俺の耳に入り込んできたからだ。


「あの化け狐と化け物が力を利用しない訳がない」


今まで感じることのなかった不快感に、顔の皮膚がひくりと反応した。
あからさまにナルトが驚いていたが、何も言わない。
イルカの言葉が、続いて空気を伝う。


「けど、ナルトとは違う」


不思議な感覚だ。
何だろう、言葉という空気の振動が、ぬくもりを持ったような。


「あいつらはこのオレが認めた、優秀な生徒だ」


――――





心なしか、目が潤んでいるようなナルトが俺の名を呼ぶ。


「あいつらは木の葉隠れの、うずまきナルトとだ」


イルカ・・・。


「ケッ!めでてー野郎だな」
「ぐっ!!」


背中に背負っていた大きな手裏剣をはずし、回転させ始めるミズキのそばに、紫苑が姿を現す。
ミズキは当然のように笑みを紫苑に向け、紫苑は相変わらず冷たい視線を向けているだけ。
紫苑も警戒しているイルカの背中から、どんどん血のにおいが漂ってくる。
あのまま出血していれば、一時間も経たないうちに多量出血で生命維持ができなくなるだろうなと、頭の冷静な部分で推測する。


「イルカ・・・お前を後にするっつったがやめだ・・・

 さっさと死ね!!」



「――いくらなんでも、それはやめとけよ、ミズキ」


冷ややかな声。
この場でミズキにそう言えるのは、ナルトしかいないだろうと思った。
里の裏切り者に向けられる、絶対零度の音。
投げ放たれた手裏剣を軽々と受け止め、一瞬だけ俺のほうを見たのは、そうじゃなかった。


「さすがにこれ以上木の葉の里の忍びを減らすわけにはいかないからなー。あとから皺寄せきて苦労するの俺だけだし」
「紫苑・・・? 何故邪魔をする!?」


ミズキの激昂に、いやだなと思いつつ俺もぼんやりと回りきらない頭で同意した。
その言葉に紫苑は心底不思議そうに瞬きする。
俺の隣でナルトが呆れたようにミズキを見る。
なんだ?どうなっているんだ?状況がわかっていないのは俺だけか?俺の理解力が足りてないせいなのか?


「何? もしかしてお前、俺がお前と共犯で里を裏切ると勘違いしてたのか?
――おい、おいおいおいおい。いくらお前と付き合いが長いからといってそこまで運命を共にするつもりはないぞ?」
「な――っ!? 騙しやがったのか!?」
「・・・裏切り者にそんなこと言われてもなー。 それに、そっちが勝手に勘違いしただけのことだろ」


――え?


「まとめてブッ殺す!!」
「茶番は終わりだ(ぼそり)」


飛び出していったナルトにつられるようにして俺もミズキの前に出る。
だけど頭の中が飽和状態で、何をするのかまったく考えてなかった。
しまった、俺はどうすればいいんだ。
うろたえていると、ナルトが持っていた巻物を俺に渡してきた。
受け取って数歩下がる。


「・・・イルカ先生に手ェ出すな・・・殺すぞ」
「ほざくな!!てめェーみたいなガキ、一発で殴り殺してやるよ!!」


ナルトに思いっきりとび蹴りをくらって、それでも元気にほえるミズキの腫れている頬を見ながら、なんだか自分のなかでの緊張状態がおかしなことになっていく感じがした。
なんとか気持ちの整理を・・・と思っているうちに、いつの間にか紫苑が隣に立っている。


「あーぁ、無知って怖ぇーな。 あのナルトに啖呵切ってるよ」
「・・・紫苑」


なんか、微妙な気分だ。
どう反応していいのか、よくわからない。


「どうした? なんか変じゃね?」
・・・もしかしてアンタ――』
「ウサギそれ以上言ったら超音波の刑」
『なっ!?何のことかしら〜?
 アタシは別にが紫苑に裏切られたと勘違いしてショックを受けたんじゃないかなんて思ってないわよ〜・・・?』
「・・・処刑決定」
『なっ!?ちょッ!!待ってよそれだけは勘弁っ!!』
「マジで大丈夫か?


ウサギのやつ、思いっきり言いやがったし・・・、救いは紫苑がテレパシーを聞くことができなかったことか。
紫苑を見ると、なぜかニヤニヤし始めた。


「なんだ〜?もしかしてちゃんってば、俺が裏切ったと思ってショックだったのか? 俺ってば愛されちゃってるね〜」
「・・・・・・うるさい」
「照れちゃって〜、大丈夫! 俺はちゃあんとのこと愛してるからッ!!」
「うざい」
「ひどっ!!」


ナルトが影分身で千人に増えるのを見守りながら、俺は熱くなりそうな顔を必死で抑えていた。
ミズキの品のない悲鳴。

――ナルト、俺にもそれで八つ当たりさせてくれ。 今なら実力以上のパワーで殴れる気がする。










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ギャグ・・・なんでこんなに移り変わり激しいんだろう・・・。
そして、実は全部主人公の一人相撲でしたってオチ。
もうちょっと続きます。