「紫苑、あいつ、ミズキと付き合いが長いつってたけど・・・」
「なーに?ちゃんってばそんなに俺とあいつの関係が気になるー?
・・・・・・冗談だよ、ジョーックジョーク。 そんなににらむなって」


呆れた。
隠さずそう思うと、慌てたように弁護する。
この場には、俺と紫苑以外、いない。


「ミズキは、な」


少しだけ苦味の混じった笑みで、紫苑はミズキの名前を出した。


「あいつとは、同じ下忍のチームメイトだったんだよ」
「・・・・・・あぁ、だから」
「ま、付き合いがそのときにあったからな、そこまで深い信頼関係を築いていたワケじゃないしさ、でも俺が一番長い期間一緒にいたかな・・・?」


あいつ、昔っから裏表激しくて野心家だったからなー、と紫苑は軽く笑い飛ばす。
その笑みは、はたして見かけどおりのものなのかどうか、大した観察眼を持たない俺にはよくわからなかった。
ただ、深く付き合わなかったとして、それだけの関わりがあった人物が里を裏切ったってことは、結構なショックを受ける事実だと、俺は推測するのだけれども。
俺の考えていることがわかったのか、紫苑は俺の頭に手をのせて笑った。


「んな心配しなくても大丈夫だって。 前々からミズキの行動に不審な点があったのには、仕事の諜報活動で気づいてたし、チームを解散してから会うこともなかったんだぜ?」
「――今回の騒動は突発的なものだろ」
「今回はどうだか知らないけどなー。 裏切りの手配は裏でしてたみたいだから一週間前くらいに接触してみたんだ。 そしたら勝手に打ち解けられて今日、急に呼び出されて今に至る――ってわけだ」
「・・・あいつって見る目ないのな」


俺も人のこと言えないけど。
知識もってなかったら、あいつが裏切るってことも、ナルトと俺にあれだけの敵意を持っていたことにも気付けなかっただろうし。
そういえば。


「なんでミズキは、俺のこと知ってたんだ?」


てっきり紫苑が俺の情報を漏らしたと思ったんだが、そうじゃないっぽいし。
アカデミーに通ってからの俺の生活だったらともかく、俺の母親のことを、ちょっと知りすぎている。
ナルトたちにも言ってないこともミズキは知ってた。


「あ゛ーーー・・・」
「なんだ」


返答を濁すことは許さない、と問い詰めてみれば、考えていなかった事実を紫苑は告げてくれた。


「俺らの担当上忍、センセだったんだよ」
「――は?」
「だーかーらー!! お父さん、父上、親父、ダディ!!」


思わずフリーズ、それから急いで昔の記憶を掘り返す。
・・・確か、“この世界”での一番古い記憶に・・・。



『元気だな、さすが、俺たちの子だ』



あれだ。
暗闇の中で聞いた声。
ずいぶんと懐かしい、というか、思い出すことすら忘れてたというか、懐かしすぎるというか・・・。
また妙なところに接点があったもんだ。
そういえば、俺は父親の顔も知らない。


「俺もそれに気付いたのここ数年だったんだけどさー、まさかセンセの息子がって思わねー?」
「・・・で、ミズキが俺のことを知ってるのは?」
「そりゃあ、センセが九尾で死んだだろ? ミズキがお前の母親の生活費を援助してるって聞いたことあるぜ?」


・・・そうだったのか。
そりゃあ、あのころの母親の状態も知ってるわな。
まぁ、俺にはこれっぽっちも記憶にないけど。
というより、今でも人に関しての記憶力は低いと自分でも思う。
漫画で出たキャラクターならなんとなく覚えてはいるんだけどな、ずいぶんと時間のたった今は、かなり自信がないけど。
紫苑はあれだ、出会いで毎日のようにストーキングしてきたから嫌でも覚えさせられた。


「で、他に聞きたいことは?」
「・・・・・・」


にんまりと笑う紫苑の瞳には、楽しげな輝きしかない。
その意味がわからないが、からかわれているようでむっとした。


「別にいい。 また今度聞くからちゃんと答えろよ」
「りょーかい。 んじゃ、俺はまた仕事に行くかね」
「・・・死ぬなよ」


・・・きょとん。


「・・・なんだよ」
「ん、いや? それでは任務に行ってまいります!!」


掻き消える紫苑の姿。
やけに気合が入ってたけど、大丈夫か?
まぁ、いいか。
あいつに限って死ぬことはないだろうしな。








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ようやく卒業試験編終了です。
最後はちょっとずつネタばらしらしきものと、紫苑をちょっと気にかける主人公で。