特別試験。
忍者になることを断った俺には、三代目火影からじきじきに試験の内容を伝えられた。
俺は、下忍にはならず、医療組に入る。
だから、班分けと下忍説明会には行っていない。
試験とは言っても、やることはいつもと同じ。 下忍の選抜試験にて負傷した者を治療してみせる、ということだ。
ただ、暗部内での機密事項が公になる、というだけのこと。
まぁ、あの暗部入隊時に交わした条件に思いっきり反してはいるが、なんだかこのごろどうでもよくなってきた。
ドクターの噂や情報は、事実とはまったく違うものをも含めてかなり広まっていて、その影響が俺自身にも及んできているのだ。
それもこれも、火影が俺をこき使いまくっているからに違いない。
――里の最高権力者に貸しを作っておくのも悪くはないだろう。
口約束の分も含めて、里に対しての貸しはすでにかなりの数になっている。
その貸しを、何に使うかはまだ考えていない。
まだまだじっくり考えて、最高に嫌がるのをやってやろうじゃないか。
それが俺をとことん面倒ごとに巻き込んでくれたせめてもの礼だ。
そして下忍選抜試験本番。
俺の合否を決めるのは、なんと言うか、やはりというか、何もしなくても調子が良くても思わず入院を勧めたくなる月光ハヤテ特別上忍だった。
医療班は数が少なく、さらに多忙、そして病や怪我の治癒の研究などで手が回らないらしいから、医療関係に詳しい上忍あたりが来るのだろうとは予測していたが。
・・・転んで擦り傷でも作ったらそのままそれが致死量の血液を流してぽっくり・・・ってなりそうでこっちが見ているだけで不安だ。
「ケホッ、それではどうぞよろしく、なんですね」
「――あぁ、まずはどの班から行けばいいんだ?」
「それぞれの班の選抜試験は行われる時刻はあらかじめ決めてあるんですね。 あと三十分程で最初の試験が終わるはずなんですね」
終了する時間ってあらかじめ決めてあったのか・・・そうか、だからカカシは目覚まし時計で制限時間を設けてたんだな。
ってか、俺一人の試験のためにそこまでされるってのも・・・なんか複雑だ。
どんな時間に設定されても、忍びは動けるようにと訓練されてるとは言え、おそらく十を満たしたばかりの子供が朝四時に集合、ということが日常茶飯事になってしまったらとてもではないがやっていけないと思う。
下忍が引き受ける任務は子守やら畑仕事やら雑用が中心とは言え、あまり発育には良くないだろう。
プロフェッサー(教授)と呼ばれた火影のことだ、きちんとそれなりのことを考えて、任務を振り分けてるだろうし、下忍にそこまで求めるような任務も来ないだろうとは思いたいが。
・・・・・・一応稼ぎ頭であり暗部だが、子供であるナルトたちのことも考えているのか?
その割にはナルトの身長が・・・。
――いや、気にするとどこからか危険物が飛んできそうだから気にしないでおこう。
最初の試験会場である<広場>へ行くと、下忍選抜試験に不合格だったのか、元アカデミー時代の同級生がうなだれていた。
確かもう一度アカデミーへ戻るんだったかな、合格率は六割くらいだとどこかで聞いた事がある。
命をかける忍びになる試験としてはずいぶんと甘いなとは思うが、まぁ下忍だからいいんだろう。
あんまりアカデミーに戻させるとやる気も人材も減ってしまうし。
木の葉も有数の里とは言っても、まだ長が四代目しか続いていない歴史の浅い里だ。
他よりも少し長いとは言え、まだまだ発展させるべきところ、改良すべき部分、さまざまな問題はある。
――また思考がそれた。 今は一応試験中だ。
簡単に外傷はないかチェック。 そして消毒をしてまわり、おまけ程度に”目”を使い体全体を見た病を含めた問題はないかを確認する。
・・・うわ、アカデミー生ってこんなにだらしのない体つきをしているのか。
比べる対象が上忍や暗部だからしょうがないと言えばしょうがない。 が、これでは他国から平和ボケしていると指されても仕方のない気もした。
後で注意くらいしてやろうか?
たとえば俺の様子を注意深く観察している月光ハヤテの体は素晴らしいと素直に(この俺が!!)言うことができる。
この人が上忍になれないのは機会に恵まれていなかったのと、その体質のせいだ。
見てみればハヤテの血液型はABの(−)。
怪我をしても輸血できないなんて、忍びという職病にとっては致命的だろう。
本人が上忍になりたがっているかどうかは知らないけど、俺が四六時中近くにいて、終始目を光らせていれば間違いなく上忍の器だ。
さて、“目”を使った以外には妖力も使わずに第一の試験は終了。
忍びになりたいんだったらもっとまともな体を作れとわかりにくい言葉を残してその場を離れた。
「次は十班なんですね」
だからどうした。
誰がどこの班か、いちいち覚えてないかあそんなこと言われても反応に困るんだが。
ドーム型の演習場の内部。
血と、油と、花と、煙草のにおい。
どんな組み合わせだと思ったら、シカマルのいる班だった。
なるほど。
血はシカマルに染み込んだもの、油はチョウジのポテチのもの、花は家が花屋のいののもの、忍びとしてありえないが煙草のにおいをさせているのは担当上忍のアスマか。
わかりやすいって言えばわかりやすいが、こうも変な組み合わせも他にはないだろうな。
「お前、馬鹿だろ」
シカマルの腕を見た俺は、素でそう思って、そのままの感想を口にした。
いきなり現れてまたいきなり言われたシカマルは、やはり気配を感知していたのか大げさに驚かずにいつもの口癖を口にした。
俺が見た腕には、決して軽くはない裂傷。
大方、担任のアスマをからかって実力もばらせないくせに反射的な攻撃をよけられなかった、というところか。
馬鹿なやつ。 頭は良いのは知ってるけど。
心配げに傷を見ている二人をどかして、とりあえずその馬鹿の頭を思いっきし殴る、のは手が痛むので、平手でその額を押した。
押されたシカマルの頭はその反動で後ろにあった木に思いっきり派手な音を立てて衝突。 あれは地味に痛い・・・。
「ってー、イキナリなにすんだよ・・・」
「るさい。 わざわざ俺の面倒ごとを増やした罰だ。 その罪と俺の苛立ちを思い知れ」
「ちょっとー!! いきなり出てきたと思ったら怪我人に何すんのよー!」
「るさいな。 ちゃんとしかたなく治療はしてやるから文句言うな」
「この場で治療は可能なのですか?」
ハヤテの言葉は、おそらくろくに道具を持っていないのにだいぶ深い怪我の処置をできるのか、というものだろう。
ったく、これから担当上忍になるやつが早速部下をこんな重症に追い込むなよ。 シカマルにとってはたいしたことじゃないかもしれないけど普通のアカデミー生とかだったら大騒ぎで手つけられんぞ。
シカマルじゃなかったらおそらくこんな怪我もなかっただろうけど。
「心配は必要ない。 元々俺は道具を一切使わないからな。 それにしてもアスマ上忍、いきなりこんな餓鬼を傷つける事なかっただろーに」
俺の言葉に苦笑いするひげ・・・じゃなかったアスマは悪かった、と案外素直に己の非を認めた。
シカマルの正体を知ったらきっと何で自分が謝らなくちゃなんないんだ、とか思いそうだ。
現に俺が今そう思ってるし、な。
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ひっさしぶりの更新です。
あんまりに久しぶりすぎていまいち夢主の性格が変わってるような気がしますが、時期的に微妙な合間があるはずなので性格が微妙に変わってしまったんだと自己暗示しながら読んでいただけると嬉しいなぁ・・・(ぉぃ