もう、何と言うか今更のことなんだが。
というか、何度も同じようなことばかり思うのだが。
なんで俺はこの場にいるのだろうか。


「だからってなんでオレばっかり」
「つーか俺なんでこんなとこにいるんだ・・・」


愚痴るナルトの態度は先ほどまでの雰囲気はまったくないことに、白昼夢でも見ていたのではないかという儚い幻想、というかこのまま無かったことにできないかと思ってみたが、時折俺を見る鋭い視線は、そのことを許さない。
いつの間にこんなに人の感情を理解できるようになったんだろうか、自分は。
まぁ、こんなにあからさまにされないとわからない俺も俺だけどな。
これから裏切るであろうミズキが、そんなナルトを微笑みながら諭す。
というか俺は今すぐにこいつと別れて戻りたい。


「自分に似てると思ったんじゃないかな」


その表情を見ているかぎり、とても里を裏切ろうとしている人物には思えない。
俺の観察眼が足りないのか、ミズキの演技力が優れているのか、それとも原作通りにはならずミズキは里を裏切らないのか。
面倒だから最後の選択肢を希望したいところだが、ナルトの冷たい視線はミズキにも注がれているのでそういうことにはならなそうだと、おおっぴらに溜息をつく。
ミズキはどう勘違いしたか、困ったように俺をみて微笑んだ。
やっぱり、俺には普通の人間にしか見えない。


「君たちには本当の意味で強くなってほしいんだよ。きっと・・・」
「本当の意味の強さ、ねぇ・・・」


それはなんの強さだろうか。
自分の身を守るための実力か。
決して揺らがない精神か。
身の危険を感じそれを避ける能力か。
俺には、その言葉の意味が捉えられない。


「イルカ先生の気持ち、少しは分かってあげられないかな。
・・・・・・親のいない、君たちだからこそ・・・・・・」


そのキーワードに、反射的に思い浮かぶのは女の死に顔。
おぼろげになりそうで、そのことに泣きたくなる。
無意識に、腹に手をやった。
ぶかぶかのマントごしに、伝わる震え。


「・・・・・・でも、卒業したかったなぁ・・・」
「・・・・・・」


別に俺はどうでもいいけどな。
言葉にする前に、ミズキの瞳に今までとは違う輝きを見て、とっさ飲み込んだ。
――あぁ、この男は本当にこの里を裏切るのだ。
何かの感情を覚えながら、俺はミズキの次の言葉を待った。


「仕方ない」
「え?」
「なんだよ、ミズキ」
「君たちにとっておきの秘密を教えよう」


思う。
ミズキのこの行動は、本当に突発的なものだ。
なぜなら、ナルトが卒業試験を不合格になるということは、あらかじめ決まっていたことではないから。
ミズキはナルトが暗部のトップを勤めるほどの実力者ということを知らない。
だからこの不合格も仕掛けられていたということを知らないはずだ。
なんでミズキはあの巻物を奪うのだろう。
あの巻物はそれほどまでに特別なものだっただろうか。
俺が目を通した限りの印象では、決してそんなことはなかったが。
あれほどまでに巻物を欲したミズキは、所詮それまでの器だったということか。
――違う。考えたいのはそんなことじゃなくて。
そう、そうだ。
ナルトはミズキの裏切りを知らないはずだ。
なのに、なんでこうもうまくいってしまうのか。
本当はもう一年アカデミー生をやるつもりだったんじゃないだろうか。
それで仕事には影響しないんだろうか。
いや、そんなことは俺には関係ない。


それよりも。


なんで俺はこんなにもぐちゃぐちゃと考えているのだろう。
眼下に並ぶぐちゃぐちゃな俺の思考と似た里並みを見下ろしながら、続くミズキの声を聞き流した。







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結構他の夢サイトさまではミズキの裏切りがあらかじめ計画されていたみたいな感じのものが多いのですが、夢主はそこに疑問を持つ、という話。
読み返してみると本当に突発的なものとしか思えないのですよね。
まぁ、よくよく考えてみればミズキの思慮の浅さかも、と。(ミズキ好きなかたごめんなさい!!