普段からは想像できない態度。
視線を地面に向け、手をきつく組みながら落ち着かなさ下に体を小さく揺らす。
観念して話す声はぐぐもり小さく、毅然とした態度はどこへ行ってしまったのかと疑問すら思い浮かばないほど。
その姿はまるで親に叱られ言い訳をしようとしている舌ったらずの子供のようだ。
普通の情ある人間ならどうにか助けて力になってやりたいと思うだろう。だが、と対面しているナルトは容赦なく続きを促す。
この場には、横槍を入れるような人間はいなかった。


「人を人と、認めることは・・・許されない」
「なんでだよ」


途切れ途切れに言葉を発するに対して、ナルトは時間を与えずに答えを要求する。
は視線を低く揺らしながら、間を置いて答えた。


「――自分の存在価値を・・・失ってしまう、可能性、がある」
「・・・存在価値?」


ナルトは意味がわからない、という風に眉をしかめ、続きを待つ。
は思う。
ある意味では、医者も忍びも、同じような職種だと。
少し、パニックになりかけていたの思考は落ち着いてきた。
第三者の参入に気付いたからだ。


「お前たちが、任部で人を殺すように、俺は任務で・・・人体に指を埋める」


















医療医術であるこの行為は、人を殺すこととなんら大差ないほどに、一般常識だとか、モラルだとかを逸脱している。
普通の人間にとっては、死というものは何にとっても耐え難く、これ以上ないほどの恐怖でしかない。
どんなに長生きしたって、死を受け入れられる人間は少ない。あの老人は、かなり珍しい人種のうちに入っていたのだと、今更ながらに思う。
だが、他人の生死の狭間を数え切れないほど目の当たりにしてきた俺にとって(死はあの戦時中に腐るほど見た。それ以降は母親だけしかいない)、生も同じくらいに恐ろしいものだ。
生きるということだけで、苦しい。
死ねば何があるのか、わからない。
俺にとってはどちらも恐ろしい。
人は生まれ付いての生存本能だけで、生きたいと思っているのか、そうではないのかもしれないが、少なくとも俺はそうは思えない。

俺は、違うから。

母親との約束がなければ、簡単に死んでしまうであろう存在だから。
前世の記憶。
最近まで、思い出せなかった俺自身の死の理由は、ただ単に俺に生きる気力をなくしてしまったという、ただそれだけだった。
生きるのに疲れた。
そんな俺の精神に俺の肉体が答え、ゆっくりと確実に機能を静止した。
誰もいない自室のなかで、静かに最後の心音を聞いたような気がする。
それが、前世での最期の記憶。


目の前の人間、もしかしたら同質かもしれない人間。
その名前を呼ぶ。確認するように。
答える目の前の相手。
先ほどよりはずっと滑らかに口が動くようになったことを自覚しながら話を始めた。


「俺の世界では親しい人間の執刀は基本的に行われない。何故だかわかるか?」
「・・・気が動転するから?」
「――そう。執刀にはかなりの集中力と忍耐力、つまりは精神力と体力が必要だ。0.1mmの正確さを求められることも珍しくない」


(この世界の医療技術の事情はまた少々違うだろうけど)
そう心の中だけで付け足す。
口に出すとややこしくなるので言わない。
袖の中に入れていた手を露出し、握ったり開いたりを数回繰り返すと、一人の乱入者が飛び出してきた。


「見つけたぞ!!九尾の餓鬼がッ!!」


殺気だった男。少し前に気付いた第三者だ。
俺のことは眼中にないのか、一直線にナルトに跳ぶ。
ナルトのことを助ける必要は無い。
そんなことをしなくても、ナルトはかすり傷一つ負うことはない。
だが、俺はその乱入者の背後にまわりこみ、その動きを強制的に止めさせた。
簡単に里の掟を破る忍びは、不要だろう。




「タイミングが悪かったな、お前。これから死ぬよりも苦痛な生を体験させてやる」




俺の姿さえ視界に捉えられない忍びは、だらんと四肢の力を失い地面に崩れ落ちた。
様子を見ているナルトの目の前に座らせ、俺にもたれかかせて指を動かした。
先ほどまであれだけ動転していた俺は、また落ち着いていた。
これから、実演付きで説明してやろう。
どこか、なげやりになりつつある自分は、何を望んでいるのか、わからなくなっている。












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次回はグロく、なるかな?というか残酷な感じになるかと・・・。
なかなか進まない上に長い〜。
でもじっくり・・・もはや自分が何を書きたいのかわからなくならいそうで怖い・・・。
最初三人称に挑戦したんだけどやっぱり夢主視点で。