指先は、わずかに男の微弱な電流を俺に伝えていた。
ナルトの驚いている顔を見て、そういえばコレを見せるのは初めてのことだったか、と思い至る。
とりあえず、思いつくままに行動することにした。


「まずは手足を支配する」
「お前、誰だッ!! お、俺に一体何をした・・・ッ!!


捕らえた男の糾弾に、律儀にも答える義理も必要性も感じない。
無視をし続けてもいいが、煩いので声帯へ命令する神経の部分を一時的に麻痺させる。
破壊して二度と声を出せなくなることもできるが、とりあえず後に聞きたいこともあるのでそれは保留だ。
口を開いても、男は声を出さなくなった。
いや出せなくなったと言うのが正解だ。


「声を麻痺させた。次は右目」


視覚の情報を取り扱う脳の部位に妖力を送る。
ビクンと男の体が小刻みに痙攣し、息が荒くなる。
男の脳は、右目から与えられる正確な情報を認知できなくなった。
そう仕組んだ俺ですら、男の右目にはどんな世界が見えているのか想像することもできない。
えぐいことするわねアンタ、というウサギの声が聞こえたような気がした。


「次、左手と左目」


脳の代わりに俺の指先が微弱な電流にて男の体に指令を送る。
前振りなく(ある意味では俺の言葉が前振りだ)男の左腕が跳ね上がり、四本の指が眼球を抉り出した。
男の体が再び痙攣する。
ひゅー、ひゅー、とうるさい呼吸音の合間に、助けて、と声にならない吐息を聞く。

――だけど、俺はそれに何の感情も動かされない。

顔は大勢のせいで見ることはかなわないが、男の顔が苦痛に歪みきり恐怖の感情に支配されているのだろうなと予想する。
投げ出された男の左手をみると、赤く染まった手の中に、握りつぶされてしまった眼球と、一緒に引きちぎってしまったまぶたの皮膚を確認することができた。
あぁ、この男の瞳の色は緑だったんだなと、今ここで認識し、そしてすぐに忘却した。

指を動かす。

上がる男の声無き悲鳴。

指を動かす。

痙攣する男の体。

指を動かす。

男の体が血に沈んでいく。

指を動かす。

耳をつんざくような不快で汚らわしい絶叫。


「声が戻ったか。じゃあ次の段階へ移る」
「ヒイィィッ!! も、もぅ、たす け」
・・・」


自分の名前に反応して、呼ばれたほうを見る。
ナルトが、顔を歪めてそれでも俺をまっすぐに見てきた。
なぜお前が痛そうな表情をする?
あまりに酷い拷問に、同情心でも沸いたか。
まぁ、もう少し見ててもらおう。
そう勝手に判断して、指先に妖力を流し始めた。


「あ、あぁあああぁあぁあぁぁぅぁ」
「お前の名を言え」


情けない男の声。そして、自分でも感じる無機質な声。
男はすぐに名を名乗った。
驚く気配。


「次、なぜナルトを狙った?そして殺すつもりだったか?」
「ばけ、も、のダカラッ・・・殺さナ、と・・・あぁァアアァ!!」
「次、お前以外に刺客は?」
「里、大半ン、、、」



胸の中の重みが増す。
ためしに指を動かしても反応はない。


「――死んだのか」
「こんなもんだ。原因は失血と脳内ショックってところか」


実験台にもならないほどズタズタになった男を鬼火で跡形もなく消去する。
血も、肉も、骨も、髪も、布も、男がここに存在していたという証はあっさりと無かったものにされた。


「少しは、わかっただろう」


かがんでいた体を起こして、ナルトと視線を合わせる。
背筋を伸ばせば、水平に視線が交わる。


「人に対して、普通と評される価値観を持っていたら俺はとっくに発狂しているか廃人になってるだろうって、だれかが言ってた」
「・・・・・・・・・」


あれは前世での父の言葉だっただろうか。
もう、よく思い出せない。
もともと覚えていないかもしれないけども。
それすらもうあやふやだ。


「だけど、普段はお前、怪我とか病気とかを治す医者だろ?」
「・・・ナルトは、親友を簡単に完璧に何の問題もなく殺すことができるのか?」


何も迷い無く。
何もためらわず。
絶対に揺らがない精神で。
完璧に任務を遂行することができるのか?
一瞬つまるナルト。
そう、それが正しい反応だ。
思う相手は、シカマルか、火影か、それ以外か。


「だけど、俺との仕事は違うだろ!?」
「同じだ。殺すのも、治療と称して指を入れるのも」


言い方を変えれば俺の治し方は『壊して修復する』なのだから。
悪い部分を根こそぎ破壊しつくして、人外の力をもってして修復する。
それに


「俺の心霊医術というものは、俺自身の精神に大きく左右される」


髪の毛の何千分の一の繊細さを要求されるこの技術は、毎回毎回つ目隠しでの綱渡りだ。
まさに命を懸けた技術。
懸けるのは俺の命ではなくて、患者の命だが。
だからこそ。


「俺は、俺と“同じもの”に直に指を埋め込んで、平然と仕事を遂行できるほど強くない」
「――・・・だから、なのか?」







「だから俺は、患者を“同じ人間”だとは認識していないんだ」









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なんだか何を書きたいのかよくわからなくなってきた・・・ッ!!
できれば次回で原作を進める、ことを希望!!