「おーおー、腹の虫が鳴っとるね」


発生源は主にナルトから。 一体どう体を制御すればそんな音が出るのか、機会があって俺が忘れてなければ聞いてみたい。
なぜか三本あるうちの一本、これまたなぜかナルトがぐるぐる巻きに縛り付けられている丸太の上に座ってカカシを見下ろすが、やはり顔の露出している部分が少ないせいか、それとも俺の観察眼がまだ鈍いのか、そうさせようとしていないからか、いまいち何を考えているのかはわからない。
だが、時折見せる一瞬の感情らしきものを一度見てしまえば、その内面にあるものを放っておいてはまずいような気がする。


「そう、4人とも・・・忍者をやめろ!」
「!!!?」


考え事、というかぼんやりとしている間に、展開は俺を置き去りにして進んでいたようだった。
当事者のハズなのに、ついていけずにとりあえずは状況を見下ろすことだけにする。 もともと自分から積極的に動こうとは思っていないが。


「忍者やめろって、どーゆーことだよォ!!」


ナルトの叫びがもろに頭につきささる。 ウサギほどではないが、このまま聞き続けていれば頭痛を起こしてしまいかねない声量だった。
軽く耳を押さえながら足元でわめき続けるナルトを黙らそうと足を動かそうとしたとき、サスケが動いた。
サスケもナルトがうざかったのか、と一瞬思ったが、向かう先はカカシ。
彼はドベナルト側の人間だったみたいだ。


「サスケ君を踏むなんてダメーーー!!!」
「・・・バーカ、相手は上忍だ」


あんなでもな、とつぶやいた俺の声はサクラの叫びにかき消される。
まぁ、よく考えたらここにいるのは子供だ。 前の世界で言うのならば小学校・・・4年生、くらいか?


「お前らはこの試験の答えをまるで理解していない」
「答え・・・?」


かなり昔の記憶を掘り起こす。
大体ならカカシの言いたいこの試験の趣旨は思い出さなくても検討はついているが、この後どんな展開になるのかは事前に思い出してみたかった。


「あ〜も〜! だから答えって何だってばよォ!?」
「・・・たく」
「10才そこらのガキに、そんな複雑な事情を黙って察しろってほうが無理だろ・・・」


あ、しまった。
あんまりにめんどそうにため息を吐くもんだから、つい口に出してしまった。
視線が俺に集まる感覚。
居心地が悪いったらない。


、だがお前ならわかっているんだろう」
「あー、まぁ」


俺の中身はガキじゃないからな・・・。
たぶんカカシよりも上なハズだ、中身だけを考えれば。
言ってみろ、と促されて、めんどくさいから色々とはしょった。


「忍びたるもの・・・、個人事情よりも任務遂行を優先しろってことだろ」
「・・・は?」


あぁ、子供に対して言葉が難しすぎたか。
だけど、これから忍者になる者に年齢とかは関係ないだろうし。
・・・・・・あー、はいはい。 わかりやすく説明すればいいんだろ。
ナルトの頭をぐりぐりと踏みつけて、しょうがないから簡単に説明してやることにした。
文句が下から聞こえてきたような気がするが、それこそ気のせいだろう。


「演習――ってことは、だ。 本番の任務と同じように行動しなければならないってのが普通なんだよ。 本番に一番近い訓練だからな」


原作の流れとだいぶ違う気がするが、知ったことか。 俺は展開をすっかり忘れてる。
ドベナルトもしっかり頭に叩き込んどけよ、この頭に。 (やつあたりだと言うことにはとっくに気付いているが、なんとなくせずにはいられない)


「そう考えると、今回の任務はターゲットからスズ――本番風に言うのならば、極秘情報の記された巻物、ということにしとこうか。 それを奪うこと。
チームの人数は三人。 巻物の数は二本、として。 報酬は巻物を持って帰った二人だけに与えられる、としたら」


話を進めていくうちに、顔色が変わってくる。
さすがにわかってきたらしい・・・。


「まぁ、報酬が二人だけに支払われるってことはありえないか。 任務を成功させた名誉って考えたほうが実際にはありそうだな。
――忍者は、自分の名誉だけを求め、他の仲間よりも先に巻物を奪うことだけを考えるべきか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「忍者にとって、一番に優先すべきは任務達成。 そして、無事生還」


・・・だったような気がする。 まともにアカデミーの授業を聞いてないから、そこら辺を詳しくつっこまれるとボロが出る気がするからすぐ次へ行く。


「カカシがなぜ俺らに忍者をやめろと言ったのか。 演習で俺らのやった行動と言えば・・・」
「・・・サクラ、お前は目の前のナルトじゃなく、どこに居るのかも分からないサスケのことばかり」


ようやくカカシが口を開いてくれた。
あとは勝手にやってくれ。 俺は珍しくたくさんしゃべって疲れた。


「ナルト! お前は一人で独走するだけ」
「・・・・・・」
「サスケ! お前は3人を足手まといだと決め付け個人プレイ」


サスケの頭を踏みつけた足に、力が加えられるのを見た。
かわいらしい怒気のようなものを感じられたが、どうすることもできずただそれだけ。
俺は後のことを考えて、そのままにしておいた。 我ながら良い判断だと思う。


「そして! お前はなによりもまずやる気がない!」
「――元から忍者になるつもりもないしな・・・」


俺のつぶやきはある妨害により聞かれなかった。
どうでもいい事にそんな高等技術を使ってもな・・・。 別に知られて困ることもなし。 ・・・あぁ、事情を知らない奴から良く思われないかもしれないが、ただそれだけだろう。
だが、それも、俺にとってはなんでもない、構わない。


「――これを見ろ」


カカシが手をかけたのは、無数の名前が刻まれている石碑。


「これは全て里で英雄と呼ばれている忍者達だ」
「それそれそれそれーっ!! それいーーっ!!」


英雄という単語に、ドベナルトが反応しないわけがない。
本来の姿はともかく、ドベナルトは里の人たちに認められることを第一の目標としているのだから。
英雄の称号は、何よりも手に入れたいものだろう。 だが。


「ただの英雄じゃない・・・・・・」
「へーえー。 じゃあどんな英雄達なんだってばよォ!」


黙り込む。 昔を、今はいないその名前の持ち主のことを思い出しているのだろうか。
カカシの返答をせかすナルトに、少しだけ足の力をこめた。
事実を知っていてのその演技は、あまりにも完璧すぎて他人を、そしていつかは自分を傷つけるのではないかと思ったから。 できれば今すぐその言葉を止めたほうがいいと思った。


「任務中、殉職した英雄達だ」

殉職・・・、それはもうその名前の人たちがこの世にいないことを示す。
抑揚のない言葉に、あたりの空気が一気に重くなる。
視界が高い俺からは、うつむいている三人の顔は見ることができないが、なんとなく笑えてはいないだろうなとはわかった。


「これは慰霊碑。 この中にはオレの親友の名も刻まれている・・・」


そして、ナルトの腹の中にいる九尾に殺された忍者の名前も多くその石碑に刻まれているのだろう・・・・・・。
――もしかしたら、の名もその中にあるかもしれない。
機会があったら、探してみようか。 これだけ多くある中から、父を見つけるのは容易ではないだろうが・・・。
考えてみれば、俺はまともに父のために時間を割いたことがない。
十年近く前の、遠い声が唯一の記憶だ。


「・・・お前ら・・・。 最後にもう一度だけチャンスをやる」


思考にふけっていたら、カカシの声に現実へと引き戻された。
昼にもう一度スズ取り。 ただし午前よりももっと過酷なものになると言う。
何度やっても、俺は同じことを繰り返すだけだ。 真剣にやろうとはカケラ程にも思えない。


「挑戦したい奴だけ弁当を食え。 ただし、ナルトには食わせるな」
「え?」
「ルールを破って一人めし食おうとしたバツだ。 もし食わせたりしたらそいつをその時点で試験失格にする」
「・・・・・・ナルト、お前そんなアホなことしてたのか」


だから一人だけ柱に縛り付けられていたのか。 ようやく納得した。
したところで、カカシはそれなりの顔ですごむ。


「ここではオレがルールだ。   わかったな」


オレ様発言を残して、カカシは姿を消す。 いちいちめんどくさい奴だ。
そして、オレはまだこの演習に付き合わされることになるらしいと気付いて、ため息を一つ。
地べたに直接置かれた三つの弁当箱を見て、なぜだかウサギの毛皮を撫で回したいと思った。








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主人公と他のテンション差が激しいですね笑