銀沙の浜が見えてきたころ、馴染みのある力の流れが感じられた。
「これは、召喚術!?」
「海賊のなかに外道召喚師がいるのかもしれない。 気をつけろ!!」
外道召喚師、その名のとおり、道を踏み外した召喚師のことだ。 強力な術を持っているぶん兵士崩れの盗賊なんかよりも性質が悪い。
今回は人外のものとやりあうことになりそうだ。
手に触れる剣の重みに、重心を低くして走るスピードを速くした。
「今日びは金さえ積めば海賊だって召喚術を使えるんじゃあっ!」
なまりのある男の声、その内容、そして召喚された者を見て、意識を尖らせる。
喚び声に答えろ、クロ。
光とともに、姿を現した天狗は、銀に光る砂を巻き上げ、その場にいるものの視界を奪った。
「大丈夫か、モーリン?」
「あ・・・マグナ・・・」
「まさか海賊の親玉が外道召喚師とはな・・・。 まったく、どんな師匠についたのやら」
召喚術というものは独学で使えるようになるものではない。 つまり、法を犯して奴に召喚術という危険な技術を教えた者がいる。
誰が、一体どれほどの賄賂でそれを教えたのやら。 俺は興味ないことだが、召喚術を許可なく外部に教えることは相当な重罪だったはずだ。
「かまやしねえから大砲でファナン中を火の海にしちまえい!」
そうしちまえばもうワシらのもんじゃい! と、その親玉は完全に目が据わっていた。
・・・あぁ、そうか。 火でも水でも海は自分たちの領域だとか・・・じゃなくて。
大砲が、火を噴く。
「あれはっ!?」
鉄の塊がむかう延長線上に見つけた姿が一つ。
あれは、昨日のサムライ、カザミネ。
「キエエエィィィッ!!」
奇声を発し・・・、何だ、アレ。
いや、知識として知ってはいたが、実際に見てみると・・・、うわ、すごいな、あれは。
「う、嘘でしょお!?」
「た、大砲のタマをっ、斬りやがった???」
斬られた鉄の塊は勢いをなくし、ファナンの町まで届かずに墜落する。
分断された鉄の塊は、半分になってもものすごく重い音をたてて砂埃を起こした。
「カザミネさんっ!!」
「おぬしたちにはひとかたならぬ世話を受けておるからな。 シルターンが剣客カザミネ・・・義によって助太刀いたすっ!」
戦闘が始まった。
今までのと違う点がいくつかある。
一つ目は、相手が人ではないものがいる、ということ。
二つ目は、地面が不安定な船上が舞台であるということ。
だが、相当な実力の差の前にして、そんなものは大した障害にはならなかった。
「イヤじゃあぁ・・・、陸にあがるのはイヤなんじゃあぁぁぁっ!」
あまりの悪あがきに、まわりもあきれ果てる。
その姿からは、さっきの威勢のよさはどこにも見当たらない。
情けないオヤジがいるだけだ。
まぁ、あれだけモーリンにボコられていればしかたがない、のだろうか。
おいもさんみたいにでこぼこになって・・・と、アメル。
「ふんっ! まだまだ殴り足りないくらいさ!」
「あ、あとはファナンの兵士たちに任せようって、ね?」
「そうだな、向こうさんも、そのつもりで出迎えに来ているようだぞ・・・」
・・・来た。 なんだか最後まで得体の知れない人が来てしまった・・・。
俺、もうここから逃げたいんだがどうすればいいんだろう・・・。 無理か。
「貴方たちですね、海賊たちをやっつけてくれたのは?」
「ま、まぁ、そうなりますか・・・」
・・・できれば今すぐにこのポジションを誰かと交換してしまいたい・・・。
妙な威圧感が・・・う・・・。
できるだけ関わらないようにしておこう。 幸いネスティが前に出て彼女の相手を請け負ってくれるようだ。
こんなときは兄弟子に投げてしまおう。
「僕たちは蒼の派閥の人間です。 金の派閥の議長、ファミィ・マーン様」
「えっ、じゃあこの人がミニスのおか・・・っぶ!?」
「しイィィっ!!」
トリスがミニスに口をふさがれてる。
・・・俺は関わらない、口を出さない手を出さない視界に入らないぞ。
モーリンはやはり思うところがあるようでつっかかっていたが、下町の人々の救助にまわっていたことを知ると、さすがにそれ以上言及することはできなかったようだった。
「さて、がんばった貴方たちにはご褒美をあげないと・・・」
完全に子ども扱いされているが、なんだかこの人ならしょうがないと思えてしまうのは彼女の人柄だろうか。 それとも得体の知れない彼女だからだろうか。
とにかく、そんなのはいらないから見逃してくれと言いたくなるのは、俺にやましい部分があるからなのか。
なにせ、俺はこの人の娘を脅してこの危険な旅に同行させている。
「明日にでもあらためて派閥の本部にご招待しますわね」
「はあ」
「そのときには是非、貴方の後ろで隠れている、私の娘も連れてきてくださいね」
「!?!?!?」
「それでは、また明日。 ごきげんよう」
姿が見えなくなってようやく一息つく。
正直なところ、二度と会いたくない人物だ。 ある意味ラスボスよりも恐ろしい。
明日のことはトリスに任せよう、とかたく誓った。
ファナンの月は、海の上に浮かび、海面に光の影を落としていた。
ここにきたときと、何も変わらない、三日前の月。
だけど違うように見えるのは、きっと見る側の俺たちが少し変化している、ただそれだけのことなんだろう。
「そう、思わない? モーリン」
「まったく、夜に一人で何をしているのかと思えば」
モーリンは俺の隣に腰かけた。
良い月だ。 団子でももってくりゃよかった、と言いながら、彼女は笑う。
「下町の人、みんな無事でよかったね」
「あぁ、これというのも、あいつのおかげさ」
ファミィ・マーン、か。
敵にまわすとかなりやばそうだ、気をつけておくことにしよう。 もしミニスのことがばれたら死ぬだけじゃすまされないような気がする。
「・・・あの人だったら・・・信じてもいいのかもしれない」
「・・・モーリン?」
あの人のことを信じるのはよしたほうが・・・、と俺は思うが、今モーリンが言ったことはそんなことじゃないということはわかっていた。
ファミィ・マーンの手腕は、確かに信用してもいいだろう。
「じゃあモーリン、もしかして・・・」
「ああ、海賊の連中たちもあんたたちのおかげで退治できたことだし! あたいも、ここらで外の世界ってももんを見てまわってもいいかもってね! ・・・あんたたちにくっついてさ?」
こうして、モーリンが同行してくれることが決まった。
少なくとも、ネスティは少し安心してくれるだろう。 怪我をしても、アメルではなくモーリンに頼むことができるから。
まぁ、少しは彼女への危険を考えて反対されるかもしれないが、大丈夫だろう。
これで、カザミネも入ってくれれば・・・。
少し、戦力は集まってきたか。 これでも、相手を考慮すると少なすぎるくらいだが。
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ようやくファナンを出発できそうです。
ついでにモーリンとカザミネをゲットだぜ!(違