結局、あの後は出発どころではなくなり、俺たちはまたモーリンの道場に泊まった。
昨日はいなかったカザミネも、道場に顔を出している。


「昨日の夜、マグナにも言ったんだけどさ、アタイも一緒にアンタたちについていくことにしたよ」
「よければ拙者も、お主たちの旅についていきたい」


俺としては、願ってもいない言葉だった。
昨日は勧誘に失敗したかとひやひやしたが・・・、双子のこともあったし、なによりも自分には本物のような人望はない。


「本当に二人とも一緒に来てくれるのか?」
「あぁ、あんたたちさえよければね」


いいに決まってるじゃないか、ねぇネス。 と彼を振り返ると、ネスティは微妙な表情をしていた。
ストラの使い手であるモーリンが仲間に入ってくれれば、自分の正体がばれる可能性がグッと減るというのに、なんでいつもそんな顔をしているんだか・・・。


「しかし、いいのか? 相手は軍隊なんだ、命のやりとりをすることになるんだぞ」


そうネスティが念をおしても、二人の答えは変わらなかった。
そのくらいの忠告で、引き下がるわけがないよな。
二人のその顔を見て、ふっと、ネスティが脱力する。


「やれやれ、本当に物好きばかりだ、この世界は」


その意見には、心底同意するよ、俺も。
異世界から来た身だからか、いや、カザミネはシルターンから来た人だから少し違うかもしれないが、この世界は、ここの人は、なぁ。


「それじゃあ、ネス?」
「拒む理由もないからな。 同行してもらおうか」


この場にいた全員の顔が笑顔になった。
さて、と。 この場は結構楽にいけたな。
同時進行しているミニスのほうも、こんなふうにいけばいいんだが・・・。
・・・今回はトリスに全部まかせておこう。
ファミィに関わるのは、本当に、できるかぎり、やめておきたい。
















「ぜぇ〜ったい、イ・ヤ!」


の予想通り、ミニスはごねていた。
彼女を連れて行かないといけないのに、本人がこうではいつまで経ってもここを離れられない。
下手をすると、今日もファナンを出られないかもしれなかった。


「なんでそんなに嫌がるのさ? ・・・まぁ、たしかにちょっと怒らせたら怖そうだけど、あのお母さん」
「怖いなんてもんじゃないわよ!! もし、あのペンダントをなくしたことがバレちゃったら・・・」


さぁー、とミニスの顔が、なにか恐ろしいものを見たかのように青くなる。
あまりのその様子に、室内のものはそんな大げさな、と呆れる者と、なんとなく想像がついて顔がひきつる者とに別れた。
しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。


「事情を知れば、お母さんも探すのを手伝ってくれるかも」
「う・・・」


ケイナのもっともな言葉にたじろいだミニスを見て、トリスもたたみかけるように押す。


「しょーがないなぁ。 私も一緒に言ってあげるからさ、ね?」
「・・・・・・ほんとに?」
「うん、大丈夫だって」


しぶしぶ行くことに同意したミニスに、室内の空気があからさまにゆるんだ。
ミニスだって、いつまでもこうしているわけにはいかないことはわかっている。 しかし、やっぱり嫌なことはできるだけ先延ばししたいと思うのは当然だった。 それに。
ミニスは、今、この場にマグナの姿が見えないことにも不満を覚えていた。
自分をここに連れてきたのは、母に見つかったのは彼のせいなのに、無責任ではないか。
幼い思考は、彼を困らせたいという気持ちでいっぱいだった。


「そのかわり、マグナと一緒じゃないとイヤ」















「ざけんな」
「なによ、元はといえば、あなたのせいなんだから」
「・・・・・・・・・」


このガキ、俺がファミィに会いたくないのをわかっててあんなわがままを言ったに違いない。
一回懲らしめてやろうかとも思ったが、この後のことを考えてやめておいた。
・・・すべてがめんどくさくなったっていうのもあるけどな。


「そもそも、あなたがはやく<ワイバーン>を見つけてくれないからこんなことになってるんだから」
「あれは俺が見つけるって意味じゃない。 俺と一緒にいれば自然と見つかるって意味だ」


つまり、俺になんの責任もない、と言っても、ミニスはむっつりとしたままで先を歩いていくだけだった。
・・・結局、俺とミニスだけで金の派閥本部に来る羽目になっている。
他の連中は、あからさまにうそ臭い理由で同行を断りやがった。
いつもよりも口が悪くなっているのは、彼女と会わなければならないことに、柄にも無く緊張しているからだ。
あんなに得体の知れない人間に俺は会ったことがない。 そう感じるのは、彼女から感じる歪な魔力のせいだろうか。













「フンフン、フフ〜ン♪」


居心地の悪い空間に、能天気な鼻歌が響く。
何の歌かも知らないが、少なくともものすごいスピードで書類を処理する議長がするものではないはずだ。
末恐ろしい。 仕事がひと段落したのか、彼女は俺にまるで仮面のような笑顔を向けた。


「じゃあ、あらためて。 よく来てくれたわね、マグナ君」
「お母様!?」


ミニスが、俺の名前を知られていることに驚いてはいるが、俺は彼女が何を知っていてもおかしくはないと認識しているので、大した驚きはなかった。
そして俺の予想通り、彼女は俺らがクロの旅団に追われていることまでも知っていた。


「それと、マグナ君。 あなたに少し気になることがあったのだけれども・・・。 今はまだ知らないことにしたほうがいいのかしら?」
「・・・よく意味がわからないです。 ファミィさん」


そう、と微笑む彼女は、俺にとって相当に危険な存在だった。
だが、下手に手を出すことは許されない。


「はい、これは領主さまからのご褒美よ」


で、これは私から、といくつかのサモナイト石を受け取って礼を言った。
貴重なサモナイト石をくれるということは、少なくとも今は協力してくれるらしいが、どうにも安心できない。
それはミニスも同じだったようだ。


「さ、マグナ。 用事は済んだんだし、早く帰りましょ」
「あ、あぁ」
「ちょっとミニスちゃん? まだお母さん、貴女に用事があるのよ」


びくっとミニスの体がはねる。
あぁ、これはあのイベントが起こるんだよな・・・。 と遠いところに目をやりたくなった。
もちろん俺はミニスをかばうような真似をするつもりはなかった。
今も少しは被害から逃れようと、半歩ほど下がろうとしたのだが。


「いや〜っっ!! カミナリどかーんはいやあぁぁ!!」
「なっ?!」


気付いたときには遅かった。
目の前には、見慣れた召喚の光。
後ろに引っ張られる力に、何がどうなっているのかを理解する前に、頭がスパークする。


「あ、あら? どうしてマグナ君に?」
「ちょっと!? ねえマグナ、しっかりしなさいよぉ!?」


遠くに声が聞こえるが、なかなか体の自由は戻ってこなかった。
ふっと、視界が暗くなる。
すぐに視界は元に戻ったが、ふらふらして気持ちが悪い。
できるだけ大きく息を吸って吐いて、吐き気をこらえた。






――まったく、だから嫌だったんだ。
あぁ、まだ頭がグラグラする。













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久しぶりに長いページになった気がします。
読みにくかったらすみません;;