「さっきのレイムさんの話・・・、ホントのことなのかな?」
レイムと分かれてしばらくして、トリスがネスティに口を開く。
みんながおそらく考えていたのだろう、全員の注意がその会話に向いた。
「デタラメだ、と、言いたいところだが」
ネスティも考えていたことなのだろう、彼の返答はスムーズだった。
右手で眼鏡を抑えながら彼はまだ思考をまとめているらしい。
「今の話で、黒の旅団が活動を開始した理由が説明できてしまう」
小さな声で、その狙いが聖女であるというのが、戦争に関係するのかがわからないが、とこぼす。
アメルに聞こえない程度のそれは、ぎりぎりで俺のところにまで聞こえる音量だった。
聖女とは言ってもたった一人の子供だ。 癒す能力であれば、召喚師をそろえたほうがよっぽどいい。
まぁ、本当の狙いは戦争をおこすことじゃないからな、と心の中で思って、じゃあ、とネスティに続きを促す。
「わからない。 ただ、彼の話を聞いて、余計な不安を感じているのだけは確かだな」
「心配すんなって」
重苦しくなってきた空気を振り切ったのはフォルテだった。
その顔に、不安や恐れなどのかげりはない。
「トライドラの兵士は精鋭揃いだからな、そう簡単に負けはしねーよ」
「そうそう。 たしかあんたはその街で剣を習ったのよね」
へえ、と一同が納得する。
どおりで、フォルテはその性格にも関わらず剣さばきは基本に忠実で、あまり冒険者らしくないものなのかと疑問の一つを解決した。
きっとお、物心ついた頃から剣の指南を受けていたのだろう。
「ん? とすると、フォルテ、君は騎士の家柄だったのか」
「・・・やべっ!」
これまたフォルテに似合わない単語が出てきた。
世話焼き体質だから面倒見のいい兄さんという立ち位置ならわかるが、厳格な騎士なフォルテっていうのは想像する気にもなれない。
だって騎士っていうのはあれだ、王族や国を守ってるっていうあれだ。
それだったら、逆にフォルテがわがまま王子で勝手に城を抜け出して旅をしているっていうほうが理解で・・・きる・・・が・・・・・・。
いや、まさかな? こんな危険に王族が紛れ込んだりなんあしたら国際問題になるしな、普通にありえないだろうさすがにそれは。
とか、内心あせっていたら、ネスティのおいうち。
「あの街の剣術道場は王族の指南役を務めるほどの名門なんだ」
えーーーー
雨が降っている。
さっきまでは少し曇っているくらいだったのに、今ではすっかり本降りの雨で、俺たちはびしょぬれになってしまった。
スルゼン砦・・・、もう中に、活気はなかった。
「おかしい。 ・・・人の気配がまったくしない」
「妙だな。 雨だとはいえ、入り口の見張りくらいいるはずだろう」
「そういえば」
腹の中がぐるぐるとかきまわされる感覚がする。
久しぶりに働く感覚がある。
空気だ。
重苦しい空気に、わずかな血の味が混じっている。
それはニオイの濃度は、一人や二人のものなんかじゃないということを示していた。
簡単には開かないはずの門が、開く。
その先に見える光景は、悪魔であるバルレルが思わず声を上げるほど、酷いものだった。
いたるところに倒れている死体。
悪夢のような光景に、身動きが一瞬取れなくなる。
パニックになりそうな一行のなか、冷静なカザミネが何かに気付く。
「この者たちの傷から判断すると、お互いに殺しあったとしか思えないでござる」
「殺しあうって・・・、一体なんでそんなことを!?」
わかるわけがなかった。 仲間割れした理由なんて、それでこんなこになる理由なんて、あるはずがない。
「これは早々に退散したほうがよさそうだぜ」
おぞましい空気がただよっているこの場に長くいたいと思う者はいない。
――何かが動く気配。
「キャアッ!?」
「誰だ!? 出てこないなら、こっちから行くぞ!!」
「ちょっとちょっと! 暴力沙汰はかんべんしてくださいってー」
思わず脱力した。
この場でこの声、しかも、緊迫感のない・・・。
「・・・パッフェルさん・・・」
「あれま? どうしてみなさんがこんな所に???」
それはこっちのセリフよ、とトリスが返す。
俺もそう思うよ。
まぁ、いつものことなんだろう。
「一体、ここで何が起こったんだ?」
「それが私もさっぱり。 突然殺し合いが始まって・・・」
身の危険を感じて隠れていたという。
どうやら、原因は彼女に聞いてもわからなそうだった。
「とにかく、急いでここから離れたほうがいいみたいだな」
さっきフォルテが言っていたことを再確認して、ここから出ようとすると、思わぬ・・・、いや、ある意味予想通りのところからブーイングが出た。
「えー、でも私、まだここで働いた分のお給料もらってないんですケド・・・」
「そんな場合じゃないだろう!!」
「いーえ!! タダ働きだなんて冗談じゃありません。 えぇ、ありませんとも!!」
金庫からいただいてきます!と、ドロボウ宣言して、パッフェルはもの凄い速さである方向へ走り出す。
さすがは金の亡者、というべきか?
数え切れない死体を目の前にして、完全に無視できるのは、職業柄慣れているのだろうか。
考えながら、姿を消していくパッフェルと、トリス、ネスティたちを見送った。
おそらくあっちのほうが、安全だろう。
残された俺たちは、トリスたちが戻ってくるまで砦から出ることもできず、ただ何かが起きてもいいようにできるだけ、一箇所にまとまってきた。
しゃべっていないと落ち着かないのか、ミニスが震える声でアメルにしゃべる。
「トリスたひ、どこまで行ったのかしら」
「パッフェルさん、ものすごい勢いで走っていっちゃいましたもんね〜」
そこまで遠くへは行っていないはずだ。 双子としてのマグナの勘か、俺の感じる気配が、そう確信している。
それよりも問題なのは、目の前にある。
ぺちょり・・・
小さく聞こえた音に、俺は体勢を低くして剣を構える。
軽口をたたける余裕は、外面にも内面にもない。
なにかにひきずり出されそうになる感覚が、俺を襲っている。
油断すると勝手に動きそうになる手を押さえ込み、完全に起き上がった死体をみた。
「なるほどね、こういうことか」
「な、なに落ち着いてるのよ!? こいつら死体なのよ!?」
構えながらどうするかを考える。 今回は、まわりを見る余裕がなぜかなさそうだった。
いっそ、つっこんで大暴れしてしまおうか。
できもしないことを考えて、小さく息を吐いた。
「ハサハ、行けるか」
「・・・ん」
「泣き言を言っている場合ではこざらんぞ! 倒さねば、拙者たちも奴らの仲間入りだ」
「・・・とはいえ、あんまり素手で殴りたくはない相手だね。 さすがに」
ハサハの魔力が高まっていく。
俺も手の中にある剣とサモナイト石を確認して、バルレルに合図した。
うごめく死体たちに放つ、ハサハの召喚獣。
そのすぐ後を追うように敵陣へつっこんだ。
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ようやく最初の悪魔と遭遇できました。
と、同時になんと記念すべき50話・・・、内容はそんなこと関係なしにバトってますが(笑