ファナンに戻って、体力も回復した俺は、街中へと出かけていた。
いつものように、個人行動なため、派遣の制服ではなく、シンプルな街の人と同じような服を着ている。
おかげで今日はあんまり視線を受けなかった。
案外あの制服はこの街において目立つらしい。
それでも、俺にまとわりついてくる視線はあったが、あえて反応せずに気付かないふりをしておいた。
何の気なしに裏路地に入ったときだった。
聞き覚えのある泣きそうな声と、せせら笑う下卑た声。
「ユエルの宝物、返してよォ!!」
「アニキ、これは結構な値打ちモンですぜェ」
「宝石なんて大そうなモン、オメーには似合わねーよ。 こいつは俺がもらってやらぁ」
まったく、アイツは見かける度にトラブってるよな。 もしかしたら主人公属性でもついてるんじゃないだろうか。
気配を押し隠し、獣耳のついた子供を二人がかりで囲む男の背後へ回り込む。
「ウウウ・・・」
「なんだこいつ、急に獣みたいに唸りやがって」
ユエルに気をとられた男はもちろん俺に気付かない。
隙だらけの男の手から簡単にペンダントを奪うと、ユエルに返してやった。
「マグナ!」
「な、なんだテメー!? そいつは俺たちのモンだ、返しやがれ!」
「返すでやんすよ!!」
男たちがわめくのが耳に入るが、相手するのもめんどくさいので放っておいた。
どうせ、大したことなんてできやしまい。
それよりも、ユエルに返したペンダントが気になって、返したはいいがそれを凝視してしまう。
「ユエル、そのペンダント・・・」
「この俺サマを無視するなぁ!!」
こちらは背中を向けているのに、襲ってきた男を見ることもせず、足払いをかけ、こけた背中に足を置く。
それだけでアニキと呼ばれていた男は動けなくなってしまったらしい。 所詮はチンピラということか。
そこまでされても実力差がわからないらしいチンピラは、わめきながら俺の下から抜け出そうとする。
もう一人が顔をひきつらせながらナマクラを構えた。
・・・本気でめんどくさくなってきた。 今までにここまでしつこいチンピラがいただろうか。
と、足元のチンピラを見下ろすと自分のズボンが目に入り、今日の自分の服装を思い出した。
あぁ、そういうことか。 なら。
「ユエル、それを返すから今だけ貸してくれ」
「え? あ、うん?」
目を白黒させているユエルから受け取ったペンダント、その中心についている宝石、サモナイト石に魔力を込めて、契約されていた召喚獣を呼びだした。
グアアアァ!!!!
「「ひいいいぃぃぃぃっ!?」」
中身はともかく、外見の凶暴さで思う存分チンピラどもをおびえさせたワイバーンは、何かを探すようにあたりを見渡す。
「さて、見て聞いて震え上がってわかったと思うが、俺は召喚師をしている。 それでも相手をするというのなら――」
タイミングよく、そこでチンピラとワイバーンの目が合ったらしい。
よくよく見れば、穏やかな目をしているはずだが、恐怖に支配されたチンピラにはそれがわからない。
「すみませんでしたああぁぁ!!」
情けない悲鳴を上げて、見事といえる逃げっぷりを披露した。
あれくらいで逃げるなら、ユエルにも勝てないだろうに、身の程をわきまえない奴らだ。
だからチンピラなんぞをしているのだろうが。
「さて、ワイバーン・・・、じゃなくて、お前はシルヴァーナだったか。 今のことは誰にもいわないでもらえるか」
「マグナ・・・、なにかあるの?」
不安を隠せない顔でユエルが俺に聞く。
何か、といわれればあるが、今回のことはそう大した理由でもない。
が、ただ俺が説明するのがめんどくさくなってきただけだ。
「大したことじゃない。 だが、知られると後がめんどうになりそうだからな」
主にシルヴァーナの主人とかに。
このことを秘密にしといたら、きっといいことがあると俺は嘯いて、まっすぐシルヴァーナと目を合わせた。
思ったとおり、そこには思慮深い、穏やかな瞳がある。
しばらくして、低い唸り声のような音がして、シルヴァーナは静かにその瞳を閉じた。
ユエルも、了承の意を示した。
シルヴァーナを元の世界へ還し、もっていたペンダントをユエルに返す。
このままミニスのことを教えて、パーティーに加えられるんじゃないかとも考えたが、それだけで終わった。
ユエルの目には、まだ人間への不信の光があったからだ。
俺に対しては助けたこともあってだいぶ信用されたみたいだが、それだけではパーティーに入れるのは少し無理があるだろう。
結局、俺とユエルはそのまま別れることになった。
「マグナ、ホントにありがとうね! 今度なにかマグナが困ってたらユエルが助けてあげる!!」
「うん、ユエルも何かあったら俺に言えよ?」
「うん、またね!」
走り出すユエルを見送って、俺も裏路地を出た。
遠目に目立つオレンジの制服が見えたが、気にしないことにした。
うっそうとした木々に日の光がさえぎられた森。
アメルの体調が回復し、全員の支度が終わると、すぐに出発し、西に位置する森へと足を踏み入れた。
遠くで獣らしき鳴き声がするのが、森の不気味さをかもし出している。
手分けしてアメルのおばあさんがいるという村を探しているのだが、ないものを見つけられるわけもなく、捜査は難航していた。
「?」
そのとき、レシィが何かに気付いたかのように動きを止め、ある方向へ顔を上げる。
レシィの変化と同じく、ハサハも耳をピクピクと動かした。
その様子に、トリスが気付く。
「レシィ? どしたの?」
「あ、ご主人様・・・。 なにか、燃やしているようなニオイがします」
「燃えてる? もしかしたら村があるかもしれない。 行ってみよう」
ネスティの言葉に反対する者がいるはずもなく、もしかしたらという希望をもって、レシィの案内する先へ向かう。
俺はそこになにがあるのかは知っていたが、なにも言わずに最後尾を着いていく。
「どうかしやがったか」
小声でバルレルが俺を伺う。
気になることは、あった。 だけど。
「・・・なんでもない。 行こうか」
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よし、ぎりぎり更新完了!!
いつも中途半端なところでとぎってすみません;;