主人が、その父親に呼び出されて中庭を突っ切る。
その途中、中庭を手入れする老人が、主人に声をかけた。
「おはようございます、ルークさま」
「おはよう」
深々ともともと曲がっている腰をさらにまげて、挨拶する老人。
たしか、名前は・・・・・・なんだったかな、興味がないから覚えてない。
だけどこの人のおかげで中庭が綺麗な状態にされている、そのことには感謝してやってもいい。
・・・なんて、そんなことを考えてるって主人にばれたら吹っ飛ばされるだろうな。
呼び出された部屋に向かう中、通り過ぎる使用人たちはみんな頭を下げたままなにも言わずに道を譲る。
主人はそれを当然と受け止め、気にすることも無く堂々とわき目も振らずに足を進める。
その後ろを、俺が続く。
気分は虎の威を狩る狐、だ。
・・・ということは、主人が虎で、俺が狐か?
いや、なーんかしっくりこないな。
もしくはモーゼ? いや、そんなに人だかりがあるわけじゃないけどさ。
むしろいたら俺が殺して頭数を減らすね、絶対。
主人が、ある大きなドア(ここの屋敷のドアはすべて大きいが)の前に着いた。
そのドアの前で警備をしていた男が、そのドアを軽くノックする。
「ルークか、入りなさい」
「はい、、来い」
「・・・・・・・・・・・・」
軽くうなづいて、開かれたドアをくぐる。
部屋の中には、主人の父、母、そして、師匠であるヴァンが机についていた。
「ただいま参りました、父上」
「うむ、席につきなさい」
言われるがままに主人は使用人に引かれた椅子に座る。
俺はその足元の地べたに直接座り込んだ。
――俺には同じ椅子に座る許可は出されていないし、これがいつものことだ。
「師匠! 今日は稽古の日じゃなかったですよね?」
「後で見てやろう。 その前に話しがある」
そう言って、ヴァンはダアトに帰還することを主人に告げた。
急なことに、主人は驚き、どうして、と問う。
机の上以上に頭を上げられない俺は、その表情を見ることはできないが、きっといぶかしげな表情と、困った子をなだめるような妙な表情を簡単に思い浮かべることができた。
それよりも、急にダアトへ帰ることになったのかが、俺としては気になる。
ぶっちゃけ、俺はこの男のことはどうでもいいと思っている。
主人は、この男のことを、どう思っているのだろうか。
上のほうで、会話はまだ続けられている。
俺がここにいる意味は、はっきり言ってない。
やることもないので、上で交わされる会話を流すままに聞いてみる。
ヴァンがオラクル騎士団の主席総長であることを俺は初めて知った。
ローレライ教団の導師イオンというのが、行方不明だという機密事項。
その導師イオンという者の捜索の任へつくために、ヴァンが帰還するらしい。
ルークが抗議している。
自分の趣味である剣の稽古がなくなってしまったら退屈で死んでしまうとでも思っているのだろうか。
「わがままを言うな、ルーク。 少しは辛抱することを覚えなさい」
「あなた! この子はさらわれたときに心に深い傷を負って、子供のころの記憶を失ってしまったのですよ! かわいそうだとは思いませんの!?」
いえ、シェザンヌ様。
それと、この辛抱とは問題そのものが違うと思うのですが、どうでしょう。
なんて、口に出せる立場じゃないし、俺にはその声さえないのだから、思うだけで何もしないけど。
それに、主人はこれでもいろいろと暇つぶしの方法を持っているのですが・・・俺苛めを筆頭に・・・。
「ですが、お屋敷に閉じ込められたこの生活は、けして恵まれた物でもないでしょう」
「そうだよ。なんで伯父上は俺を閉じ込めるんだよ。国王だからって変な命令しやがって、むかつくっつーの」
あぁ、主人。
人前でその言葉遣いはやめてって言ってるのに・・・。 あとで俺がしかられるんだから・・・。
もしかしてそのことをわかっててやってるんじゃなかろーか。 ・・・ありえる。 この人なら暇つぶしでやりかねない。
「それは兄上様がお前の身を案じておられるからですよ。けれどそれも成人の儀まで。後三年で自由になれるのです。もう少し我慢なさい」
あと三年、ね。
その三年の根拠はどこから来てるのか、そして、ほんとうにそのときになったら自由にしてくれるのか、問いただしてみたい。
それにしては、あんまりな教育の仕方じゃないか。
「元気を出せ、ルーク。 しばらく手合わせできぬ分、今日はとことん稽古につきあうぞ。 ――では、公爵。それに奥方様。 我々は稽古を始めますので」
・・・・・・いや、何も俺は言わないよ?
俺を除いた二人きりの稽古の時ならともかく、この第三者がたくさんいる中で主人を呼び捨てして、こんなに親しげ(というか気軽に)声をかけて・・・うん、何も言わないし、今の俺はそれ以前になにも言えないから。
先に立ち上がったヴァン、そして、主人がそれに倣い、俺も立つ。
許可を得てから、俺たちは退室した。
稽古用の木刀と、稽古後の服をダッシュ(でも屋敷内なので走るなんてことはせず)で取ってくると、中庭でヴァンとガイがなにかの話をしていた。
話の内容がなんなのか、俺にはよく聞こえない。
俺の斜め前を歩いていたルークの表情を見ると、わずかに眉を寄せていた。
なんていうか・・・・・・、まぁ、気に入らないって表情なことは確かだ。
「ルーク様!」
中庭へ入ると、急にかけられた大声に一瞬体が反応しそうになる。
声をかけてきたのは、朝にも見かけた庭師の老人だ。
こいつ・・・なんか、あせってなかったか?
というか、単なる庭師が自分から主人に声をかけていいと思っているのだろうか。
いや、主人には許されているのかもしれない。 主人は比較的誰にでも同じ態度(決してそれがいい態度とはいえないが)で接するから。
「何してんだよ、ガイ」
「いや、ヴァン様は剣の達人ですからね。 少しばかりご教授していただこうと思って」
「ほんとかよ? そんなふうには見えなかったぜ? ま、いいけどよ」
主人、それでいいのか? ほんとに?
あきらかに怪しいと思うのだけど・・・、まぁ、主人は主人なりに、何か考えがあるのかもしれない。
俺はあんまり思慮深くないから、その考えがよくわからないけど。
・・・わからないから、ストレスがたまるんだよなー。
「準備はいいのか?」
「大丈夫です!」
「じゃあ、俺は見学させてもらおうかな」
「・・・・・・・・・」
俺は主人の訓練の邪魔にならない程度、ぎりぎりに待機する。
使用人があんな風に見学・・・というか、すぐそばに庭師がいるのにそんな態度、許されるのだろうか。
まぁ、あの老人が誰かにこの様子を口外するようなことはないとは思うが。
まだ、いまいちここの貴族制度とかいうやつが実感できない。 一応知識としては習得しているはずなのだが、どうにも周りの態度がそれとは違いすぎて、これでいいのかわからない。
そんなことを考えながら、主人の稽古は始まった。
稽古の途中。
主人が技を習得したとヴァンに認められた直後、わずかな異変に、俺は気づいた。
すぐに主人のもとへ寄り添う。
ちゃり、と金属のこすれる音がした。
「・・・なにか、来る?」
ポツリと、小さな声。
きっと、俺にしか聞こえなかったであろう主人の言葉に、俺はますます警戒心を強めた。
そして、主人の言葉が現実となる。
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あれ、思ったよりも進まなかった・・・。
なんかプレイ中の私の思いをそのまま夢主が代弁してるって感じになってるような・・・(汗