「あれが・・・・・・海、なのか」
主人のその言葉に、視線の先を見ると、記憶とさほど変わらない海が見えた。
――世界が違っても、変わらないものなのだと改めて思う。
こちらの世界に来て、空も、山も、大地も、雄大なものは変わらない。
俺は主人に何もせず、ただ出発のための荷物を体に引っ掛けた。
そろそろ出発しないと、また日が暮れてしまう。
「とりあえずこの渓谷を抜けて海岸線を目指しましょう。街道に出られれば辻馬車もあるだろうし、帰る方法も見つかるはずだわ」
「抜けるったって、どうすれば・・・あぁ、川があるのか」
「さぁ、行きましょう」
・・・・・・ふっつーに俺って無視されてるよね。
しかも、なんか女の同行がすでに決定済みにされてるような気がするんだけど。
「ぁにぐずってんだ、。さっさと行くぞ」
・・・そして俺も、単細胞なやつだと思う。
少し、主人に名前を呼んで、振り返ってくれるだけで、認められて、必要とされてると感じて、嬉しくなってしまうなんて。
一瞬重く感じた体はすぐさまに軽くなって、俺は主人の脇に寄り添う。
――主人のおおせのままに。
少し上向きになった俺の機嫌は、すぐさまに地に落とされることになる。
移動して数十秒と経たないうちに、ある気配を察知したのだ。
すぐさまに姿勢を低くして、戦闘態勢に入る。
様子の変わった俺に、主人はすぐ気を引き締めた。
「どうしたの?」
「・・・っ、魔物か!?」
「えっ?」
さすが主人、大当たりだ。
俺も、こんなところで魔物を相手にするのは初めてなので、十分に注意してくださいね。
そう、注意したところで、視界の端にあった俺よりも背丈の高い草むらが不気味に揺れ始めた。
・・・この感じからして、ほぼ確実に俺なんかよりもでかいよなー。
少し現実逃避してみたくなる。
身長は、コンプレックスだ。
「・・・っ」
主人の息を呑む音。
書物の中で見た魔物を、現実に見て、恐れを感じたのか、驚いているのか、興奮しているのか。
・・・俺はそのでかさに驚いたんじゃないかと思う。
なんせ、いのししのようなのが、俺の倍はある大きさで、純粋な体重なら四倍はありそうだ。
一番近くにいた俺を標的にしたのか魔物は、一度、二度足踏みをして突進してきた。
「危ないっ!!」
甲高い女の声。
わずかに首をひねって主人を見れば、腕を組んで冷静に様子を見ていた。
フゴフゴと臭い息が顔にかかるのは一瞬。
少しだけ体をよじって刺さったら痛そうな牙をよければ、
衝突。
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更新に間が空きすぎてすみません。
んでもって数も展開も少なくてすみません。